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⑪ カルノ
年齢:41
性別:男性
身長:169㎝
一人称:僕
二人称:君
極み:雷の極み
(ルトより自由度が高いので、口から雷を出したり雷型を作ったりできる。極み使用中は本人が磁力を帯びるが、淋しがり屋なのが影響して引き寄せる磁力しか発生しない。)
現在はヴァサラ軍から少し遠い所にある山で、ヴァサラ軍であった事を隠しながら道具作成をしている。道具の値段は張るが、客の要望に合わせたオーダーメイドであるということや高い技術力に見合った値段。
大変気分屋で感情豊かなので、寝る前に、自分への手紙を伝書鳩に託し明日の自分へ届けさせる習慣がある。
覚えが早いのは長所、気分によってやる気が出たり出なかったりして、集中力がちょっと低いのは短所。
パートナーのルーチェとは週5〜6で会うくらいラブラブ。五番隊は、後任が育ってきたからと、その時は急にいなくなっていたルーチェを捜索するために辞めた。
(@なのはな様)
なのはなさんが描かれたカルノさんのお話あり〼。
こちらも併せてどうぞ → カルノの一日
軍を退役した先輩方は山の中に住みがちなのだろうか。
ヴァサラ軍から少し遠い場所にある山を、目的地に向かいながらジャンニは思う。
そんなに山ばかりという訳でもないこの国で、趣味でもないのに数週間で2回登山をしている人間はそういない気がする。
ウキグモのところに行った時はまだここまで暑い時期ではなかったし山道自体も影が多かった。時々肌寒く感じる場所もあるくらいだったが、真夏と言える今は木陰以外は太陽が痛いくらいだ。そしてルーチェのお使いでカルノに届けている「良い銅」はやはり金属で、抱え持つほどでもない塊がルベライト以上に重い。
これはルーチェさんが持っていくのは無理だったな。
カルノに会いに行くついでに本人が持って行く気だったようだが、13GIRLSから持ってくるだけでも大変そうだったのを見て、後で持って行くからと預かったのだ。
2人でいる時間の邪魔をしないようルーチェが帰るタイミングを見計らい、今日持って行くことにした。
本当はこんなに暑い日に行きたくはなかった。だが年に1〜2回ある、薬が全く効かない時期がそろそろ来そうだ。行ける時に行っておかなければ、いつ山登りなんかできない体調になるか知れたもんじゃない。
ちょうど木陰に岩を見つけたジャンニは頭上を覆う木々を見上げた。山や崖は得意分野だ。いつもなら木を渡り難なく小屋につけるのだが、残念ながら今はそこまで動けない。
岩に座るとどこからともなく現れたユオが横に丸くなり、木々の間からソルがやって来て肩にとまった。どうも2人に心配されているらしく、うまいこと人目につかないようにずっと付いて来てくれている。
「ユオまで来なくても良かったのに」
言うと、クーンと鳴き、頭をすり寄せて来た。撫でようとした時に、ふっと、意識が抜けるような眠気が来る。
頭を振ってなんとか目を覚ますと、心配そうに見て来る2人に言った。
「やっぱり座るとダメだね。これは今日持って行っておかないと明日は無理そうだ」
この体との付き合いも3年になり予感はあったので、カウンセリング予約はちょっと前から少なめにしていた。人事課にも伝えてあったので、ここしばらくは派遣業務にも行っていない。
家も多分大丈夫だろう。ユオとソルの食べ物は用意したし、冷蔵庫に入っているのは、それでカロリーが取れるという飲み物くらいだ。
そこまで考えたとき、ユオとソルが姿を隠した。カルノの小屋だ。
カルノは元々五番隊の隊長で、ジャンニの6つ上になる先輩だ。ルーチェの夫にあたり、少年のような容姿とギザギザとした特徴的な歯並びを持っている。本人自体はほぼ純人間なのだが、四代前くらいの先祖が半妖だったためらしい。
雷の極みを使うのだが、その使用方は非常に自由度が高く、極み技を出すのに必ず刀が必要というわけではない。というか刀は雷の威力ですぐボロボロになるので、素手での戦闘のためにジャンニはボクシングを教えていた事がある。
キックボクシングじゃなくてボクシングを習うのか?と思うには思ったが、結果的にはボクシングともキックボクシングともつかないものになっていたので特に問題はなかったなという感じだ。
自分の師匠に当たるマナワはかなりスパルタで、初期の頃は少しでも軸足がブレたり構えが崩れたりすると、動けなくなるまでその練習だけをさせられた。だがいつからだろうか。何をしても何も言われなくなった。
カルノを教えながら、自分の場合は型を覚えて崩す方が向いていたからそう教えたのだろうと思う時があった。「型がないのが型」という相手なら先生はどう教えるかと考えた時、絶対に不利になりそうなことのみ、それを相手がした時に伝えるようにした。
飽きっぽいが飲み込みが早いカルノは、ボクシングに限って言えば、戦場で補助的に使えそうなくらいにはすぐに上達した。
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玄関前から小屋を巡るように歩いていると、キッチン兼作業スペースである場所に出る。予想通りそこにいたカルノは、何かナイフのような、しかし形はナイフではないようなものを持っている。柄の部分も金属で、紐を通せそうな穴があった。
それを熱心に見て顔も上げないので、いることに気づいていないのかと思っていたら
「ねえ、これさあ」
と軽く投げ渡して来た。
「使える?」
投げられて来るナイフを見ると、鋭そうな両刃の武器だ。刃先を蹴り上げてナイフを回転させ、柄を掴み取って眺めてみる。
「変わった武器だね。柄の部分の輪のようなものは何かな」
敬語で喋んなと言われて以来、カルノとはタメ口で話すことにしていた。
「クナイっていう東の方のものなんだって。攻撃もできるけど、それで穴掘ったり輪っかに紐通して楔みたいに足場にしたり色々できるらしいよ」
足場にできるのはいいかもしれない。相手の刀を奪って使ったり肩や頭を足場にするには、まず対峙しなければならない。それが面倒な時は多い。
「銅持って来てくれるってルーチェに聞いてたから、僕が持ってるよりはいいかなと思って」
「聞いてたんだね。私にはよくわからないけど良い銅らしいよ」
話ついでに担いでいた袋を地面に置くと、早速開けて中を見ている。
「そういえば、七福から預かったものも中に入ってると思うけど」
と言いかけたが、言う前に見つけたようだ。
苦虫を噛み潰したような顔になっているので何かなと見てみると、『請求書』と書いてある。
…おい、何を持たせてくれてるんだ。
自分が請求してると思われたら嫌なので、
「私じゃないよ」と言い訳がましく付け足したら、
「わかってるよ」
と憮然とした表情のまま、近くの焚き火跡に投げ入れた。
「今から湯沸かすけど、なんか飲む?」
普通は冷たいものを勧めるところをなぜか温かいものを飲ませようとしているのは、もうこれに火をつけたいのだろう。
暑いし全く欲しくはないのだが
「…じゃあお茶でも…」
とジャンニは一応答えた。
夏の真昼間の焚き火は熱すぎる。
ちょっとここから離れようと、ジャンニはクナイの手への馴染み具合を確かめながら玄関前に移動した。
山ということで木だけは周囲に豊富にある。手近なところで、見える中では一番大きな木に投げ刺してみた。もう少し力を込めて投げれば良いようではあるが、クナイ自体が割と重量があるおかげか、近寄って確かめるとそれなりには深く入っている。
いけそうかな?
目の高さに刺さったクナイの強度と刺さり具合を確認してから距離を目算する。少し離れたところから勢いをつけてクナイに足をかけ、樹幹に跳び入った。
なるべく高く跳びあまり体重をかけないようにしたつもりだが、クナイは木肌を抉り取りながら地に落ちてしまった。だが地面から直接跳躍した時に手がかけられる枝よりは2〜3枝高いところに位置を取れる。
悪くない。が、いちいち落ちていたら、武器を回収するのが面倒だ。あと足がかかる場所はもう少し欲しい。
ちょうどお茶を入れ終わったカルノが、キャンプで使うような金属カップを両手にこちらに回って来た。声が届きそうな辺りに来たので話しかける。
「攻撃には使わないから、抜けないぐらい深く刺さっても良いかな。でもそうなるとこれ一つじゃ足りなくなるか…。これに体重をかけるのは難しい気がするから軽く経由するぐらいの足場になると思うんだけど、もうちょっと長くて弾力があると使いやすいと思う」
どう使うかシュミレーションをしながら一気に話していると、眼下に近づいて来たカルノが
「どこから話してんの?」
と見上げている。
確かにこれだけ上にいれば、葉と枝に隠れて見えにくいだろう。いくつかの枝を渡りちょうど目の前に飛び降りると、驚いて笑った。
「確かにこれは怖いね。どこいるかわかんないのに、急に目の前に現れるんだから」
「私の場合、極みが攻撃補助でも強化でもないから結局肉弾戦になるからね。姿ぐらい隠しておかなきゃすぐやられるよ」
臨時の隊長や副隊長として戦闘の補助的な部隊を率いることもあり、その際は基本的には極み技で足止めをする。さらに、警戒はどこか上の方から行っていて敵は個人的に各個撃破してるとなると、「そういえばこの隊の隊長は誰だった?」となっていることも多いのではないだろうかと我ながら思う。
カップを渡して片手が空いたカルノは足元に落ちるクナイを拾った。
「まんま鉄だよね。もっと軽くて丈夫な合金にするよ。食い込んだら抜けづらいように、ノコギリみたいにセレーションつけた方がいいかも」
普段はオーダーメイドで色々な道具を作っているカルノだが、武器を作ることもある。
お茶を飲みながら隣に並んでいると、ルーチェの話をずっと聞いていた頃を思い出した。
同隊でもなく神将名を戴くわけでもないジャンニは、全体会議があったとしてもカルノと会話を交わす機会はほぼない。
なのにこの先輩はとても人懐こく、時間がある時のルーティンとして各隊を見回るジャンニを見かけると、頻繁に話しかけに来てくれた。
そのうち共通の知り合いであるルーチェとの話題も多くなったが、それは恋愛相談というよりは、ほぼカルノがルーチェの素晴らしさについて語る会だった。
だが、全然嫌じゃなかったのだ。
ジャンニを見つけた時にパッと明るくなるカルノの表情を見ると、こちらも自然に笑みがこぼれたし、同じ話でも何度でも楽しそうに話す幸せそうな笑顔も好きだったし、その一種の無邪気さは、そしてそれが先輩のものであることは、重い話を共感しながら聞き続ける仕事の合間の癒しだった。
けれどカウンセラーの部分が反応することもあった。
その日の話題も尽き、じゃあと別れる瞬間ふっと心が寄るような時。感情が揺られてさざなみ立ち、波の隙間から自分の心の底が見える気がした。
それはつまり、カルノの心の底でもあったはずなのに、カウンセリングではないからと、いつもまた波の下に沈むに任せていた。
それが山道を下り降りているジャンニの中で今はっきりと見えたのは、だんだん回らなくなりつつある頭のせいだろうか。
あれは「淋しさ」だった。
不意に足元から力が抜けて、側の木で体を支えた。
繋がらない思考の隙間から、気持が解かれながら溶け出して来る。
目の前に人がいるのが、家族が増えることが、親しい人が増えるのが淋しい。
持っているものは、いつかなくすものだから。
その大きさは、淋しさの大きさだから。
木の根元に座り込むと呟いた。
「気づきたくなかったなあ…」
それなのに、手に入れたいと思った私は何なんだろう。
もう手に入れ過ぎてしまった私はどうすればいいのだろう。
寄り添ってくれるユオと目の前を飛ぶソルが心配そうで、2人を撫でながら声をかけた。
「大丈夫。まだ動けるよ」
安心させるために、ちょっと笑ってみる。
「さあ、行こうか」
木に手をかけて立ち上がると、先導するように2人が前に出た。
歩きながらカルノに話しかける。
あの時私は、ちゃんと心の底に潜って正体を確かめるべきだった。あなたの本質にある淋しさを心に留め置きながら話を聞ければ良かった
そして、今更になってしまったが、私は聞きたい。
「カルノさん、あなたの淋しさは癒えましたか?」
→ ⑫ ソラ