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花調酔之奏(はなしらべよいのかなで)〜花酔譚

夕月さんが書かれた、素敵なウキグモさんのお話から書かせていただきました!
夕月様の元のお話はこちら→ウキグモ外伝⑤―副隊長就任初任務編―


幕間其の二〜ウキグモ外伝⑤―副隊長就任初任務編―

 あぁ、ったく!どうせあいつぁまた無茶してんだろ。

 悪態をつきながら、ハナヨイはウキグモを探していた。二番隊の持ち場はまだヤマネコ構成員を排除し切ってはいない。だがアサヒ隊長もイブキもいるので、放っておいてもすぐにカタがつくだろう。それよりも、帰って来るのが遅いというウキグモだ。

 繭に教えてもらわなきゃ危ねぇ所だったよ。ホントお前、変な女にばっか捕まってねぇで、さっさと繭と付き合っちまえ。

 繭は確かに無茶苦茶なところもある。だが押さえるところはきっちり押さえることができるしっかり者だ。
 空を飛べたり高所で待機できたり等、上から俯瞰できる隊員は、今救助に奔走している。その忙しい最中さなか、いっとき会話を交わしただけの相手の帰還の遅さに気づき、余裕がありそうな相手に伝えることができるのは全体が見えている証拠だ。
 普段はしっかりしてるくせに、一旦スイッチが入ると1つのことに集中してしまう所があるウキグモとは良い組み合わせだと、ハナヨイは常々思っている。

 ってもあいつら何の意地なんだか、仕事の同僚ってセンを譲らねぇんだよな。ここは仲人ぶってるメイネの奴にでも、一つ骨折ってもらわなきゃなんねぇかな。

 などと思っている内に、繭がウキグモと話したという場所についていた。

 戦闘中の緊張感もあり、目隠しをしているハナヨイは今、普段に増して感覚が鋭い。ついた瞬間に、そこの空気が少し重いことに気づいた。
 水分を扱うウキグモの極みは周囲の湿度を少し変える。極みを使ったかどうかは分かりやすかった。自然にできる水分と極みでできる水分は、何となく質が違う。
 とは言え、極みを使ったとしたらしばらく前だったのだろう。空気の重さはわかるものの、それが雲の極みの影響であるとまでは、はっきり断言ができなかった。
 わかることは、極みを使ったのならその後どこかに移動したこと。そしてそれは、湿度が残る程度の前だったということだけだ。

 ここから離れたのは5分か10分くらい前ってぇとこか。繭の視界が届かねぇ場所となりゃ…町外れにでも向かったか?

 アテをつけ、音がより少なくなる方へと移動する。
 極みに伴う水分が空気中に薄っすら漂いだすと同時に、風に乗って声が聞こえて来た。人数は十数人。知っている声はウキグモだけだ。ヤマネコ構成員に捕まっているらしき娘の叫び声に続き、ウキグモの声がする。

「自分が掴みかけた幸せを、諦めるな……! 人は皆幸せになる権利があるだろ! 誰かに奪われていいもんじゃない。奪われない為に、俺たちがいる……!」

だがその声を聞いた時、ハナヨイは気づいてしまった。

 あのバカ…っ。何か薬使われてんじゃねぇかよ!
話し方も声の響きもいつもと違う。
 おいおい、変な毒薬とかじゃねぇだろうな?
空気中に薬物の気配はない。とすれば、おそらく武器に塗られていたのだろう。民間のゴロツキでも手に入りそうな薬で武器に塗れそうなものが、いくつか頭に浮かんだ。今のところ何とか応戦しているウキグモだが、あまり動くと薬の回りも早くなる。
 さっさとあいつの動きを止めねぇとな。
考えたハナヨイは、

「そういうこった。こんな外道に奪われていい道理はねェってこったァ!」

注意を惹きつけるために大声で言った。舞台仕込みの声帯だ。目論見通り5人ほどの構成員が向かって来る。
調しらべの極み『拈華微笑ねんげみしょう』……的了拶 一円相!!」
急所を攻撃する「的」、無痛無感覚の斬撃を与える「了」、斬った相手の極みの属性を刀に溜める「拶」で、刀が届く全体を攻撃する「一円相」。唱えた言葉はコマンドのように、ハナヨイの体を無意識の内に動かした。

「遅くなって悪ぃな、ウキグモ」
「カナデ! 助かった……」
声をかけて返って来た口調はやはりいつもとは違う。しかし息遣いの変化がないところをみると、命に即座に関わるような薬ではないらしい。

 あいつもそろそろこっちに来るんじゃねぇか?
思っていたところに、予想通りメイネもやって来た。
もののけの極み『あか……斬血!」
攻撃と共に敵の叫びが聞こえ、貫き切り裂かれる音がする。
 あぁあぁ。まーた血だらけの剣山の塊みたいなのができてんだろうよ…。
叫び声が消えた後も、男の体の血が鉄分から刃を生み出す微かな音が、しばらくハナヨイには聞こえていた。

 捕らわれていた娘を避難所に案内するメイネを見送ったウキグモは、気が抜けたのか地面に膝をついた。その肩を支えたハナヨイは、直に体に触れたことで、使われたのは痺れ薬の類だとわかり安心する。
 俺らが来てなかったらどうなってたことかと死ぬほど文句を言いたいところだが、痺れ薬でも体全体に回ると内臓が動かなくなることもある。できるだけ早く傷の手当てをした方が良いと、気持ちをグッと抑えて言った。
「さ、お前さんは治療してもらってこい。あとは俺たちでやっとくから」
「ああ……、悪いな」

 こうやって助かったとか悪いなとか素直に言いやがるから、なかなか文句も言い辛ぇんだよな…

 思いながらため息混じりに周囲を見ると、救助部隊の隊員たちがちょうど探しに来たところだった。怪我の状態を軽く説明してウキグモを引き渡したハナヨイは、そのまま現場に残って死体の処理を手伝った。

 その後、治療所でウキグモと再会したハナヨイが、芝居がかった身振り手振りと共に「ウキグモの口説き文句」を繭とジャンニとメイネ相手に大いに語り倒したのは、ちょっとした腹いせだ。
 だがそれは、治療所の皆にも見られていたらしい。
 その後しばらくウキグモは、尾ひれ背びれに胸びれさえついたセリフと共に、街の人々にまで声をかけられるハメになったということだ。


花調酔之奏はなしらべよいのかなで 幕間其の三〜旧隊長初任務:四番隊隊長『麗神』オルキス

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