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⑬月

隊員名:月(ツキ)
年齢:20代後半位(外見18〜22)
性別:女
所属:緑さんの警邏隊(四人副長の1人)

極み:月の極み(守り癒しに優れている。攻撃面は弱め)
刀の色:刀・弓(銘:氷輪)共に白色。

仲の良い隊員:緑さん、ハズキ隊長
因縁のある敵:なし

その他
 ソラのお姉さん、ソルの師匠。
 あの子の最後の1つと同じ半妖だが、半妖は使いたくないと思っていて、その理由については弟のソラは墓場まで持っていくことにしている。普通の強さ的には副隊長レベル。長生き。優しすぎる。目がいい。妖艶さがある美人。
 ちょっと天然だが、自分ではしっかりしてると思っている。甘味巡りが好きで自分でも作る。目を見ただけで誕生月がわかるという隠れた特技を持つ。
(@ユエ猫様)


風の塔〜夜景


 半透明なリボンが丸く絡み合っているような塔と、花の蕾のような円錐型の塔が一階部分で繋がっている通信塔はこの街のシンボルタワーらしい。
 その頂上に腰掛けて夜景を見下ろした。
 話に聞く科学都市とはこういうものかなと、ビルの灯りが夜空の星まで続いているような風景を見る。塔が建っているのは大きな人口湖の上で、下からは時折涼しい風が吹き上がった
 今はビルの合間に黒く埋没して見える土地は、日がある時は緑豊かな公園や自然の湖だったりするそうだ。この夜景の距離感からするとかなり大きそうな吊り橋が目の端遠くに見えるのだが、あの辺にはソラが義理の兄弟と共に経営する学園都市があるのだろうか。
 どういった仕組みかわからないが、この街は風で通信ができるらしい。それを中継するのが今いる塔で、この芸術的な塔の形もデザインというよりは風を掴みやすい形を目指しているということだった。

 蕾の塔には会社も住居も入っているのだが、今いるのは本当に塔の突端だ。
 立ち入り禁止という屋上に入り、更に整備士しか入らない天井のドアを抜け、登って来た。
「ソラから閻魔様になる話を聞いたから本を読んでみたんだよ。でもここはその本とはだいぶ違うなあ」
 座るジャンニの側には2人の人物がいる。1人は時々家にも来てくれる警邏隊の月で、白い弓と刀を持った綺麗な子だ。
 もう1人は帽子を被ったオッドアイの黒猫で、ロアさんと言うらしい。
 猫なのに高いところがあまり好きじゃないらしく、さっきから首が痛いほど振り返らなければならない背後から話している。
「私どもはあまり死なないのでわからないのですが、短命の種族などは、ここで一旦休む形になるということですよ。自分の好きなように家なども作れるようでしてね、私どもには分からない薄い箱のようなものを使って、音楽を作ったり絵を描いたりする者もいるようです」
 ロアさんの言葉に続き、月がハキハキと話す。
「ここにいると、昔あった嫌なことをだんだん忘れていくそうです。そろそろ別のこともしたいと思った時、閻魔様の所に行きます。今残ってる物の中から生まれたらする課題を選ぶのは必須ですが、あとはオプションで、性別や能力など、これも残ってる物の中から選びます」
 閻魔様の大きい仕事の一つは、この国に来る人たちが、選んだ課題をこなし終わったか見ることらしい。大きくて大変な課題をこなして来る人もいれば、前の人生で大変だったからと、簡単な課題を選んでこなして来た人もいる。課題をこなし終えていなかったら強制的に生まれ変わり、この国での滞在は数日ということになる。
 ジャンニも自分の課題は何か聞いてみたのだが、人当たりが良く陽気な現閻魔様は板状の何かを操作しながら、
「へー。そうか、なるほどー。あ、そうなんだ」
などと散々楽しんでいたくせに、
「本人に教えたら課題じゃなくなるからね。んー、まあ、いい感じなんじゃない?多分」
と、要するに結局何も分からなかった。
 しかも多分だもんな…。

 まあでも、このしょっ中死にかける体になって1つだけ良かったと思うことは、世界の作りのようなものが、うっすらと分かったことだ。
 自分と同じような人間がいる世界が薄紙を何枚も重ねているように存在していて、普段はその紙同士は決して混じり合わないが、物理的な体が動かない間、例えば睡眠中などは、そこを稀に通り抜けられる時があるようだ。たまにやけに鮮やかな夢を見た気がする時は、多分別世界の自分なのだろう。
 一枚の紙の中で自分が死んだらその紙は消える。何か事情があって消えそうになければ、ソラみたいに紙の間を移動できる能力がある者が問題を解決してくれる。
 そうして紙が最後の一枚になりその中の自分が消えると、この国に来るということなのだろう。だから紙のどこかの自分が相当に酷いことをしていれば、最後の自分が地獄に引き摺り込まれることもあるに違いない。
「しかし閻魔様をすれば、その実績でここに住めるんじゃないですかね」
 とロアさんが言った。
 この国では閻魔様は交代制ということで、前には何代もの閻魔様がおり、ジャンニがなる時には補佐をしてくれるそうだ。

ロアさん

 いい加減首も疲れたので、ジャンニはこの愛らしい黒猫を、ソラにするようにヒョイと膝に抱いた。
「ああ帽子が!」
と風に飛ばされないように帽子を守っているが、全然前を見ようとしない。
 空中に足を投げ出す形で腰掛けていたのを、そんなに怖いならと塔を向く形に座り直すとあからさまにホッとしている。
 ちょっと面白くなって来た。
「ロアさん」
声をかけると振り返る。それを帽子が飛ばないようにしっかり抱いて、座っている所から背面に倒れるように、空中に身を投げた。
「ちょっと、何するんですか!」
ロアさんは叫んでいるが、跳んだ本人としては、いつもとは反対に見える景色や、頭から足に少しずつスピードを増しながら抜けてゆく風が気持ち良い。
 半ばくらいまで落ちると、円錐形の塔からめくれるような形に作ってある屋根の一つが頭の数メートル下に見えた。なるべく衝撃を和らげるように膝を使って着地したのだが、そこまでしなくてもかなりフワリと下りられる。月が、トントンと軽い足音で後を追って屋根に下りて来た。
「風を掴みやすい形ということで、塔自体が風を纏ってますから、その浮力で体が軽く感じると思います。でもここだけですから、他の場所では気をつけてくださいね」
途中まではジタバタしていたのだが、最後はすっかりおとなしくなってしまったロアさんの顔を覗く。帽子は無事だ。
「怒ったかい?」
「あなたの腕の中しか見えなかったので、別に大丈夫でしたよ」と憮然と言った。
 フンスと鼻息も荒く帽子とネクタイを整えた割には腕から顔を出さず、
「そこに非常口がありますから、とりあえず中に入りましょう。ここはもう商業エリアのはずです」
と、声だけは厳格な感じで言った。
「そうですね」
答えた月が不思議な手つきで何かをすると、全く見えもしなかったドアが開いたようで、薄い白い壁にポカリと四角い穴ができた。

 穴を潜った先は、白銀の金属でできた、壁から天井まで丸みを帯びた廊下だった。それが塔の中心部をぐるりと囲むようだ。
 中心部を見下ろしてみると人工湖の水面が見えた。その水面下から、さまざまな光がライン状に頂上まで光り上がってはまた降りている。
これは美しいと見とれていると月が言った。
「今は夜ですから職員はいませんが、昼は何十人もの職員が管理しています。人型もいますが獣型の者もおり、転生を待つものや定住者など多様です」
 廊下の両端30㎝位は金網になっていて湖まで見下ろせる。ロアさんが腕の中から見下ろしているので
「ここは大丈夫なんだね」
と言ってみると
「部屋の中と外とでは全然違うでしょう」と言ってからはたと気づいたように「そもそも高所恐怖症なわけでもないですし」
と、強がりのような言い訳を続け、腕から脱出した。
 そのまま頭の上に乗って来てくれるのが嬉しい。何とも言えない愛嬌があり、会ったばかりのロアさんがもう既に大好きだ。
 ジャンニが横に並ぶと月は廊下を歩き出した。
「いつも弟のソラと、愛弟子のソルがお世話になっております」
透明な声で歌うように言う。月の声や話し方は、柔らかい布が耳を掠めていくように優しい。
「いや、ソラには私こそ本当にお世話になって。今回もソラのおかげで死ななくて済んだようなものだし、ヴァサラ軍の隊員も皆、何らかの形でソラには助けられてると思うよ。ソルも、なぜ私を選んでくれたのかわからないくらい良い子で、どこにでも付いて来てくれていつも一緒にいてくれるし、とにかくもう、何かして私を助けようといつも考えてくれててね。今も私のために修行をしてくれてるみたいで、無理させてないか心配だよ」
 来てくれた時からずっと気になっていたので、少し前の晩酌の時に、寿命について思い切って話してみたのだ。私がいなくてもイネスはいるからという話のつもりだったのに、それ以降、どうも色々な世界に行くための修行をしているらしい。
 まさかついて来てくれるという選択肢を選ぶとは思ってもみなかったのでもちろん嬉しいのだが、あんな話をして悪かったなという気持ちもある。

「そうですね、してますね」
と月はふふっと笑った。
「三千大千世界を移動する才能は誰にでもある訳ではないのです。あの子は元々才能がありましたが、あまり能力を伸ばす気がなく宝の持ち腐れだったので。私は、却って良かったかなと思ってます。ジャンニさんも、大事な人のためなら何でもできるでしょう?」
 それは、できると即答する。もちろん命もかけられるし、自分が死ぬことで誰かが傷つく状況なら、自分も皆も全てを救うと断言できる。
「そういうことですよ。心配なさらず。あの子は、「あなたのため」という目的で、自分のために頑張ってるんです」
 言ってから月は一瞬、口をつぐんだ。
無言の数十秒が過ぎてから、思い切ったように続ける。
「すいません。あの子たちの姉として師匠として、差し出がましいことを言います。弟が言っていたことを、あなたは知るべきだと私は思います」
 何のことかは分かった。
「私もソラも知っている。でもこれは、あなたが自分の目で確かめるしかない。そして、それには何よりも、ジャンニさん。あなた自身の信念がいるのです」
 もういいと、今は聞けないと突き放してしまったのは、確認したくないからだ。本当は、先生にとっての私は、私にとっての先生くらいの大きさがあって欲しいと思う。
 けれどそれを信じるためには、私が私の存在価値を信じていなければならない。
 …そんなことが、どうやったらできる?

「人は記憶でできている。記憶が積み重なり、錬成されれば魂になる。その、大事な魂を守る鎧が肉体です。でも見に行くのならば肉体から遠く離れなければならない」
過去のことを見に行くというのは人のルールに違反する、時を遡る行為だ。
 そんな行為を守るものがない状態で行った場合、見たものの記憶によっては魂が影響を受け、自分が自分でなくなったり、最悪戻れなくなったりするということなのだろうか。
「誰でも、自分が見たいものしか見ないものですから」
月がポツリと言った。

 おかしくなったり死んだりしそうなことは、きっとソラは勧めないだろう。それを、誰よりも優しい月だからこそ、敢えて言ってくれている。ソラも月も、その他の不死組も、自分の私利私欲のために話したりはしない。だから、知るべきだと言うのなら知るべきなのだ。
「君は…」
と言いさしたのは、それは甘えかもしれないと思ったからだ。けれど、他ならぬ月だから聞いてみたいのだと思い、続けて言った。

「月は、私はできると思うかい?」


→ ⑭

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