Diary 3
年齢:12
性別:女性
身長:145cm
一人称:私
二人称:あなた
所属:なし
家族構成:養父(ウキグモ)兄(アマネ)(両親は既に他界)
容姿
兄と同じ銀髪。肩にかかるくらい長い髪を持ち、頭の上にはアホ毛あり。
青く、クリクリと丸い目をしている。
人物
アマネの妹。唯一の肉親。10年前に親を亡くした為、あまり親の顔は覚えていない。毎日身を削って働いたり、頑張っている兄のために家事を1つずつ覚えていっている。少し過保護気味な兄には叱りつつも、ちょっとずつ貯めた自分用のお小遣いで兄のためにささやかなプレゼントを買うなど兄思い。
カスミとルベライト
ルベライトは、いつも持っているスケッチブックと12色色鉛筆を胸にギュッと抱え、ちょっと緊張していた。
なぜなら、ウキグモさんも牧師さんも行ってしまったからだ。まさか一人で残されるとは思っていなかった。
いや、一人ではなさそうだ。カスミという同い年くらいの女の子が、二人に手を振り送っている。この子と二人になるようだった。
あの子と二人…?
ど…どうしよう…
ルベライトは、大人は意外と大丈夫なのだが同年代の子どもが苦手なのだ。
だって全然ついていけない。
例えば、外で遊ぼうと言って皆が連れ立って教室から出てゆく。私も行かなくちゃと思って、机を片付けたり水筒と帽子を持ったりする。よし、と思って出てゆこうとすると、皆は遊び終わって帰って来ている途中だったりするのだ。自分では最高速に急いでいるのに、何でだか全然わからない。
授業でグループになって話し合うのなんか一番苦手だ。皆の言うことを聞いて、そうかそういう考えもあるかと思って自分も何か言おうとするのだが、言葉を一生懸命探している内に、もう次の話になっている。結局何も話せなくて、ルベライトちゃんは全然話さなかったねと言うことになる。
最後に、ランチが苦手だ。一生懸命飲み物を飲みながら、喉に詰まりそうなほど急いで食べてるのに、なぜかいつも一番最後になる。誰も食べていない中、一人ポツンとランチを食べていると、泣きたいくらい惨めになって来る。
いじめられたりする訳じゃない。でも、授業や運動でルベライトがいる時、皆が、「ああ、あの子がいるんだ。私たちのチームは最後になるな」と、内心思っているのが手に取るように分かる。
今日もあれができなかった、皆に迷惑をかけたと毎日思っていると学校に行くのが辛くなり、10歳くらいから学校にあまり行かなくなった。行かなくなると行くのにどんどん勇気がいるようになり、13歳になった今は数えるほどしか登校しておらず、しかも保健室登校で教室に入ったこともない。
学校に行かないのはおかしいことでもないし病気でもないよと牧師さんは言うのだが、自分では本当は毎日学校に行きたいと思っているのだ。
カスミちゃんが手を振り終わって振り返った。クリクリした青い目で銀髪が綺麗だ。頭の上に立っている髪があるのが可愛いくて、優しそうな子だなと思う。でも多分、私はトロいから嫌われてしまうだろう。
「何かしたいことある?」
ニコニコとして聞いてきてくれる。
ルベライトのしたいことなんて2つくらいだ。物語を作って遊んだり、その絵を描いたりすること。でもそれは一人でもできることで、カスミちゃんが答えてほしいこととは違うのだと思う。
外で遊ぶ?でも遊ぶと言ったって、何をして遊ぶんだろう。二人でできることって何だろう。もうずっと友達もいないから、何の遊びも思いつかない。
そんなことを考えている内にまた時間が経ってしまう。
どうしよう…何か言わなきゃ…
カスミちゃんは、答えをずっと笑顔で待ってくれていた。けれどしばらくすると、うんうんと頷きながら言った。
「そっか。ルベライトちゃんは街の子だから、こんな田舎じゃ何して遊べるかわかんないよね。じゃあ、友達の家に一緒に行こうか!」
明るく言って、スケッチブックと色鉛筆を抱えている両手から右手を取り、立ち上がれるように引っ張ってくれた。
わ!手を繋いじゃった!ものすごく久しぶり!
柔らかくて暖かい手の感触に、何だかとても嬉しくなる。
私、ここ好きなの。今住んでるとこより全然好き!田舎とか思わないよ。
そう言いたいのだが、どれから言おうかと思うと喉に引っかかって言葉が出てこない。
お友達の家…たくさんの子がいて緊張するかもしれないけど、カスミちゃんと一緒なら大丈夫かもしれない!
ドキドキはするけど、さっきより少しだけ、嬉しいドキドキになった。
「この子がウキグモさんのところに来てる女の子なんだ!」
カスミの友達の家には、同世代の女の子が3人いた。皆ちょっと日焼けをしていて良く笑って、学校の子達と全然違う。
「色白いねえ!」「ホワイトブロンド?すごい、初めて見た!」「綺麗な目の色だねえ、赤紫?」と口々に褒めてくれ、ルベライトが答えなくても4人でワイワイ話している。でも、なぜだろう。自分が仲間外れにされている気が全然しないのだ。
「街から女の子が来るのよって、皆に言っておいたの。会うの楽しみにしてたんだから。ねえ?」
とカスミが言うと、「ねー」と3人は口を揃えて言う。
こんなに誰かに待っていてもらえたことがあるだろうか。
いつも、「この子がいるのか、面倒だな」と思われてばかりなのに。
ルベライトは照れと喜びでちょっと顔が赤くなった。
「えへへ…嬉しい…」
自然と言葉が出た。
家族で事故に遭ったお家の子が来るよと聞いて、カスミは絶対仲良くなろうと思っていた。事故に遭ったなんてそれだけで大変だし、一人で来るなんて心細いだろうなと思ったからだ。
とはいえ、自分より一つ上ということだったので大人なのかなとか、街の子だから都会っぽいのかなと、一緒に遊べるかどうかちょっと心配はしていた。
だが実際に会ってみると、背もカスミと同じか少し小さいくらいだし、伏目がちでおとなしい女の子だ。何だか仲良くなれそうな可愛い子だなと思った。
お友達皆で一緒に遊ぼうと計画していたので、こういう子が来るよと伝えておいたのは正解だった。カスミが頑張らなくても、皆がルベライトに興味津々で、ルベライトも聞かれたことに一生懸命答えている。
愛想がいいとかハキハキ答えられているということではないのだが、皆が聞くことに丁寧に答えようとしているのがわかるので、ゆっくりでも全然気にならなかった。
そもそも、ここでは都会の子どもというのが珍しい。戦火に巻き込まれた後復興したという意味では比較的新しいし、街までも通おうと思えば通える距離で転校生もいない。それにそんなに大きな街でもないので、友達は生まれた時から大体同じメンバーだった。
そこに、都会生まれ都会育ちの女の子が来るなんて、もう、ちょっとしたアイドルのようなものだ。
フワフワのホワイトブロンドも、それを留める白レースの髪留めも、着ている薄ピンクのレースのワンピースも、カスミたちから見ればものすごく洗練されていて素敵だ。
農業を行わない都会の子は普段からこういう服を着るんだな…
そんなことを考えている内に、ルベライトは持っていたスケッチブックを開き、皆に絵の説明をしていた。
カスミも友達の後ろから覗いてみる。
描いてある絵は、例えば葉っぱがピンクで空が虹色であるような想像の世界のものだ。それが色鉛筆で何重にも色が重ねて描いてある。
控え目に言ってもとても上手で、色鉛筆はこうやって使えるんだと感心する。
「すごい上手だねえ」
皆が感心して言うのに、
「私は全然…お母さんは画家だから…もっとすごく上手」
とルベライトが照れながら答えている。
背景も背景だが、描いてある人物が着ている洋服も気になって、聞いてみた。
「この人たちが来てる洋服、不思議な形。ルベライトちゃんが考えたの?」
ルベライトは首を横に振った。
「ううん。ファッション雑誌を見て、いいなと思ったら着せてみるの。服見るのも好きだから…」
「ファッション雑誌!?」
と、カスミ以下3人の言葉が重なった。
それはもしかして、お母さんやお姉さん達が読んでいる、表紙も中もカラーの、あの本ではないだろうか。あれは大人が読む本だと思っていたのだ。それを、街では子どもでも読んでいるらしい。
「ルベライトちゃん大人みたい!ねえねえ、この服、襟の所どうなってるの?」
カスミが聞くと、ルベライトはカスミを見ながらスラスラと可愛い似顔絵を描いて、体も描きながらその服を着せてゆく。
「こっち側は端がリボンになってて、服のここに通して蝶々結びをするの。で、こっち側の襟を重ねると、ほら、花束の飾りをつけてるみたいになって…」
と説明してくれているが、カスミはそれよりも、こんなに簡単に可愛い似顔絵がスラスラと描いてゆけるのが凄すぎて、目を見張った。
「すごいね」
心の声がそのまま口に出ると、他の3人も頷いている。
「うん。この服可愛いの」
「違うよ、ルベライトちゃんが」
言うと、
…え?
という、本当に驚いた様子で、ルベライトが顔をあげて皆を見た。
「だって、すごいよ。今日会ったばっかりなのに、すぐにこんな可愛い似顔絵描けて、洋服だってスラスラ描いて、こんなの私たちできないよ」
ねえ、とカスミが言って皆を見回すと、他の3人も頷いている。
これが?凄いの?
ルベライトはそんなことが褒められてびっくりした。
勉強ができる人はすごいと思うが、絵を描くなんて遊びだ。褒められるとも思ってなかったし、今まで誰もそんなことを言ってくれなかった。
「私も描いて」「この服がいい」と、皆がどんどん頼んでくれる。
ルベライトは泣きそうなほど嬉しくて、一生懸命皆の似顔絵と服を描いた。
絵を描くのが好きで良かったなと、はじめて思った。
まだ入院しているお父さんとお母さんに話しかける。
お父さんとお母さんがいないのは寂しいけど、私、ここでしばらく一人で頑張れそう。今日のことを早く伝えたいけど無理だから、たくさん絵を描いて持って帰るね。心配しないで早く治って。
でも、誰かにこのことを話したいなあ…そうだ、牧師さんに話してみよっと。