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出来る状態にある、という不幸
先日、出産しました。二度目の無痛分娩が痛くなさすぎて最高だったことや、産後、高血圧になって腹や頭の痛さでパニックになって死ぬ思いをしたことなど、書きたいことはあるけどそれはまたにします。
今日はちょっとしたお話。
産後二日目にして、母乳育児を諦めたときのこと。
一人目の母乳育児で、かくかくしかじか、散々な目にあっていた私。
今回は、よほど奇跡が起きて母乳がぴゃーぴゃー出るような事態にならなければ、早い目に母乳育児を諦めようと思っていた。
しかし母乳を諦めるというのは、私にとってなかなか心苦しいことで。
免疫など、母乳には赤ちゃんにとって素晴らしい成分がたくさん。その上、おっぱいをちゅうちゅう吸う、ふにゃふにゃの赤ちゃんの可愛らしさ、愛しさ。
へその緒が切れたいま、最後の生体的繋がりといえる母乳を断ってしまうなんて、赤ちゃんがどこか遠くへ行ってしまうような、そんな錯覚さえおぼえてしまう。
と同時に、四年ぶりに嗅いだ新生児の匂いは私に「母乳育児の辛さ」を思い出させ、なんとも言えぬ、あの、人肌とお乳の間のような、とっても貴重なとっても素敵な匂いを良い匂いと思えず、むしろ「ウッ…」と反射的に身構えてしまった事実に、いかに自分にとって母乳育児がトラウマになっていたのかを思い知った。
そして産後二日目。
初乳のようなものを飲ませ、いざ、ここからおっぱいが張り出すぞ、という段になって、背中に痛みが走った。ああ、これだ。母乳育児をしている間、ずっとついてくるこの背中の痛み。痛い、眠れない、もうあれをやりたくない。だめだ、もうやめよう。今回はなる早でやめよう。入院中に断乳薬をもらおう。
ああ、だけど。
複雑な気持ちに夜通し泣き続け、夫と電話をした。基本的には私の決断を支持するよ、というスタンスの夫に、「自信が持てない。決断を支持してほしい」と話すと、もちろん、その決断で間違ってないよ、正しいと思う、と返事が返ってきた。
いったん夫との通話を切り、部屋の窓を開けて、逆上せた顔を冷やす。そういや、noteメンバーのおすすめエッセイ本を持ってきたんだっけ。ヨシタケシンスケの「思わず考えちゃう」。
何となく、読みたいものを探しながら、ぱらぱらとページをめくると、こんな文字が並んでいた。
「幸せとは、するべきことがはっきりすること」
今の私のことかしら。
何か決まっていない状態、どうしようかな、あれもできるし、これもできるしなっていう状態は、不安がつきまといますよね。
(中略)
で、年取ってきて、いろいろ経験を積んで、いや、もう今からあれは無理だし、これもダメ。なら、俺、結局あれとあれしかできないよな、ってことは、これとこれだけやっとけばいいんだよなって思ったときに、すごく救われました。
だから僕にとっての幸せは、選択肢を強制的に減らしてもらうことだったんです。
そう、そうなの。
母乳という選択肢が、あるからこそしんどくて。はっきり断乳すると宣言して、薬で止めてしまって、「もう飲ませてはいけませんよ」という状態になれたら、どれほど私は楽だろうか。
「ないもんはないから、あとは持っているもので出来るだけのことをするだけ」
選択肢を強制的に減らしてもらえたら、私は前向きに頑張れる。身体が弱いこと、自分の出来ないことを認めたら、私は母乳を止めた自分に納得できる。完全ミルクを選択した自分を支持できる。
「もう母乳なんてやらなくていいよ。向いてないし。できると思うからしんどいんだよ。できないもんはできない。いい加減、受け入れなよ」
私はずっとそう言われたかったのだけど、それはきっと誰かに、夫に、選択肢を、可能性をへし折ってほしかったのだと思う。そうでなければ、頑張ろうとしてしまう自分がいるから。
そうか。
じゃああとは、「選択肢があると捉えるか、ないと捉えるか」の問題なんだな。自分のために、「母乳を止める以外に選択肢はありませんでした」と思い込むこと。それは悪いことではないし、そう出来たら、もしかすると私は、今よりももう少し幸せなのかもしれない。
きっとこのヨシタケシンスケのエッセイは、産後二日目の朝、こうして私を後押しするために、あのときあの場所で紹介され、入院かばんに詰められたのだと思う。
そうやって断乳を決断した朝、ドクターに断乳薬を出してくれと話すもうまくいかず、丸半日以上薬を飲むのが遅れ、無駄に胸がパンパンで痛くて痛くて、そのストレスを発端に血圧が爆上がりし、血管迷走神経反射で過呼吸パニック状態、「死ぬ!死ぬなら赤ちゃんのところに行かなきゃ…」なんて考えが頭をぐるぐるし、泣きながら震えることになるのだけど、その話はまた今度。
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