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「もうブラジャーしてるの?」と詰め寄られたはなし。

「ねえ、もみぢばはもうブラジャーしてるの?」

 校舎の隅に植えられたコニファーの陰に三人がかりで引っ張りこまれた挙げ句、そう問い詰められました。


 幼稚園児の頃からジブン時間を大切にし過ぎてコミュニケーション力が欠如していた私は、小学校を卒業するまで「いじられ役」という名のいじめられっ子でした。

 とはいえ暴力もカツアゲも集団無視もなく、せいぜいが「みねの菌」の押し付け合い、「人前で歌え」を始めとした道化の強要、放課後に家に押しかけて目を離したすきに妹のラムネを食い尽くすてい――いや最後のは普通に窃盗だな!?

 いじめの主犯格はお約束もお約束、クラスの女子のボスグループ。彼女たちに木陰に引っ張りこまれたときは何されるんだと戦々恐々としましたが(いじめはいつも教室内だったんで)、訊かれた内容に「なんだソンナコトかぁ」と呆気にとられました。

 あまりに昔のことすぎて何と答えたのか記憶してませんが、嘘は吐きませんでしたし彼女たちにとやかく言われることもなかったんで、私の中では「極めて平和的に終わった一件」となりました。


――コニファーの木陰の一幕で終わっていれば、ですが。


 その日の放課後、担任の先生に呼び出されました。

「みねの、お前○ ○たちに呼び出されて何を言われたんだ?」

 どうやら私がいじめっ子達に無理矢理引っ張っていかれたところを目撃されたらしく、先生の知るところになったようです。

 正直いじめっ子達に問い詰められたときより困りました。

 いじめっ子達は同じ女なので全く気になりませんでしたが、男である先生に対して「ブラジャー」という単語を口にするのはどうしても抵抗があったのです。

 よって私の答えは「べ、別に何でもないです」という怪しさ満点のものとなり、先生から解放されるまで些かの時間を要しました。


 当時は少々恨みもしましたが、今振り返れば先生はクラス内に発生した(と思われた)問題に真剣に対処してくれようとしたのであり、「みねのが中学に行ってもいじめられないか心配だよ」と私自身の将来も案じてくれた大変良い人だったのです。


 さて、その後いじめの主犯格たちは全員お受験に成功しましたので、地元の中学校に進学した私は主犯格に追従していただけの元いじめっ子たちと仲良く愉快な中学校生活を送りました。

 主犯に合格おめでとうと言った時は「あんた本気でそう思ってんの?」と疑われましたが、非常に心外だったので食い気味に「当たり前だよ!」と反論しました。

 中学卒業直後に小学校の同窓会があったので出席した私は、元担任の先生にツカツカと歩み寄り

「先生! 私中学でいじめられませんでしたよ!」

 と高らかに言い放ちました。

 後日人づてに聞いたのですが、「みねのが怖くなってた……」と先生がぼやいていたそうです。


 先生は全く悪くないにも関わらず、ずっとブラジャーの件を根に持っていて本当に申し訳ございませんでした。



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みねのもみぢば
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