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0から1を作るには?-6割は借り物、2割は不満、2割が思考

この間のことです。妻が家に帰ってきて本棚を見て「これはすごい! 自分で思いついたの?」と聞いてきました。

何の話かというと、一杯になってきた本棚(普通の本棚より奥行きがあるスチールラックですが)にもっと本を入れられるように、前後二段構えにし、さらに奥の本も見えるように直方体の発泡スチロールで10cmほど底上げしてみたのでした。

「なんだ、大したことないじゃん」と思う方もいるかもしれないし、実際そんなにすごいことじゃないですが、ただ妻の「自分で思いついたの?」という質問に、よく聞く「私は0から1を作るのは苦手なんです」という言葉を思い出して、そのことを書いてみたくなりました。

0から1を作るのが苦手、つまり(既にあるものを改善するのはできるけど)無から有を生み出すのは苦手で、でもそういうことがこれからの時代は求められますよね、というのは時々言われますし、そういう問題意識を持っている人はそこそこいそうな気がします。

でも、こういう言葉を聞く時「なんかちょっと違う」感じがします。確かに無から有を生み出すのはとても難しいでしょうし、僕もきっとできないと思います。しかし「無から有、0から1」と、この人たちが思っているものの中には、実はそんなことはしていなくて既にあるものを改善した/活用したものがかなりある、というかその方が多いのではないか、というのが僕の違和感の原因です。
 
その違和感についてなぜ書きたくなったかというと、そこでやっていることをちゃんと捉えることで、0から1、無から有ができなくとも、画期的なアイディア、少なくとも「よく考えついたねえ」と誰かに感心されるようなアイディアを出せるんじゃないか、と思うからです。自分自身について見ても、みなさんからかなりほめていただいたようなアイディア、例えば立教大学経営学部の1年生ほぼ全員で高校生たち(公募)を相手に授業を行う立教経営1Day Passportを考えた時もそうでした。ということで、前置きはこのくらいにして、本題に入ります。

0から考えない。アイディアは借りまくる

本棚の件について妻から「自分で思いついたの?」と言われた時、僕はどう答えたものかな、と一瞬迷いました。自分で思いついた部分もあるにはあるのですが、誰かのアイディアを借りたものも多かったからです。借りる方法は、インターネット検索ですね。かなり検索しました。つまり、0から考えたのではありません。0と1の間で言うと、確実に0.5以上は借り物です。

最初は、「本棚 あふれた」とか検索ワードを入れて、誰か良いアイディア出していないかなと探しました。検索結果もいろいろ出て来ました。「貸倉庫を借りる」「断捨離をする」「本棚を買う」等々...。この中のアイディアで解決してしまえばそれはそれでOKです。

ただ「0から1」を生み出しているように見える人はここで、普通よりワガママ/欲張りかもしれません。本棚の例で言うと僕の場合は、断捨離してもデジタル化してもスペースが足りないし、読み返したい本が目に入るようにしておきたいので貸倉庫はダメ、でも本でそんなにスペースを取りたくないから本棚を追加で買いたくはない、という感じです。そこで、さらに検索し続けました(またアイディア借りまくりです)。

不満はアイディア出しのヒントかつエネルギー源

しかし、やみくもに検索をしても良いアイディアにはなかなか当たりません。検索のキーワードを工夫する必要がありますし、その前に「良いアイディアに当たるように探すものをもう少し具体的にする」必要があります。そのために役立つのが、「不満」を活用することです。人によっては「違和感」と捉えた方がしっくり来るかもしれません。現状を見て何が不満か、どこに違和感を感じるか、より具体的に言語化してみるのです。

例えば本棚をなんとかしたいとじっくり見ているうちに僕は「そもそも本棚って、本の前後や上下にスペース余り過ぎじゃね?」と思い始めました。これは僕がスチールラックを本棚に使っているからというのもありますが、普通の本棚でもけっこうありますよね。本棚なのに本よりも空気の方が入っているような。

ちなみに本業の教育でも、先ほど少し触れた「受講生に高校生相手の授業をしてもらう」立教経営1Day Passportは、「受講生がもっと本気で学びに取り組むようにできるはずじゃないかな」という不満から生まれました。「とりあえず課題出しときゃいいよね」じゃ、もったいなすぎる!と思ったのです(自分が学生時代にどうだったかは棚に上げていますが笑)。

一方「0から1にする」のが苦手な人たちは、愚痴はこぼすかもしれないけど「そんなもんだよね」と受け入れてしまうか、そもそも不満にすら思わないのではないでしょうか(本棚に本を普通に並べて一杯になったら新しい本棚を買うか本を処分するか、大きな家に住めないことを愚痴る)。
 
そこをもう少し諦めが悪くなってみると、不満の向こう側に「目標」が見えてきます。
 ・このあいている空間に最大限本を入れたい!
 ・受講者が本気になってしまう授業を作りたい!
などなど。この程度具体的でぜひとも実現したい目標が、画期的なアイディアを出すエネルギー源とヒントになります。具体的なビジョンを考えるのが苦手な人ほど「理想」からスタートすると「受講者の成長に貢献したい」とか抽象的になりがちで、それだとアイディアを出すのにはあまり役立ちません。その点、不満は具体的にしやすいのが良いところです。0からじゃなく、不満からアイディアを出すわけですね。

「要は何ができればいいんだ?」で検索の質が上がる

本棚の話に戻ります。この、空気しか入っていないスペースを活用する方法はないのか? と検索結果を見ていると、スライド式二列収納の本棚が出て来て「良いかも?」と最初思いました。しかしサイズを見てみると文庫本やコミックなどわりと小さめの判型の本を想定していて、自分の用途にはちょっと合いません。あとせっかくスチールラックがあるのでそのまま活用できないか、というワガママもありました。 

そうやって出て来る案を次々却下?しつつ検索し続けていると、おもしろいものが出て来ました。百円ショップで売っている2段式コミックスタンドというもので、後ろの方がひな壇のように高くなっていて、後ろに入れた本もそこそこタイトルが見えるようになっています(写真)。コミック用だし幅が狭すぎるので直接は自分の役に立たないのですが、この「奥は底上げする」という考え方は使えます。この「要は何ができればいいんだ?」と考える部分が大事で、これにより検索の質がぐんと上がります。

百均で売っている二段式コミックスタンド

工作の得意な人ならサクサクと自分で底上げ用の台を作ってしまうのでしょうが、そうではない僕はそのまま使えるものがないか、探してみました。「本棚 底上げ」とかでいくつかのキーワードを試しながら探したように記憶しています。

すると、ボール紙で作った「ダンでスキット」という商品が見つかりました。さっそく入手してみると悪くありません(写真)。ただ、実際に本棚に入れてみると、後ろの本のタイトルがもう少し見えた方がなんの本かわかりやすい、つまりあと4センチくらい欲しい、と思い始めました。

奥の本のタイトルがみんな「リーダーシップ」までしか見えないとちょっと…

ということで探し始めたのは
・10cm×40cm×10〜15cm程度で
・軽くて丈夫な
・底上げ用台になるもの
です。実はダンでスキットを縦横入れ替えて二つ並べればちょうど良いサイズになったのですが、1つ1000円近くするので、もっと安くできるのでは?と、ここでもワガママになりました。その結果行き着いたのが、発泡スチロールを使うことでした。

もし妻の「自分で思いついたの?」という問いにある程度正しく答えるなら、6割は借り物のアイディア、2割は不満、2割が自分で考えたこと、というところかもしれません。ただ、たかが2割の思考、2割の不満でも大事で、それがあってこそ「自分で思いついたの?」と言われるアイディアに行き着くのでしょう。

なかなか見ないアイディアもこの流れから生まれた

もう一つだけ例を挙げます。最初の方で少し触れた立教経営1Day Passportを考えた時のことです。立教大学経営学部でリーダーシップ教育に携わっていた頃に「受講生が取り組む仕上げのプロジェクトとして、学んで来たことを高校生に教える」ことを思いついて始めました。高校生からすると大学生が授業をしてしまうオープンキャンパスで、300人を超える高校生相手に350人前後の大学生が84の班に分かれて60分の授業をします。
 
このアイディアを思いついたのは「受講生たちをホントの本気にするにはどうしたらいいんだ?」と考えていた時でした。「要は受講生をホントの本気にしたい!」と思い続けていたわけです。そこでたまたま近くを通りかかったSA(Student Assistant)の姿を見てふと「彼らは受講生だった時よりも熱心にSAの仕事に取り組んでいるしそのために勉強しているよなあ」と思いました。ホントの本気になっている学生の実例が目の前にあるなと。
 
そこでまた「それって要は何ができれば/あればいいんだ?」と考えました。そして「真剣勝負とか晴れ舞台とかにできればいいのでは?」「重要な任務を負っていると感じる環境ができればいいのでは?」と考えて、「だったら高校生を呼んで来て大学1年生たちが教えちゃったら?」と行き着いたのでした。

この企画は、いろいろな意味で効果が大きいと多くの方にほめていただきました。かつなかなか他では見ないものだと思います。でも上に書いたように、0から生まれたものではありません。「もっと本気にできるはず」という不満と、「要は何ができれば/あればいいんだ?」という思考、そして関連事例の発見から生まれました。つまり天才でなくとも、学習とトレーニングによって、ある程度できることではないかと思います。

(早稲田大学グローバルエデュケーションセンター 高橋俊之)


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