見出し画像

教習所と私のメンタルヘルス

 自動車教習所を卒業した。無事に検定に合格し、2カ月ほど通い詰めたスクールを、ついに卒業した。


 教習所に通う前は、世代の離れたインストラクターさんたちに変なことを言われるんじゃないかとか、そうじゃなくても長期間時間を取られることが嫌で、全く乗り気ではなかった。実際、いやだなぁと思うことを言うインストラクターさんもいるにはいた。けれど、基本的にはインストラクターさんたちとの会話も運転がめきめき上手くなっていく感覚も楽しくて、思っていた100倍はプラスな気持ちで通うことができたと思う。


私が教習所についてこうして書こうと思ったのは、こういう私の気持ちの変化も含め、最近の私の人生の中で、教習所に通ったことが特にメンタルヘルスにおいて結構大きな影響を与えたと感じていて、それを振り返りたいと思ったからだ。


 話は少し遡って、私は去年の10月から大学のカウンセリングセンターに通っている。留学から帰ってきて、就活を終え、実家ぐらしが続き、自分のセクシュアリティについて悩み…そんなあれこれが重なり、体にも異常なサインが出たし、精神的にも元気をなくしていた時期だった。その状態からかれこれ3ヶ月通い続け、先週のカウンセリングではようやく、「回復してきたね」とカウンセラーさんに言ってもらえた。自分でも、いちばん落ち込んでいた時に比べると随分明るい気持ちで生活できていると思うし、自分の心理状態を見つめることもうまくなったと感じている。


じゃあ一体なにがこの「回復」に作用したのだろう。カウンセラーさんと一緒に考える中で、10月から現在までの変化を思い浮かべた時、12月から通い出した教習所のことが浮かんだ。じゃあ教習所で何を経験して、それの何がプラスに働いたんだろう。そう考えると、私は自分の自信、あるいは自己肯定感のようなものがキーなんじゃないかなと思った。


というのも、3ヶ月のカウンセリングを通して、私が精神的に落ち込んでいた原因の大元には自信や自分への信頼の喪失があったのではないかと思っていて、「私なら未知の状況でもなんとかやっていける」とか、「自分のやってきたことには胸を張れる」みたいなかつて有り余るほどあった自信が、特に就活を通して砕かれた気がしていた。自分の信じているものや信じてきたものが何一つ通用せず、理解し合うことすらできなかった就活の経験は、私にとって衝撃的な傷になった。だから、自分の将来や未来を信じて想像することもできなかったし、大変なことはあるだろうけど、私ならなんとかやっていけるだろうと楽観視することが1ミリもできなくて、とても苦しかったのだ。


でも、教習所では違った。入る前は漠然と不安や恐怖があったけれど、入ってみると、インストラクターさんや他の教習生さんたちとの交流は楽しくて、私自身が、人と話すことや、自分と違う価値観を持っていたり、違う世代だったりする人たちと交流することがそもそも好きだったことを思い出すことができた。ほぼ大学の中だけの人間関係が続いていた中で、久しぶりに世代や人生のバックグラウンドが全く異なる人々との交流を得て、それがとても楽しかったのだ。不安だなぁと思っていても、ちゃんと楽しむことができてるじゃん!という気持ちが、また自信に繋がったんじゃないかと思う。


 ここまで書いてみて、すごく大げさに感じる人もいるかなぁと思う。私もカウンセリングの中でこの話をしたときには大げさだなぁと思ったけど、カウンセリングの中で気づく「自分の心理状態がどのようなことに影響を受けるのか」「どんな経験が私の心を苦しめて、あるいは和らげてくれるのか」といった要素は、全部がすごく些細なことだった。友達に何気なく言われた一言で気持ちが楽になるとか、逆に苦しくなるなんてのはざらにある。今回は、それが教習所での交流の経験だったのだ。


 正直、だからといって「不安でも経験しちゃえば楽しいから臆せずなんでもやってみよう!」とまでは思えていない。高校生の私なら思っていたかもしれない。でも、今の私はまだそこまでは思えない。それは、嫌だと思っていた就活がやっぱり嫌なものでしかなくて、私の人生や生き方の中で理解できないところが結局多いままであるという経験を鮮明に覚えているからでもあると思う。例えば、アセクシュアルとしてこの先の未来を生きることについても、「絶対なんとかなるんだし不安にならずに行こうぜ!」なんて全然思えず、今でも考え出すと怖くて不安でどうしようもなくなるときはある。それは、今後長い時間をかけて向き合っていかなくてはいけないことなのだろう。カウンセリングを通じても、自分との対話を通じても、周りの人との対話を通じても。


でも、教習所の経験を経て、自分が未知の世界に飛び込むことが結構好きであることや、人との交流においては自分を信じても全然大丈夫なことを、久しぶりに思い出すことができて、それがまた自信に繋がったのは事実だ。これに関しては、教習所に通うことに決めてよかったな〜と思える。楽しかったし。卒業がちょっとさみしい気持ちすらある。


今後私が経験することが、今回のようにプラスに作用するのか、あるいは就活のようにマイナスに作用するのか、それは結局経験してみないとわからないことで、自信の有無に拘らず大変なことはたくさんあるだろうなぁと思っている。でも、「私、結構やっていけんじゃん!」と思える経験を重ねていくうちに自信になっていくと思うし、自信があれば苦しいことからの立ち直りもきっと早くなるだろうし、そうやってどうにか生きてやるぞ!という心意気でいたい。みんなにも、自分のメンタルヘルスのことを、こうやって本当に些細なことを拾い上げながら考える時間を持ってみてほしいな〜なんてお節介なことを書いて、この文章を結ぶこととしよう。

いいなと思ったら応援しよう!