潮崎豪の300分6秒 第七章.12.6「I am noahは俺に勝ってから言え!」VS杉浦貴51分44秒
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※トップ画像はTwitterのフォローをさせて頂いている@TACK59089236さんの描いた絵です。
第一章.1.4「新しい景色は俺にしか創れない」 VS清宮海斗〜27分42秒
第二章.3.29「潮崎選手は漢です」 VS藤田和之〜57分47秒
第三章.6.14「これで負けたけどさ、俺次に進むよ」 VS齋藤彰俊〜29分22秒
第四章.8.5「 I am real noah」 VS丸藤正道〜30分56秒
第五章.8.10「正真正銘1番強いやつを決めようぜ!」 VS拳王〜60分00秒
第六章.11.22「出戻りチャンピオン!」VS中嶋勝彦〜42分35秒
第七章.12.6「I am noahは俺に勝ってから言え!」VS杉浦貴51分44秒
杉浦貴はもがいていた。それはもしかすると泥の中だったかもしれない。はたまた先の見えない暗闇だったのかもしれない。確かに丸藤正道というともに戦う、同じ志を持つ戦友はいた。しかし「三沢光晴」「小橋建太」という超えるべき壁を失い。そして「こいつにだけは負けたくない」ともいうべきライバルも2012年に失った。「あいつらをただではすまさせない」。2012年12月に杉浦はそう言った。言葉としては「あいつら」だが、彼が指していたのは「あいつ」だった。
2012年12月にノアを退団した潮崎豪。その潮崎の最後の試合が杉浦とのシングルマッチだった。プロレスの範疇ではあるが、杉浦はとてつもない怒りを顕にして戦った。「お前となら三沢さんや小橋さんを超える試合ができるじゃないか」「なんでお前までいなくなるんだ」。そこには杉浦の怒りだけではなく、悲しみも込められていたかもしれない。
一旦は途切れたかと思われた潮崎と杉浦の線。それは2015年に再び交錯することとなった。図式としては鈴木軍というヒールに所属する杉浦を、帰ってきたエース潮崎が迎え撃つという形ではである。しかし歴史遡れば、何があってもノアを守ってきたのは杉浦であり、「出戻り」の潮崎がベビーフェイスとして戦うという歪な図式でもあった。鈴木軍離脱後に潮崎と杉浦は戦っている。たが、試合のクオリティ自体は高くても「何かが足りない」という状態が続いていった。
時は進んで2020年11月。ノアを背負う覚悟を決めた潮崎に対して、杉浦が発したのが「I am noahは俺に勝ってから言え」である。これまで足りなかった最後のピース。「ノアの真のエースを賭けての戦い」がようやく実現する運びとなった。
潮崎はエルボーを、杉浦はチョップを。ともに相手の打撃に胸を張り、一歩も引かずに耐えつづける。時間が経過する程に激しさを増し、杉浦の五輪予選スラムや潮崎の豪腕ラリアットなど通常であればフォールを奪える技を打ち合う展開。30分が過ぎると、潮崎はダイナミックボム、ローリングエルボーなどを繰り出すが、「過去の技じゃない!」「お前の技を出せ!」と言わんばかりに杉浦は立ち上がる。
40分を超えても勝負は決しない。杉浦は切り札の雪崩式五輪予選スラムを狙う。トップロープでこれを堪えた潮崎。そしてここから雪崩式でリミットブレイクを放った。潮崎のとっておきのオリジナル技でも杉浦は倒せない。杉浦は潮崎のムーンサルトで攻め立てられるも、打撃戦で渾身のナックルを繰り出すなど、己の全てを出し尽くす。勝負が決まったと思われたが、今度は潮崎が立ち上がる。そして潮崎は渾身の豪腕ラリアットを続けざまに放ち、杉浦を轟沈させた。
「真のライバル」を、「自分の全てを出しきれる相手」を渇望した杉浦の想い。それらを潮崎は全て受け止めた。過去にあったわだかまりはもうない。そこにあったのは純粋に「相手に勝ちたい」という想いだった。2020年の潮崎豪の戦いを締めくくるに相応しい、この上ないピュアな戦いがこの杉浦貴との試合だった。
続く