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武藤敬司VS丸藤正道〜覚悟を込めたムーンサルトプレス

トップ画像は@shun064さんの作品です。

プロレスの試合評価が難しいのは、そこに「ファンの思い入れ」が強く含まれるからである。試合内容が高度だからといって、ファンに刺さる試合になるとは限らない。私は6.6サイバーファイトフェスでもそれを強く感じた。トリプルメインイベントの3試合。私が思い入れ抜きで選べば、「山下実優VS坂崎ユカ」の試合がベストマッチだった。特に試合終盤に見せた坂崎のシリアスな表情などは「思い入れがないファンにも刺さる試合」だったと思う。この試合の感想はどこかで書いてみたい。

しかし思い入れを込めたのなら?私はやはり「武藤敬司VS丸藤正道」を選ぶ。天才対決。三沢光晴を巡る対決。色々な観点があり、注目を集めたこの試合は、静かな立ち上がりから始まった。武藤は普段どおり、得意とするグラウンドのポジション争いから。足攻めをしつつも、上のポジションをとり相手に圧力をかけて体力を奪う。一方の丸藤もその領域に足を踏み入れ、序盤はグラウンド中心の展開となる。

両者が立ち上がっても武藤は丸藤の虎王を警戒し、常にドラゴンスクリューで丸藤を捕獲する。丸藤も武藤のシャイニングウィザードをやすやすと食らわず。中盤はお互いの出方を探りつつ、しかし武藤が次第にペースを掴み始めた。

足4の字で丸藤の動きを止めると、シャイニングウィザードを連発で丸藤へ被弾させる。更に不完全ながらエメラルドフロウジョンも繰り出す。それでも肩を上げる丸藤へ。武藤が選択肢したのはシュミット式バックブリーカー。観客がどよめく中トップロープに上がり、さいたまスーパーアリーナの天井に向かって舞い上がった。

既に膝を人工関節に置き換えている武藤にとって、ムーンサルトプレスは禁忌の技だ。その衝撃によって人工関節が骨を砕き、選手生命にも影響する。その決死のムーンサルトプレスも、武藤はすぐにはフォールに行けず、丸藤を沈めることができない。逆に大ダメージを受けた武藤に対して、丸藤はトラースキックと虎王のラッシュで攻めたてる。最後は虎王・零で武藤を陥落。見事にGHCヘビー級タイトルを奪取した。

武藤はかつて「俺のバイブルと潮崎のバイブルは違う」と語っている。潮崎のバイブルの源流に三沢光晴があることは確かだろう。言い換えれば「危険な技で相手を攻めること」は武藤のバイブルにはないはずだ。しかしバイブルの根底にあるものである「プロレスに全てをかける」。それはまさしく武藤にも存在した。三沢は危険な技の受身でそれを示した。武藤が見せた決死のムーンサルトプレスは、形こそ違えど三沢の見せた覚悟と同じである。

年齢により技が出せなくても。根底にあるプロレスへの献身性を、武藤はこの日の試合で見せつけた。それはもしかすると、90年代〜00年代を駆け抜けたラストランナーとしての矜持だったのかもしれない。だからこそファンとしてその年代を共有した私とって、この日の試合のベストは武藤VS丸藤になるのだ。

もちろん丸藤のコンディションとて万全とは言えない。歴戦のダメージは深いだろう。しかし武藤のムーンサルトプレスという未来へのバトン。そしてあの日の三沢光晴からの願い。これを受け取ったのだから。もう一度。いや今度こそ「真の丸藤正道時代」を創り上げてほしい。そして大きくしたバトンを、いつかの次の時代へ渡してほしい。

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