明るく・楽しく・激しく・「新しく」〜全日本プロレスCC2023〜芦野祥太郎悲願の初戴冠
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「これが呼び水になった!」とは言えませんが、全日本プロレスのCC2023年優勝者はAブロック代表T-Hawkを下したBブロック代表芦野祥太郎となりました。20年から全日本プロレスに参戦した芦野にとって。世界タッグなどタッグ戦線では活躍していたものの。シングルでようやく掴んだ栄冠。174cmとサイズの小さい彼にとって大型ヘビーの多い全日本プロレスのシングル戦線を勝ち抜くのは並大抵のことではありませんでした。大型ヘビーの選手に対してスピードや切り返しで対抗するケースの多い昨今。しかし全日本プロレスではそれで勝利しても「番狂わせ」にしかなりません。なぜなら「あんなに大きい選手が負けるわけがない」という空気があるからです。そして番狂わせでは「勝っても強かったのは敗者」となるので、本当の意味で時代を創ることは難しいです。
ですが芦野はリーグ戦から緻密に「説得力のある勝利」に拘りました。それがアンクルホールドです。自分より重くてデカイ相手を投げること。そこに説得力をもたせるのは中々に困難です。しかし切り返しで勝つこともまた番狂わせ感を崩せない。それならば「相手に負けを認めさせれば良い」。彼がそう考えたかは不明です。しかし少なくとも「アンクルホールドという相手からまいったを奪う形」には説得力がありました。アンクルホールドを武器に芦野は諏訪魔、石川修司という大型ヘビーの優勝候補を下し、優勝決定戦に進みました。
優勝決定戦の相手はT-Hawk。外敵でありながら全日本プロレスの象徴宮原健斗を下してAブロックを制覇。彼もまた「サイズ以外の武器を持つ選手」でした。大型選手こそ正義という全日本プロレス。そのシングル最強決定戦であるCC決勝をこの二人が争うこと。それはこれまでの価値観とは異なることでした。試合自体もT-Hawkの打撃や瞬間的なスピードを生かした攻撃。それを芦野は耐えて耐えての展開。リーグ戦を制したもう一つの武器が「サイズはなくてもどっしりとしたヘビー級の体を作ったことによる受けの強さ」であること。それをこの場で芦野は証明しました。そして最後は拘り抜いたアンクルホールドでT-Hawkからギブアップを奪い。完全な形で勝利を収めました。
「全日本プロレスの良さは大型選手のぶつかり合い」。そこを否定するつもりはありません。ぼくもそれは他団体と異なる個性であり失ってはいけないモノだと思っています。今回の芦野戴冠で全日本プロレスのそうした個性が失われるでは?と考える方がいるのもわかります。しかし芦野の勝利が劇的だったのは対角に大型ヘビー級の選手がいたからです。同サイズの選手とだけ芦野が戦っていたら?おそらく彼の勝利による劇的さはここまで高まらなかったと思います。全日本プロレスだからこそ芦野が勝ったことに意味があると私は捉えています。これは「大型選手のぶつかり合い」を否定するものではなく。「大型選手に立ち向かっていく試合」というもう一つの軸を作る実験ではないでしょうか?
全日本プロレスのスローガンであった「明るく楽しく激しいプロレス」。この言葉の後ろにはある時代以降「新しく」というフレーズが加わりました。私の捉える「大型選手に立ち向かう姿」は「新しく」に当たるものです。つまり今の否定ではない。それが今回のCCで感じたことです。
劇的な優勝を遂げた芦野ですが、残念ながら骨折のため永田裕志の持つ三冠ベルトへの挑戦は叶わぬこととなりました。永田が芦野の対戦相手であったT-Hawkを指名する中、ここにまったをかけたのは芦野のタッグパートナーである本田竜輝です。両者は5.18新木場で挑戦者決定戦を行います。本田が芦野の作った「新しい」という流れに乗れるのか?それとも外敵T-Hawkがそれを行うのか?中々難しい状況ではありますが、何かが起こる気配は今の全日本プロレスにあるといえるでしょう。