痛みの伝わるプロレス〜中嶋勝彦・プロレスリングノア〜
いよいよ優勝決定戦を迎えるプロレスリングノアのシングルリーグ戦N-1。10.11大阪の決勝戦に駒を進めたのは清宮海斗と中嶋勝彦です。たまたま中嶋勝彦についてツイートしたら思った以上に反響があったのがこちらの記事です。
こちらの本に書いてある中嶋勝彦のインタビューですが、今読むと彼がなぜ潮崎と離反したのか?なぜ今のようなキャラクターになったのか?が、おぼろげながら理解できた気がします。
中嶋はこのインタビューで「痛みを伝えられること」がプロレスの良さだと語っています。痛みを伝える。わかりやすく言えば技をかけて相手を攻める。もしくは相手の攻撃を胸を張って受ける。あとは流血戦なども、観客に痛みが伝わる方法でしょう。かつて中嶋は激しい打撃技などで、そうした「痛み」を伝えてきました。しかし今の中嶋は試合以外でも「痛み」を伝えています。そうです。「裏切り」ですね。タッグパートナーであった潮崎から突然の離反→拳王率いる金剛への電撃加入。当初は私も「なぜこのタイミングで裏切り?」と感じました。ですが中嶋が「痛みの伝わるプロレス」を目指しているのであれば理解できます。人から裏切られれば誰だって心が「痛み」ます。人から殴られたり、投げられたりしたことは無くても、ボタンの掛け違いなどから、人に裏切られ「痛み」を感じたことはあるでしょう。そうした誰でも理解できる痛みを、裏切りという行為によって表現したのではないでしょうか?
またインタビュー当時の中嶋は「シリーズにきちんとしたテーマをもたせること」にも触れています。確かに中嶋がGHC王者だったときはユニット抗争もあまり活発ではなく、防衛戦の相手も「その時々に声を挙げた選手」と戦うという形でした。つまり試合が盛り上がっても点で終わり、線にならない。単発の防衛戦を続けるだけになってしまうという状態です。奇しくも新日本の棚橋も「なぜ自分と相手が戦うのか?」、それを明確に伝えることができなければ、多くの観客を引きつけることができないと言っていました。
GHC王者潮崎は今年素晴らしい試合を連発しています。しかし防衛戦の相手を振り返ると「藤田和之」「齋藤彰俊」「丸藤正道」「拳王」。どれもユニット抗争なりから盛り上がっての防衛戦ではありません。あくまでも直近のシリーズで因縁が発生→防衛戦という形です。もちろんコロナ禍で興行数が組めず、シリーズで盛り上げて防衛戦を迎えるという形がとりずらい側面もあります。しかし一方jrではユニット抗争からの防衛戦という形が組めています。そしてそこからタッグ王座も絡めてシリーズを盛り上げることができています。
こうした状況を考えると「jrに負けない激しいユニット抗争」「個人闘争→ユニット闘争」という盛り上がりを考えて、中嶋が潮崎から離れたという考え方もできるかもしれません。実際に中嶋の裏切りの後には「潮崎の次のパートナーは?」「潮崎を救出した清宮の動向は?」「中嶋は金剛に加入したけど拳王の下に収まるのか?」といった話題が一気に広がりました。盛り上がりがきちんと線になっているといえるでしょう。
「良い試合をすれば観客はついてくる」これはノアの良い面と悪い面を両方表しています。中嶋がGHC王者だった時代はノアに体力がなく、今のような大々的なプロモーションも行えませんでした。中嶋も「良い試合」をしていましたが、それが集客につながらず厳しい時代でした。大切なのは「良い試合をしつつ、それを伝える」ということです。「伝える」にはもちろん「プロモーション」も含まれますが、「痛み」であったり「話題作り」だったりという部分も含まれます。前者についてはレスラー単独ではどうにもならない部分ですが、後者はレスラーのやり方で達成することはできます。
苦しい時代にGHC王者だった中嶋だからこそ、ノアの発展を考えて今のような動きで注目を集めようとしているのかもしれませんね。
※中嶋勝彦については、よろしければこちらの記事もご覧ください。
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