TimeTreeはいかに国内外でアプリをグロースしていったのか―ad:tech tokyo 2024参加レポート(2)
こんにちは! Molocoです。「ad:tech tokyo 2024」のMolocoブースで開催したオリジナルセッションレポート第2弾です。アプリビジネスを営む方の最大の課題は「サービスの価値をいかに向上し、グロースさせていくか」という点に尽きると思います。そこでオリジナルセッションでは、2024年4月には全世界登録ユーザー数5500万を超えたカレンダーシェアアプリ「TimeTree」を開発・運営する株式会社TimeTree 代表取締役社長/最高経営責任者CEO 深川泰斗氏をお招きし、グローバル市場におけるグロース戦略やサービス価値向上への取り組みを伺いました。
カレンダーシェアアプリ「TimeTree」はこうして生まれた
2015年3月にリリースされたカレンダーシェアアプリ「TimeTree」。2024年に5500万ユーザーを突破しました。ユーザーの半数以上が海外ユーザーであることもさることながら、1カ月に約100万ユーザーずつ増加しているという成長スピードにも驚かされます。
TimeTree 代表取締役社長/最高経営責任者CEOの深川泰斗氏は「スケジュールをシェアするアプリなので、1人で利用する方はほとんどおらず、家族や友だちと一緒にインストールするため増加ペースは伸びていきます」と説明します。
そんなTimeTreeは、「コミュニケーション・ソーシャル領域で新しいプラットフォーマーを目指したい」と考えていた深川氏、そしてTimeTreeの共同代表である朴且鎮氏によって誕生しました。2人の出会いは、当時ヤフー(現LINEヤフー)が出資していた韓国のインターネット企業であるカカオジャパンです。当時はメッセンジャーやチャットアプリが大人気で、カカオジャパンもカカオトークというメッセンジャーを提供していました。
ヤフーでソーシャルコミュニケーションサービスの企画を担当していた深川氏は、メッセンジャーが普及した後に、どんなサービスが必要だろうか考えました。深川氏はヤフーでカレンダーサービス企画の経験もあったため「情報やコミュニケーションがタイムラインとして流れて“見て終わり”になるのではなく、ストックできて、実際の行動を促すことができる価値が出るのでは」という仮説の下、「カレンダー ✕ コミュニケーション」という切り口でTimeTreeをリリース。「グループカレンダーに予定を登録したらほかのユーザーからリアクションがもらえる」といったように、「予定を登録する」行為をコミュニケーション手段として設計したところ、家族間での利用が広まり、ユーザー数が一気に増加したそうです。
カレンダー/スケジューラーは、プライベートで使うものから、仕事・グループで共有するものなどさまざまありますが、TimeTreeは「プライベートで共有して使う」というオンリーワンのポジションを確立。こうしてユーザーを拡大し、現在は法人を対象にした「広告配信事業」と、ユーザー向けには広告非表示で利用できる「TimeTreeプレミアム」というサブスクリプションサービスの2軸で事業を展開しています。
カレンダーならではの特徴を活かした広告商材を展開
そんなTimeTreeの広告事業「TimeTree Ads」は、カレンダーならではの特徴を活かした商品作りに強みがあります。「毎日確認する」というカレンダーの特徴を活かし、マンスリー面とデイリー面に広告を配信しているほか、予定作成完了画面にも広告枠を設けています。機能的にも「広告をタップすると家族カレンダーの予定に入る」というユニークな商材があり、映画公開日の広告などに適しています。
同社広告のもう1つの特徴は、予定データを基にしたターゲティングです。たとえば「テーマパーク」という予定を入れると、その下にホテル予約の広告が表示されるといったように、ユーザーの予定に基づいた提案を行うことで、広告効果の向上が期待できます。
最近注力しているのは「公開カレンダー」という機能です。タレントやアーティスト、または店舗などがライブやセールのスケジュールをTimeTreeで公開できる機能で、公式アカウントをフォローするとユーザーのカレンダーにライブやセール予定が自動登録されます。
楽天ではこの公開カレンダーを活用してセールやポイントアップ期間を告知していますし、ABEMAは欧州サッカーの中継予定を公開してサッカーファンからのフォローを集めています。
海外市場のグロース戦略は「ユーザーに寄り添うこと」
そんなTimeTreeは海外でどのようにユーザーを伸ばしてきたのでしょうか。TimeTreeは現在13カ国語200の国・地域で展開しており、ユーザー数は上から米国、ドイツ、台湾、イギリス、韓国という順番で多いとのこと。ドイツでは欧州駐在の日本人の間で話題となり、次第に現地の人々の間で利用が進んだそうです。
ただ、国によってTimeTreeの使い方は異なるようです。日本とドイツは家族間での利用が多く、米・英は友人間、そして台湾と韓国では恋人・仕事利用が中心と言います。
TimeTreeの海外展開に当たり、深川氏は「大きく2つの戦略を取ってきました」と説明します。
1つは「プラットフォーマーと上手に付き合う」こと。たとえば米アップルは、毎年新技術やデバイスを発表しており、それらにいち早く対応することでプラットフォーマーの“推しアプリ”として選ばれやすくなります。実際TimeTreeは、リリースした2015年に日本・中国・韓国で「App Store Best of 2015」に選ばれており、2019年にはアップル CEOのティム・クックがオフィスを訪問するという快挙を成し遂げました。
もう1つは、「ユーザーに徹底的に寄り添い、ユーザーの言葉でアプリを伝える」ということ。「私たちがいくら説明しても、現地の方にしっかり伝わるかどうかわかりません。ユーザーを観察し、ユーザーの表現でアプリのことを伝えることを重視しました」と深川氏は語ります。
そこで同社では現地のSNSをウォッチし、TimeTreeを評している投稿があれば自動翻訳してSlackに流してデザイナーやエンジニア、プロダクトマネジャーに共有します。面白い利用法があれば、インタビューしてコンテンツ化し、ターゲットを拡張していきました。
米国では、アプリ内にアンケートを設置してTimeTreeを知ったきっかけをヒアリング。TikTok経由で認知が広がったことを把握すると、きっかけとなったインフルエンサーに連絡を取ってインターンに来てもらったり、アンバサダープログラムを開始して個々人のユニークな利用法を投稿してもらったり、ユーザー視点での発信を続けています。
アプリの特性を活かし、さらなる価値向上を実現
TimeTreeは、ほかのアプリにはないユニークなデータを持っています。それが個人の予定データで、TimeTreeは累積100億件以上の予定データを蓄積しています。
予定データがわかると、ユーザーの解像度が高くなります。「たとえば猫動画を視聴しているユーザーがいたとしても、その人が猫を飼っているかはわかりません。しかしTimeTreeで『獣医』などの予定が入っていれば、猫を飼っている可能性は飛躍的に高くなります。このように、予定データでユーザーのライフスタイルの解像度が上がるのです」と深川氏は説明します。
この予定データを分析したところ、さまざまなインサイトが見えてきました。たとえば「車の購入」の前には「保育園説明会」がよく登録されるといったように、子どもの成長に合わせてライフスタイルや資産が変わることがデータから見えてきます。同社は「TimeTree未来総研」というチームを立ち上げ、ライフイベントや各国比較によるインサイト発掘に力を入れており、得られたインサイトを基にした広告ターゲティングを展開して、消費者に対する新たなアプローチを企業に提案しています。
TimeTreeの目指す世界に向けて
成長を続けるTimeTreeですが、深川氏は「今後は家族だけでなく、あらゆる方が使うプラットフォームとしてさらに成長を加速したいと考えています」と力を込めて話します。そのために取り組んでいるのが、新たな広告ソリューションの開発です。
2024年11月には、カレンダーの日にちセル内でアニメを動かし、イベントやセール日をユーザーに訴求する「TimeTreeターゲットデイ」をリリース。また、味の素が提供する「未来献立®」とコラボレーションして、毎週決まった日に「未来献立®で献立を提案してもらう日」を通達して未来献立®の利用を習慣化してもらう「習慣化広告」の実現にも取り組んでいます。
また、タレントやアーティストの利用が多い公開カレンダーを拡充し、推し活を促進する機能を強化して、コンテンツクリエイターやファンの利用を促進、推し活向けの商材開発も進めているそうです。
深川氏は「こうした新しい取り組みをより良い形で実現していくために、ライフスタイルに関わるさまざまな企業とのコラボレーションに一層注力したいと思います」と話し、講演を終えました。