どこまでをアドフラウドと認定?ブランドセーフティが担保された広告はエンゲージメントが3倍に!(ad:tech tokyo 2022 参加レポート③) #adtechtokyo
こんにちは!Molocoです。
アジア最大級の国際マーケティングカンファレンス「ad:tech tokyo 2022」のレポートもいよいよ最終回!
今回は、Moloco・坂本がモデレータを務めたad:tech tokyo 公式カンファレンス- Brand & Marketing-「デジタル広告のリスク ~ 健全性と倫理観」の模様をご紹介します。
※ちなみに前回までのレポートはこちら!
ad:tech tokyoって?Molocoって?という皆さんはぜひこちらもご一読ください。
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当該セッションでは、デジタル広告業界の現場をよく知るスピーカーの皆様にお集まりいただき、さまざまな角度からアドフラウド(不正広告)やブランドセーフティ*、それらを取り巻く最新の動向が共有され、それらに対し関係者が持つべき視点、整えるべき姿勢など、かなり果敢なやり取りが展開されました。
その白熱ぶりを少しでもお伝えできればと思います!
*ブランドセーフティ:広告掲載先の品質確保による広告主ブランドの安全性
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)
(Moloco 坂本)
「本日はお集まりいただきありがとうございます。まずは登壇者から自己紹介していただこうと思います。」
(株式会社ブランドジャーナリズム 西舘 亜希子さん)
「私は、2008年からデジタル広告に携わっています。『インターネット広告はこのままでいいのか』という思いを持ち、会社を飛び出して今年(2022年)独立しました。
仲間と一緒に起業し、皆様のお役に立てるようなことができればいいなと思い、広告やメディア事業、PRなどあらゆることに携わっています。よろしくお願いします。」
(株式会社電通デジタル 西本 明日香さん)
「デジタルマーケティング事業全般に携わっていますが、その中でも私は広告領域を担当しております。具体的には、E-Commerceと連携したメディアプランニングや、広告投資の本質を追求するアドベリフィケーション(アドベリ)**に取り組んでおります。」
**アドベリフィケーション:「広告掲載先の内容の品質確認」「広告掲載先の内容」などの品質基準の確認を意味します
日本インタラクティブ広告協会(JIAA)
(Indeed Japan株式会社 鶴見 洋介さん)
「Indeedでデジタルマーケティング全般に関わっています。Indeedは、人材採用関連サービスの中でもトップクラスのトラフィックを誇りますが、ToB、ToCの両領域において、そのパフォーマンスマーケティングをリードしています。本日は広告主としての判断基準などをお話しできればと思います。」
ーーなぜアドフラウドが悪いのか、なぜ対策が必要なのか
(Moloco 坂本)
「今回のテーマは『デジタル広告のリスク ~ 健全性と倫理観』です。このテーマの整理も兼ねて、『アドフラウドの何が悪いんだ?』『ブランドセーフティってそもそもなぜ対策しなきゃいけないんだっけ?』みたいなところから、整理できればなと思っています。
それでは西本さん、改めてアドベリフィケーション(アドベリ)について説明していただけますか。」
(電通デジタル 西本さん)
「アドベリというと、以下のスライドの通り、大きく4つの項目に分けることができます。
日本の状況としては、まず左側のアドフラウドは 全計測対象国で最下位!!です。
ブランドリスクがワースト2位、ビューアビリティも最下位です。
アドエクスペリエンスは、これ計測難しいんですけど、ほぼ未対応という状況が日本の現状です。」
ーー海外と比較した時の日本の状況
(Moloco 坂本)
「鶴見さん、Indeedさんは海外チームとのやり取りも結構多いと思うんですけど、この状況を実際どのように見られていますか。」
(Indeed 鶴見さん)
「これは非常に面白いと思っています。西本さんから共有いただいたデータを深掘りしてみたのですが、フィリピン等の新興国でさえ日本よりも不正が少なかったんですよ。同じ広告ネットワークを使っているはずなのに、こういった差がでているんですよね。
実際、弊社内でアドフラウド対策チームとやり取りをしたことがあるのですが、その際にも『日本がやっていることと、グローバルの対応では結構ギャップがある』といわれたりもします。」
(Moloco 坂本)
「日本の感覚だと『まあOKかな』って思ってたら、海外からすると『それはアウトだよ』っていう風になっちゃうことがあるんですね。」
(Indeed 鶴見さん)
「そうですね、アドフラウドに関しては、 ユーザーの不利益につながる可能性がないか、という観点では厳しく判断をしています。ただ一方で、ユーザーファーストで考えているが故に、ユーザーの不利益につながるわけではないけれど、弊社にのみ不利益が生じる可能性があるものについては、対応が後回しになってしまうこともありました。単に弊社が損失を被るだけで、お客様やユーザーへの悪影響が生じなければ、ある程度は弊社で負担すればいいよね、との判断です。」
(Moloco 坂本)
「すごい!なんか、太っ腹な考え方!?(笑)」
(Indeed 鶴見さん)
「(苦笑)以前はそのような考え方でジャッジした場合もあったのですが、やっぱり、最終的にはそれだとよくないと。弊社で無駄なコストを負担していることになりますよね。ですので、現在ではそういった判断は行っていません。
また、広告が不適切なサイトに掲載された場合、広告主が社会的にも不適切な場所や組織等に経済的援助をしてると見えてしまうリスクもあります。」
ーー反社会勢力へと流れるお金
(Moloco 坂本)
「西舘さんはこの状況をどのように見ていますか。」
(ブランドジャーナリズム 西舘さん)
「社会や生活者からどう見られているか、反社会勢力に加担をしているかどうかということよりも、企業として自らの姿勢がどうあるべきか、みたいなところっていうのは、大きな声を出して、『自分たちはこういうところには出さないですよ』っていう声明を出してくる企業が増えている印象があります。」
(Moloco 坂本)
「『ちょっとお金を損しているだけだから、我慢すればいいじゃん』ではなくて、もっと『世の中に悪いところには資金源を提供しない』という姿勢を表明した方が良い、と認識されてるってことですね。」
(ブランドジャーナリズム 西舘さん)
「こういう「闇」のようなことは遅かれ早かれテレビなどにも特集されたりするんですよね。過去にはNHKで「ネット広告の闇」として特集***されていましたが、その際に放映された内容は新聞社にも不適切な「フェイク広告」が掲載されていたと。そして、同新聞社が取材された際に、担当者は『コメントできない』と言う新聞社もあったりしたんですよね。もちろん広告を出稿する代理店、広告主、配信プラットフォームなど、携わる全ての人に責任の一端があると思っていますし、全員が危機意識をもった方がいいと私は思っています。
***NHK(2019/1/22)新聞社のニュースサイトに「フェイク広告」
ただ、広告の掲載先となっていたニュースメディア、今回だと新聞社がジャーナリズムを追求しているのならば、加えて紙面であれば考査もあり、信頼性を担保しているのに、デジタルになると『コメントできない』って言ってしまっていいのか、みたいなところは、大きな課題かなと思います。今はソーシャルメディアが普及しているので、世の中に企業の姿勢が広がっていきやすく、従来よりも重要になってきていると思います。」
(Moloco 坂本)
「広告主だけではなく、メディア側もちゃんと対応しないと、その姿勢が消費者に透けて見えてしまうっていうことですね。」
(ブランドジャーナリズム 西舘さん)
「そうですね。広告主サイドとプラットフォームと、メディアサイドがなかなかうまく噛み合ってないなっていうのも、1つの課題だと思っています。」
(Moloco 坂本)
「実際の経済的被害としても、結構なお金が反社会勢力に流れてるんじゃないかみたいな話もありますね。」
(電通デジタル 西本さん)
「ある調査によると、日本においてフラウドの不正利用は平均10パーセント前後あるということがわかりました。サイトに訪れている10人に1人がフラウドだと考えると、結構怖い数字かなと思います。」
(Moloco 坂本)
「日本のデジタル広告が、テレビを超えたというニュースもありましたね。あの大きな金額の10分の1ぐらいが悪いところに流れている可能性があるとしたら、結構いい資金源になってるということになりますね。」
ーーアドフラウドに関する取り組み
(Moloco 坂本)
「鶴見さん先ほど『今年から結構対応をちゃんとやり始めた』みたいなことをおっしゃってましたけど、 やる前とやり始めた後で何か変化はありましたか。」
(Indeed 鶴見さん)
「すごく難しいですね・・。『何をフラウドとするか』の定義がツールによって異なってきます。」
(Moloco 坂本)
「『全部厳しい方に合わせちゃったら安全』っていう単純な話でもないんですか?」
(Indeed 鶴見さん)
「デジタルで集客する責任者の立場から言うと、量と質の話になると思います。いい面でいい人(求職者)を集めることができているのに、『この面からの何割かがフラウドだったから、 このメディアを全部フラウドと認定します』としてしまうと、メディア側もビジネスが成り立たなくなってしまうでしょうし、広告主としてもいいユーザーを集める機会を失ってしまうことにつながります。なので、バランスが難しいですね。」
(Moloco 坂本)
「例えば犯罪が1件でも起きたら、その町全体が泥棒だみたいな感じで、バチっと言っちゃうのは厳しすぎるんじゃないかっていうことですね。」
(ブランドジャーナリズム 西舘さん)
「メディアと広告主ってトピックに関連して、『自分の広告が出ている面』に出ている『他社の広告』についての健全性って考えられていますか?例えば健全なメディアに広告を出稿していても、その横に掲載されている別の広告主が不適切なクリエイティブを出している、とかだとブランドが毀損されてしまう...といった問題も起きています。」
(Indeed 鶴見さん)
「点で話すのはすごく難しくて、面でどう捉えるかが大事だと思います。Indeedが広告主としてアドフラウドの対策をしていたとしても、その横に出てる広告には関心がなかったり、もしくは、アドフラウドに興味を持つのは弊社内の一部社員に限られていて、その他の部門の社員は関心がなかったり、などの状況は、是正していけると良いと思っています。まずは他社の動きや、あるいは社内でも他部門の動きなど、広く関心を持つところから、ブランド価値をどう守るかにも繋がるんじゃないかなと感じています。」
(Moloco 坂本)
「広告主がブランドセーフティに取り組む意義についてお話頂いたんですけれど、 ちょっと話題変わって、西本さん。ブランドセーフティに関するこのグラフについて皆さんに解説してもらってもいいですか。」
(電通デジタル 西本さん)
「こちらはブランドセーフティとユーザーの心理的リアクションについて調査した内容です。例えば、スライド左側のグラフは『ブランドセーフティが確保されたコンテンツの横にある広告』と、 逆に『不適切動画コンテンツに表示された広告』を比べた表で、エンゲージが3倍も違うという結果がでています。
一方でスライド右側は、高品質・低品質なサイトに表示された広告の指標です。高品質サイトに掲載されている広告の好感度は当然高く、逆に低品質なサイトに表示された方は、強い感情を喚起していたり、記憶に残りやすいということが分かりました。」
(Moloco 坂本)
「これ、結構面白いですよね。だから、ネガティブなサイトに掲載された刺激的な広告が感情に訴えかけてきてリアクションしちゃうんですね。『このブランドのことを覚えていますか』みたいなアンケートとかには『覚えてる』って答えるだろうから、もしかすると品質が低いサイトでも "数字上は" 良く見えるかもしれないですね。ただ『あの会社よく見るけど、微妙だよね』みたいに認知されちゃってる可能性があるってことですね。」
(ブランドジャーナリズム 西舘さん)
「一部の人が取り組むのではなくて、なかなか難しいですが一斉に足並みをそろえて行動していくことが大切だと考えます。健全性を高めていかなければ行政の指導が入ったりして、まっとうに広告活動をされている企業にまで悪い影響が出ちゃうじゃないですか。表現の自由みたいなものも奪われたりしてしまう可能性もありますね。」
(Moloco 坂本)
「媒体側の健全化に向けた動きとかって、 代理店さんの立場からは、どれぐらい重視して見ていらっしゃいますか。」
(電通デジタル 西本さん)
「アドベリの取り組みは、私たちも意識して最新情報を取り入れるようにしています。広告主さんもブランドセーフティだったり、アドフラウドというものをとても気にされるようになっているので、メディアプランニングの際にも、きちんと『こういう取り組みをされてます』と、提案に盛り込むことも増えています。」
ーー解決策について
(電通デジタル 西本さん)
「アドフラウド対策やブランドセーフティの観点を経営課題として見て、経営管理やリスク管理に取り組む広告主さんも出てきています。
アドベリフィケーションは広告業界に閉じた話ではなく、時には経営課題として取り組んでいく必要があるかもしれません。そして、セッションのタイトルにもある健全性と倫理観は長年かけて培うものだからこそ、『デジタル広告に関わるみんな』が『いかに熱を絶やさず当たり前のレベルを高くするか』が重要だと考えています。」
(ブランドジャーナリズム 西舘さん)
「どうしてもこういう議論は綺麗事の理想論として聞こえてしまうと思います。それでも理想を120%にしても本当に実現できるのは80%くらいかもしれない。でも、もっとみんな夢を持っていいと思います。会社の中での組織や評価軸、売上、経営の考え方がたくさんあり、営利企業として売上を考えなければいけないのは当然だということも身をもって痛感しています。でも、綺麗ごとでももっと元気に夢を持って、両立を目指せるような広告の社会になるといいんじゃないかなと思います。」
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今回のセッションでは、広告主、広告代理店、媒体それぞれの視点からの意見が交わされました。
アドフラウドやブランドセーフティは、誰か一人や一社だけの努力ではなく「面」でとらえて、業界全体で取り組む必要がありそうです。
また、投資という考え方をすることで、どのようなリターンがもたらされるのか考えると、自然に取り組む意欲も湧いてくるのではないでしょうか。
Molocoは、ブランドセーフティやアドフラウドを含め、デジタル広告の健全性を保つための活動・発信に今後も真剣に取り組んでいきたいと考えています。