日記
今日は、物産展に行った。
駅前のデパート「ショットガン」に用事があっただけで、もともと物産展に行くつもりはなかった。
到着すると「ショットガン」のエントランスの柱に「大大大、物産展」と書かれたフライヤーが死ぬほど貼られてあったので、そこまで貼るのなら、ということで行くことにした。
その実大大大のところ「大丈夫、物産展」と見えてしまっていたことを告白しておく。
浅はかにも「なんて、なんて文学的な名目の物産展なんだ」と感心してしまった。
「そこまで貼るなら」ではなく、私を物産展の会場に突き動かしたのは「なんて文学的な」である。
かなり大きな嘘を言ってしまった。恥ずかしい。
「ショットガン」の4階の会場に向かう。
まず、私の知っている形態の物産展でなかったので面食らった。
だいたい物産展といえば、一定の区画にのれん押しめきひしめき、のぼり押しめきひしめき、と言った形態のところを、「ショットガン」にはそのような区画が設けられなかったようだ。
というとどういう形態かというと、4階の各ショップの一角を、それぞれ臨時で出店ブースにしてある。
「これが店主と店主の落とし所!とくとご覧あれ!」
とのビラが天井から無数にぶら下げられている。
出店者がショップに直談判し場所を借り、物産展の期間だけ権利を得て出店する、といった感じだろうか。たぶん。
ぐるりとひととおり見て回ると、アパレルブランド「BLUE LABEL」の一角には干物屋、陶磁器ブランド「Wedge Wood」の一角には冷凍牛タン屋、お香のブランド「SOMALIA」の一角には食べるラー油屋が、などといった景色だった。
「SOMALIA」に至っては、お香の什器は全て壁際に追いやり、カウンターに店員が2人ぎゅうぎゅうで立錐している。
一方で普段さまざまなお香が並ぶ敷地に、「食べてみラー!」ののれん、食べるラー油、5人の大声のスタッフがひしめく。
これはたぶん
「SOMALIA」の店主 <<<<< 食べラーの店主
落とし所がかなり食べラー寄りである。
食べラー側の交渉術か、「SOMALIA」側の弱気か。
一方で、「BLUE LABEL」に関しては
「BLUE LABEL」の店主 ≒ 干物屋の店主
ここは、ほどよいところに落ち着いているように見える。
なんなら「BLUE LABEL」側がハッピを着て干物屋側と一緒に「干物いかがあっすか、らっしゃい」とやっている。
両者楽しそうだ。
おもしろいなあ、と思いながら見て回っていると、最後に子供服ブランド「メゾフォルテ」の前に来る。
あれ、「メゾフォルテ」にはどこの物産屋も出店していないようだった。
ほかの店舗には、全てどこかしらの物産屋は出店している。
出店の交渉がかなり難航したのだろうか。
店内を見ると、店員が3人ほど作業をしている。
1番表にいた店員に声をかけてみる。
「あの、ここは出店ないんですね。」
すると
「そうですね、メゾフォルテはもともと、メゾフォルテわれわれ自体が、物産屋ですから。」
よく分からなかったので、別の店員にも同じことをこっそり聞いてみる。
「あの、ここは出店ないんですね。」
すると
「そうですね、物産屋に物産屋が入るなんて、変でしょ笑笑」
ええ別に道の駅とかもそうじゃないか?、と思った。
最後の1人にも聞いてみる。
「あの、ここは出店ないんですね。」
「そうですね、そんな、他の物産屋入れるなんてことしたら、それは「メゾフォルテ」でなくて「メゾピアノ」になってしまう。この話が来た時、本社の社長にこう言われたんです。たしかに同感だ、私たちとしてはなお、「メゾピアノ」どころか「ピアノ」になってしまう、そんなことになってたまるか、そう思ってます。それで出店者はことごとくはねのけましたね。」
「そうでしたか。」
私はそそくさと店を出る。
ふと天井を見ると、「これが店主と店主の落とし所!とくとご覧あれ!」のビラがこのフロアで圧倒的に激しくはためいている。
「パタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタパタ」
フォルティッシモ!と思った。
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