日記
今日は、1日家にいた。
ゆったりと過ごしていると、昼過ぎにインターホンが鳴る。
出てみると
「大家のものですけど〜」
とのことだった。
大家さんか〜と思ったので、玄関のドアを開ける。
「こんにちはどうも〜」
大家さんは手ぶらで上下グレーのスウェットといういでたちで、いつも通りにこやかだ。
「こんちは〜」
大家さんは手ぶらで両手を持て余しているのか、
しきりに両手で「かえる」の形を作っては解き作っては解きしている。
「どうも203さん、あのね、ババロアね、
今作りすぎちゃったんだけど、1杯いらないかしら?すそわけ。」
大家さんは私のことを入居当時から部屋番号で呼んでくる。
なので私も大家さんのことは、部屋番号101と呼ぶことにしている。
にしてもババロアかあ、
すぐに姿形が浮かばなかったが、
ご厚意だしありがたくいただいておこうと思い
「あ、いいんですか101さん?え、嬉しいです〜ありがとうございます。」
と答えると
「いいのよん。203。ちょいまち。」
と大家さんは階段を駆け降りていく。
そういえば大家さんはさっき「1杯」と言っていたけど、
ババロアの1杯ってボリューム感的にどんな感じなんだろう。
でもまあたくさんならたくさんで、冷凍しておけばいいや。
というか、ババロアの数え方って「杯」なんだね、
カニとかと一緒なんだなあ。
カニと同じくらいのボリューム感なのかなあ。
みたいなことを思っていると、大家さんが階段をすたすた上がってくる。
「おまたせ。はい。」
大家さんからババロアが詰まったタッパーを1つ受け取る。
「ありがとうございます。これ、1杯なんですね。ババロアでいう。」
と言うと、
「1杯?」
大家さんが不思議そうな顔をする。
タッパーを支えるという仕事がなくなった大家さんの両手が、
また「かえる」を作ったり解いたりし始める。
大家さんが続ける。
「1杯とはつまり、『いっぱいたくさん』という意味よ普通に考えて。203。」
いただいたタッパー1つは、なんのことはなく
大家さんの基準で「いっぱいたくさん」としているだけの量だった。
私は、カニと一緒なんだなあ、とか思っていたのが馬鹿らしくなり
「あはは、ですよね」
と言う。
すると、大家さんの「かえる」の作り解きのスピードが急に上がる。
もう私の動体視力では追えない。
開いている状態なのか、「かえる」の状態なのか。
スピードが最高潮に達したところで
大家さんは
「あはは、すそわけは没収」
と、私の持っていたババロアタッパーをぶん取ろうとする。
ぶん取る瞬間、「かえる」の最中の指がタッパーにバシッと当たる。
私は
「あっ…」
としか言えなかった。
大家さんは結局うまくタッパーをぶん取れず
そのまま去っていく。
私は部屋に戻って、
ババロアをひと口食べてみる。
これまであまりババロアを食べたことはなかったが
だとしても完全にティラミスだった。
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