日記
今日は、喫茶店に行く。
メニューに
店主のオススメめメニューは、これだ!
と矢印が引っ張ってあったので、カレーを頼むことに。
注文して数秒、キッチンから声が聞こえる。
「ちょまえ、カレーもう今日ねえって」
「すんまそん」
ホールの男の子が叱られている。
今日分のカレーは終了してしまっていたようだ。
申し訳ない気持ちになる。
別にカレーがどうしても食べたい訳ではない。
その旨を伝えるため声をかけようとしたところ、
キッチンが中で
「しゃあねえ、こそぐぞ」
と気合を入れる。
こそぐぞ?
ホールがすかさず
「こそぎますか」
と言う。
「こそぎ落とす」の「こそぐ」か。
私は声をかけるタイミングを逃してしまった。
続いて、キッチンからガシャガシャと音が聞こえてくる。
大鍋をこそごうとしている感じだ。
「ちょまえ、そっち持って」
「はい、僕底いくんでそっちあ、」
「あ、もう、違う俺底いくって、あ〜もうこうなったじゃんか」
「すんまそん、僕じゃあこそぎますね」
「こそぐのは完全に俺、お前は縁を持て」
「じゃあ底どうするんですか」
「まず縁だろうが」
ホールとキッチンが、2人で大鍋と格闘している。
この底と縁のせめぎ合いのあと
胴と布巾のせめぎ合い
取っ手右と取っ手左のせめぎ合い
皿とお玉のせめぎ合い
米と炊飯器のせめぎ合い
しゃもじと米のせめぎ合い
占い信じる信じないのせめぎ合い
赤信号守るか無視するかのせめぎ合い
などのやり取りが続いたのち
右利き派と左利き派のせめぎ合いがひと段落したところで、静寂が訪れる。
それからしばらくして
「うぇい」
「ないす〜」
と聞こえてくる。
うまく行った感じか。
ホールが、皿に盛ったカレーを運んで来てくれる。
ありがとう。
カレーは、違和感ないくらいのしっかりした量が盛られていた。
こそいでくれてありがとう。
カレーは店主のオススメめというだけあり、美味しかった。
肉や野菜がごろごろ入ったタイプのカレーだった。
ごろごろというレベルではなく、
かぼちゃやにんじんやらがぐしゃっとくっついた野菜塊(やさいかい)や
鶏肉と鶏肉がぎゅっとなった肉塊(にくかい)
各種スパイスがぎゅっとなったスパイス塊(すぱいすかい)がごろごろしているという状態なので
カレーではなく、全体塊(ぜんたいかい)といっても過言ではない。
あくまで、美味しくはある。
するとホールが
「沈みがちなもんで」
と声をかけてきた。
野菜や肉は下に沈んで行きがち、
つまりこそいだカレーは最高にごろごろなカレーになるということか。
そういうことか。
ホールが、伝票を書いて置いてくれる。
ホールは、左手でボールペンを持っていた。
先ほどのせめぎ合いでは、「右利き派」のスタンスで戦っていたはずだが、と思った。
もしかしたら本当は占い信じる側かもしれないし、信号は無視する派かもしれないし、皿側かもしれないし、炊飯器側かもしれない。
ホールは、ごゆっくり、とキッチンに戻っていく。
会話が聞こえる。
「今日まかないあるんすか?」
「しまった。ああ…」
「いいっすよ。ないならカレーで」
「お前ほんとに言ってんのか?こそぐことになるが」
「いいっすよ。もうひとこそぎ、しばきましょうよ。」
「こそぐか」
「こそぎますよ」
私の中で、オススメめな喫茶店になった。
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