三題噺
「不意に黒いなにかが落ちてくるのが見えた」
この一文からひとつの小説を書いてみるとして、皆さんはどんな物語を想像(創造)されるでしょうか。
こんにちは。今回は木曜会の活動の一つである「三題噺」についてご紹介していきたいと思います。ですがその前に、まずは簡単に自己紹介から。
今年度から木曜会に加入させていただきました、わしのと申します。ここでちょっとしたお詫びなのですが、実は、入ったばかりということもあってまだいまいち木曜会の全貌(というと、なんか裏で悪いことやってる怪しい組織みたいですが)が分かっていないというか、活動を紹介するにしても私自身も木曜会とは何なのか、まだ把握しきれていない状態なのです。なので、こんな入って数か月のペーペーがちゃんとお伝えできるのか自信がないのですが、とりあえず書いてみますね。
三題噺(さんだいばなし)とは、とは、落語の形態の一つで、寄席で演じる際に観客に適当な言葉・題目を出させ、そうして出された題目3つを折り込んで即興で演じる落語である。
のっけからwikiさん情報で申し訳ないのですが、木曜会ではもちろん落語をやっている……わけではなくて、その場で適当に3つほどお題を決めてそれを盛り込んだ小説を書いてみようというのが木曜会流の「三題噺」です。三題噺については以前にも、新歓の紹介のnoteの中できこさんが説明してくださってましたね。ちなみに、私が新歓の時に参加した三題噺のお題は親指、ガラス、アルコールでした。お題はかなり適当に決めているのですが、割とこのお題の存在に助けられるというか、何の手掛かりもなく「さあ、小説書いてみよう!」ってなるとこれが結構難しい。お題があるとそこから連想して書けたりするので、ありがたいです。551の豚まんのように、やはりお題がある時とない時とでは小説の書きやすさにも雲泥の差が…!(誇張表現)
……すみません、おそらく関西圏の人にしか通じないであろうネタをやってしまいました。
話を戻すと、三題噺では、お題が決まると一時間ほどで(と言いつつもなんだかんだのびて二時間くらい書いてることも)実際に小説を書いてみます。書き終えてから、これが木曜会の「三題噺」のいいところなのですが、その場にいる人で他の人の書いた小説を読んでいき、感想を共有します。「ここの表現が良かった」とか「ここはこうしたらもっと良くなるんちゃうか(なぜか関西弁)」とか色々コメントがもらえます。小説を書きっぱなしにしておくのではなくて、やはり感想や改善点を教えてもらえると嬉しいです。とりあえずなんか書けた感も味わえます。
実は、先日の「三題噺」ではちょっと趣向を変えてみたことがありました。今回は何個かお題出すんじゃなくて、共通の書き出しをひとつ決めてそこから小説書くのはどうだろう、ということで、その時の書き出しというのが冒頭にちょこちょこっと書いてた「不意に黒いなにかが落ちてくるのが見えた」という一文です。ちなみに、この一文はその時たまたま手元にあった木曜会の会誌(芥火といいます)の中の作品から拝借させていただきました。ありがとうございます。
実際書いてみると、同じ書き出しでもそれぞれで異なったショート・ショートが出来上がり、「ほんまにこの短い時間で書いたん⁉すげえ…(また関西弁)」と驚くようなとても考え込まれた小説を書かれた方も。他の方の小説を読んだり感想を聞いたりしていて楽しかったです。
ちなみに、その時に私が書いた小説が自分のパソコンと木曜会のGoogleドライブ以外の行き場を失っており、(いや、それだけで十分満足なのですが)せっかくの活動紹介、皆さんにこんな感じで書いてますというイメージが少しでも伝わればいいなということで、最後にこの場をお借りして載せさせていただきます。ほんとに暇なときとかに読んでください。
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不意に、黒いなにかが落ちてくるのが見えた。
カラスだった。
確か、一か月前くらいの話なんだけど、と友人が切り出した。帰り道の途中で、僕らはなんでもない会話を交わしていた時だった。
「それが落ちてきたとき、僕は少し遠くにいたからよくわからなかったんだけど、近づいて見てみるとそれはカラスだったんだ。あ、そうだ、ちょうどあのお店のそばのとこに落ちてたんだよ。……その黒い塊はじっと置物みたいに固まっていて、多分、もう死んでた。でも、羽はつやつやとしてて、なんでかな、すごくきれいに見えたんだ。目もぬいぐるみの目みたいにちょっと光沢があって、それだけ見たらカラスの人形にも見えたかも。でも、それが死んでるカラスだって、さっきまでは生きてたのにでも今はもう生きてないカラスだって分かったのは、その躰が不自然にくたっとしてたから。人形にしてはおかしな具合に歪んだかたちで、ちょうど、カバンの中で押しつぶされた平らなおにぎりみたいな感じ。でも、変なことかもしれないけど、その歩道の真ん中にあったカラスの躰には、なんていうかな、びっくりするくらい重さがあったんだ。そこには圧倒的な存在感があった。それに比べたら、路駐してる車や斜めに曲がった電柱、自分の足なんかも、ただの幻なんじゃないかと思えたほどだったよ。」
死体を見たのは久しぶりだな、とその黒い塊に顔を近づけて思う。しばらくの間、僕はカラスから、いや正確にはカラスだったものから目が離せないでいた。そして、埋めてあげなきゃ、と思う。こんな道端に彼を放っておくのは可哀そうだ。僕はそっと彼を持ち上げて、彼のずっしりとした躰を腕に感じながら、通学路を歩いた。彼の躰は少しぬるかった。
家の近くの川に着いて、川岸の草の生えていない柔らかいところを、手を使って掘っていく。土は彼とは対照的にひんやりとしていて、なぜかその冷たさに手がしびれた。少しずつ指先の感覚が奪われていく。なんだか土が僕の熱を奪っているみたいだった。不思議だな、と僕は思う。今日は良く晴れていて、半袖に薄手のシャツを羽織っていても暑いくらいなのに、土がこんなに冷たかったなんて。冷や汗をかきながら、それでも僕は地面を掘る手を止められないでいた。
ようやく三十センチほどの深さの穴ができて、僕は感覚の麻痺した手で彼をそっと穴の中に横たえた。彼は相変わらず何かに押しつぶされたみたいにへしゃげてたけど、びっくりするくらい重くて、温かかった。彼はまだ生きてるんじゃないだろうか。そんな気がして、ぐっと顔を近づけてみる。驚いたことに、さっきよりも羽の色つやは増して、瞳もキラキラしている。今にもドクドクという彼の鼓動が聞こえてきそうだった。やっぱり彼はまだ生きていたんだ。いや、違う、彼は生き返ったんだ!僕はその事実に興奮して、しばらく呆然としてた。
「でも、気がつくと、彼は穴の中でその美しさを失ってしまっていた。触ってみても彼は周りの土と同じくらい冷たくて、僕はぞっとして、すぐ手を離し、土をかけて埋めてしまった。そうして、すぐにその場から離れたよ。家に帰るまで、一度も後ろを振り返らないようにしてた。もし振り返ったら……っていやな予感がしてね。」
いつの間にか、僕らはいつも別れる駅の前に来ていた。じゃ、と手を振って彼が去っていく。猫背がちな彼の後ろ姿は夕焼けの光を背景にひどく小さく、そして薄暗くみえた。ふと、どこかでカラスが鳴いている。そんな気がした。
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今回のnoteでは木曜会の「三題噺」についてざっくりとご紹介してみましたが、いかがでしたでしょうか。少しでもこんな活動してます、といったことをお伝えできていましたら幸いです。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございました。
それでは。
(わしの)
👆鴨川のカモさんたち。いい感じにカラスの写真を撮りたいと家の近くの鴨川をうろついてたんですが、生憎カラスは見つからず、(カーカーという鳴き声は聞こえていたのですが…)代わりに鴨の写真を撮って帰りました。冒頭の写真も鴨川です。
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