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ミステリアス幹部会 【EPISODE #14 / SEASON 1】

一日の寒暖差があることは、実は良いことなのかもしれない。昼間、太陽が顔を出すと気温は25℃を超え、夏に向けた心構えができていないヒゲの総帥はダラっとしている。夜にはそこから10℃近く下がり、涼しい夜風が心地よい。だが、総帥は夜も変わらずダラっとしている。

この気候の不安定さは、安定した気候において不安定な毎日を過ごす人間にとっては、奇妙な安定感をもたらすのではないだろうか。オクシモロン。

【木曜会の当日メンバー】
・冷泉:AI 魔改造に取り組む怪僧
・ヒゲの総帥:なんでも屋
・ファラオ:ボードゲーム会を主宰
・タケちゃん:映像ディレクター
・浦部君:広告デザイナー
・アラタメ堂のご主人:WEBディレクター

このメンバーで改めて話すべきことなど、特にないという結論に達したのはヒゲの総帥だけではなく、この場にいる全員だった。そんなときは決まってファラオの昔話を聞く時間だ。一人の男の生き様から、皆が何らかの教訓を得ようとしているのである。

総帥:「最初に宮崎県へ行ったときは、どうやって行ったの?」
ファラオ:「妻の実家が宮崎にあったので、最初に行くときは夜行列車で行きました」と懐かしそうに語る。

しかしながら、ファラオの声は通りにくい。彼自身は自分なりにハッキリと話しているつもりだが、その発声が空気を振動させる力が非常に弱いため、声がこちらに届くまでに随分と減衰してしまうのだ。

結果、ファラオの声を聞こうと木曜会のメンバーは自然と彼に少しずつ近寄ることになる。日常的な会話よりも微妙に距離感が縮まるその様子を言葉で説明するのは難しい。参考動画があるのでアップしておく。


ファラオが語る半生には、多くの教訓が含まれているように感じる。ただ、その教訓が具体的に何なのか、ヒゲの総帥や冷泉たちにははっきりと掴めない。何かがそこにあることだけは分かるが、それ以上はまだ見えてこないのだ。

総帥:「もう、何も起こらないし、そろそろ帰ろうか。」
冷泉:「今日は木曜会の幹部会ですね。」と、にこやかに言う。

その言葉が、冷泉らしい恐ろしいほど通る声で場に響き、一同はザワザワし始めた。みんなの心に同じ疑問が浮かぶ。

『幹部会ってなんだろう。もしかして、いつの間にか自分も幹部にされているのか?』

冷泉は誰が幹部で、誰がそうでないかをはっきりと線引きすることはなかった。ただ、彼の言葉のニュアンスからすれば、一度でも木曜会に参加した者は漏れなく全員が幹部であるという認識を持っているようだった。その器の大きさに、逆に戸惑いを覚える。

ヒゲの総帥は想像する。もしここで冷泉が「幹部会を抜けたい人は挙手してください」と言ったなら、この場にいる全員が挙手していたのではないかと。

そして、その中には冷泉本人も含まれているであろうという、あり得ない状況まで思い浮かべるのだった。

木曜会は幹部候補生たちのお越しをお待ちしております。

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