見出し画像

カトウトシヒコ登場 〖BEFORE 木曜会 #1〗

2017年7月31日(月)
宗教画のモデルみたいな女の紹介で、近い将来に『冷泉』と呼ばれることになる、ハイタッチを求めてくる男がコロマンサにやって来た。店内にいたのは、常連の不思議な女、ガルパンの男、そしてヒゲの総帥と版画家の柿坂万作だった。

ハイタッチ男は、どこかの会社の経営者らしい。何かあるたびに大笑いし、その鍛え上げた肉体でヒゲの総帥たちにハイタッチを求めてくる。この男がシラフでこの調子なら、ハイタッチの応酬で肩を脱臼してしまうのではないかと思うほどだ。実際、ハイタッチが原因で肩を脱臼することはある。

たとえば、オリックス時代の門田博光がレフトスタンドにホームランを放ち、グラウンドを一周した後、同チームのブーマーとハイタッチを交わした際に肩を脱臼した、という逸話があるではないか。宗教画のモデルを務める女も、なんとも素晴らしい逸材を紹介してくれたものだ。ありがたい限りである。

少しすると、ヒゲの総帥と同郷だという、疑問ばかり抱く女がやって来た。彼女は常に自分の周りに疑問を抱え、何かを説明する際も言葉ではなく擬音語やオノマトペでしか表現できないと嘆いていた。その感覚を、ヒゲの総帥はよく理解している。

ミスターこと長嶋茂雄も、あるとき「カーブの打ち方を教えてくれ」と問われ、「ストレートはパシンと打って、カーブはカーブだよっ!と打つんだ」と答えたという。その感覚、とてもよくわかるのだ。

コロマンサの中で、仕事の話や哲学の話、そして何の取り留めもない話をしていると、唐突にハイタッチ男が「自分の腹を殴ってくれ」と言い出した。「痛みを知ることで、自分が生きていることを確認するのだ」と。

「よっしゃ、ワシが殴ります。」
そう言ったのは版画家の万作だった。彼のずんぐりむっくりとした体型から繰り出されるパンチの威力は、誰の目にも明らかだ。

バシッ、バシッ。版画家とハイタッチ男はお互いの腹を殴り合い、笑いあいながら、最後には腕相撲で決着をつけようと盛り上がっていた。その光景を眺めながら、ヒゲの総帥は『天空の城ラピュタ』でパズーとシータを追う空賊と炭鉱の親方が殴り合うシーンを思い出していた。

使い古された言い方だが、まさかここからハイタッチ男との長い付き合いが始まるとは、考えてもみなかった。

いいなと思ったら応援しよう!