お喜楽プロジェクト:前編 【EPISODE #17 /SEASON 1】
木曜会が関連した、とあるプロジェクトの話し。
お喜楽プロジェクト
東北のとある県全域をDX推進するために衛星アンテナを設置し、インフラ整備を進める壮大な計画だ。産学官が協力して実現を目指すものであり、このプロジェクトの末席に、ヒゲの総帥と冷泉が加わった。人々の役に立つことであり、冷泉が掲げる「喜楽」の理念にもぴったり合致していると感じられる内容だった。
当初はヒゲの総帥と会社の同僚たちで取り組もうと考えていたが、仕事の中身と大きさを考えたとき、すぐさま黒いIT参謀である冷泉にコンタクトを取り、プロジェクトに入ってもらった。
後に、この冷泉の起用が奇跡を起こすことになる。
しかしながら、この時点では不安もあった。実はこの手のタイプの仕事は、ヒゲの総帥と冷泉にとって、初めてだからだ。果たして官公庁を相手にコンサルできるものだろうか。不安を抱えながら総帥は単身、仙台へ向かう。
当初、オンライン上での会議予定であったが、先週のうちにクライアントから「直接、仙台に来てくれ」との要請を受け、現地に赴くことにした。今さら思えば、この要請は、産学官の多様な立場の人々が集まり、コンソーシアム的な要素を持つ会議では、話をまとめるのが難しいことを予期した上での「なんとかしてくれ」というSOSだったのではないだろうか。
仙台へ向かいながら、ヒゲの総帥はYouTubeの同じ動画を何度も観る。
指揮者のドゥダメルがロサンゼルス・フィルとリハーサルをしている模様を記録した動画だ。曲目はストラビンスキーのバレエ組曲「火の鳥」。
老若男女、多様な背景を持つ卓越した演奏家たちが集うオーケストラ。その彼らに指示を出し、友好的な関係を保ちながら限られた時間で演奏を磨き上げていくドゥダメルの手腕。彼のコミュニケーション技術やリーダーシップを事前に学ぶことで、今回のプロジェクト会議でも役立つのではないかと考えた。そして、結果的にその読みは正しかった。
動画の中で、ドゥダメルは楽団員にこう伝える。
「14歳から16歳の頃に戻ってください。すべてが新鮮で、失敗を恐れていなかったあの時期に」
仙台に到着後、ホテルにチェックインする前に、交差点の信号待ちで気になった牛タン屋に立ち寄り、腹を満たした。地元の人々とのダラダラとした会話を通じて、仙台独特のイントネーションや言葉遣いを自分の中に落とし込む。それは翌日のプロジェクト会議で効果的な発言のタイミングや言葉選びをシミュレーションするためでもあった。
『お喜楽プロジェクト』という名前に反して、実際のところはまったくお気楽ではない様相を呈しつつある。
つづく。