個人パーパスは「よりどころ」である
「一つの定職に就き、平日と休日がある」という画一的なライフスタイルから脱却を試み、FIREやワーケーションなど、これまでに比べて仕事と余暇の境界線がずいぶんあいまいな働き方を求める個人が増えていると思う。
こうしたライフスタイルが広がっていく中で、個人パーパスを設定しておくことが、いざというときのよりどころになるのではないだろうか。
私の個人パーパス
私が個人パーパスを意識したきっかけは、転職活動だった。私のように、30代後半以降の転職ともなれば、当然にライフスタイルの変化も伴ってくる。好きなこと、得意なことを仕事にして自力で食べていける人が増えるし、自然と働き方は多様化する。
そうなると、仕事に向き合う姿勢を重要視するようになってくるし、特にフリーランスなど自分で事業をやるとなれば、信用面で他人からも求められる場面が多くなる。
自分はどんな環境で、誰の役に立つために、どんな存在であるべきか?
仕事相手に逐一それを伝える必要はないが、それがにじみ出て相手に伝わるような仕事ができているかは、意識したほうがよいのだと思う。
実際に私が転職を決意した時、会社勤めを続けるべきか、フリーランスとして働き方に柔軟性を持つべきかなど形式的なことも散々悩んだが、結局自分の軸として仕事に対する向き合い方を考えることから始まった。
広報やPR・IRを長く経験してきた身として、これから自分はどんな環境で誰の役に立つために、どんな存在であるべきか?
そして行きついた私の個人パーパスが、「世の中に向けて届けるべきメッセージを持つ企業の、思いの言語化を支援する」ことだった。
私自身は何かを作り出すタイプではない。ただ世の中には、サービス、製品、アイディアなど、伝えたいものを持つ企業はたくさんあり、なかには言語化に困っている企業も少なくない。そういう企業のサポートが目的だ。もちろん、「届けるべきメッセージ」かどうかは自分の価値基準で判断し、共感できるものが対象である。
これを実現することで社会や地域、大事な人たちに貢献していると実感できれば、どういう形で働いていても自分は満足できると思ったのだ。
今はこの個人パーパスを実現する毎日を送っていると実感できている。
会社パーパスとの関係性をどう考えるか
組織に属しているなら、会社のパーパスを正確に理解するべきだ。企業理念や提供価値、事業目的などを織り交ぜたミッションに対し、それを自分の能力や存在価値でどのように実現させるのか?を考えてみることで見えてくるのではないだろうか。
個人パーパスの設定が後でも先でも、会社のパーパスとリンクしていれば働き方の満足度は高いはずだ。今いる環境で、自分が個人パーパスを設定し、それが満足いく形で会社のパーパスとリンクできるか想像してみると、現在の環境が自分に合っているのか客観的に判断できるのでは、と思う。
自分と仕事をつなぐパーパス
個人パーパスは、「やりがい」から「生きがい」を求め始める人に、より必要なものなのかもしれない。まだ若く経験が浅いと、組織の中で成し遂げたことに対して、仕事の「やりがい」を感じることはある。しかしそれは与えられたことに真摯に取り組んだ上で生まれる、ある意味受動的な現象だ。
一方「生きがい」を見つけることは、自分が主語となって世の中へ貢献するための役割を、能動的に見いだすことだ。それが個人パーパスとして自分が常に意識できる言葉として設定されていれば、常に初心に返ることができる。人は自分で見いだし、決めた言葉は、必ずよりどころにするからだ。
また組織の中で板挟みになったり、判断に迷ったとき、会社パーパスや個人パーパスに立ち戻って考えることは、会社や自分にとって正しい判断というのが何か、がおのずと見えてくるということもあるはずだ。
昨今次々と露呈している企業の不正会計問題なども、会社や個人の存在意義や志を振り返ることで、「今自分が取るべき正しい行動は何か」を判断できる。そういう環境や文化が醸成されていれば、結果は違ったかもしれない。
リモート環境が普及し、個人が隔絶された環境に置かれ続けると、組織に属しているか否かを問わず、自分の存在意義を見失いがちになることもあるだろう。働き方が多様化し、環境の変化に戸惑う人もいるかもしれない。
そんなときに、個人パーパスを設定していれば、あらゆる場面でつながりを見いだし、さらには物事の判断軸にもなる「よりどころ」を得ることになるのではないだろうか。