ご報告-トヨタ財団の助成による活動について
2020年10月から2023年3月まで、公益財団法人トヨタ財団の国内助成プログラム[そだてる助成]を受けて「探求と対話の広場 ―木賃で若者と地域が繋がり思考と実践が循環するコミュニティの創出」をテーマに活動しました。
◆活動の詳細はこちら(トヨタ財団HP)
上池袋に眠る「木賃」を、暮らしの中で足りないことを満たす身近で小さな場として活用する。
遊休化した木賃を使って、誰もが自分らしく生き、共に暮らす地域コミュニティを実現する。
探求と対話のプロセスを共有することで、上池袋に多く住んでいる若年単身者や留学生も地域の一員として、共に考え、挑戦でき、支え合えるようになる。
そんな大きな目標をたてて、①遊休化した上池袋の木賃「北村荘」の改修と、②探究と対話のコミュニティ「探求→究する家」の立ち上げ、③地域に住む人たち(特に外国ルーツの人、若年層)との対話の場づくり、を行いました。
かみいけ木賃文化ネットワークと、まちのシンクタンクを目指す「ラボラトリ文鳥」がタッグを組んで、取り組んだプロジェクトです。このレポートは、かみいけ木賃文化ネットワークの視点でまとめています。
コロナ禍の真っ最中で、壁にぶつかり、もがきながらも過ごした2年間でしたが、無事に「北村荘」も軌道に乗り、目指していた目標に向かいつつあります。取り組んだことをダイジェストで紹介します。
取り組んだこと
【北村荘の改修】
1964年築の木造2階建て。オーナーさんから管理の相談を受けたご近所の不動産やさん。なかなかユニークな木賃だったこともあり、2020年のはじめ頃、私たちに借りてくれないだろうかと打診がありました。1Fと2Fは同じ間取りの8畳間でした。1Fをコミュニティスペース「探求→究する家」として、2Fはそのメンバーが住むシェアハウスに改修しました。できるところはみんなでDIYで行いました。自分たちの場づくりから始めることで、場に対する愛着が沸きました。
みんなでDIY
完成した北村荘「探求→究する家」
【探求→究する家の運営】
北村荘1階の「探求→究する家」は、研究者が中心となって運営を始めました。「探求」「探究」といっても、その心をもつ人であれば、誰でも参加OK。会社員、アーティスト、医師、子育て真っ最中の方や教育関係者などが参加しました。普段は、探求メンバーの学ぶ、働く場所として。時折、「市民科学」「食とことば」「論文書けない」などメンバーが気になるテーマを深堀りするトークイベントや自主研究などが行われています。
また、上池袋は外国ルーツの住民や留学生が多く住む地域であるため、板橋にあるJET日本語学校にお声かけしたところ、暮らしの中で日本文化を感じる場がほしいという声を頂きましたが、残念ながら助成期間中のコラボレーションは叶いませんでした。(後日談は、最後に…)
●「探求→究する家」は引き続きメンバー募集中です。https://tankyusuruie.wixsite.com/home/blank
北村荘のお披露目会
地域の高齢者から地域でのライフヒストリーを聞く
【みんなのふるさと料理クラブ】
料理を通じて外国籍ルーツの人たちとご近所付き合いをしたい。しかしながらコロナ禍で、誰かとともに食卓を囲むことが難しくなってしまいました。まずはできるところから進めて「探求→究する家」のミャンマールーツのメンバーと文学作品に登場する「ふるさとの味」を実際に作ってみたり。そんなとき、たまたま北村荘の隣に住んでいる方「千田(せんだ)さん」が台湾出身の料理人だと発覚。千田さんに教えてもらったガチ台湾料理をきっかけに、海外ルーツのご近所さんたちの顔が見える関係ができてきました。ほかにも、ネパール人ファミリーとネパール食材が買える店に行き、ネパールの家庭料理を教えてもらう交流も。
料理を通じて多数対多数ではなく、個人対個人で顔の見える関係が出来たのは大きな一歩です。
千田さんから花巻づくりを教わる
ネパール人女子高生とネパール料理づくり
【現代民俗学会第67回研究会「生活と探究の民俗学:上池袋・木賃アパートから考える」】2023年3月12日開催
「探求→究」する家の一つの成果。北村荘という木賃と向き合うことで立ち現れてきた出来事を現代民俗学の視点でひも解く取り組みをおこないました。「木賃」をローカルな活動を活性化しえる要素として注目し、その研究結果を学会で発表しました。http://gendaiminzoku.com/meeting.html#meeting67
【IKEBUKURO LOCAL MEME(池袋ローカルミーム)】
地域で活動する人を開拓すべく、EDIT LOCAL LABORATORYとの共催で、まちの遺伝子から「大人の部活」プロジェクトを立ち上げる市民ワークショップ「LOCAL MEME」の池袋版を行いました。何かやりたいと思うけど繋がるきっかけがなかった人たちをターゲットに、2022年10月と2023年3月の2回に分かれて開催。会社員、公務員、学生、フリーランスなどなど20名ほどが参加しました。
1回目はサンシャインシティのご協力のもと、「子育て」「多文化」「週末起業」をテーマにしたチームに分かれて、プロジェクトの構想と立ち上げを行い、2回目は、その成果発表を含めたトークイベントをRYOZANPARKで開催しました。このワークショップからは、異文化理解に取り組む「いけぶくろタタタ」と、地域のクリエイターとものづくりしたい人をつなぐ「いけぶくろクリエイティブ学級」が誕生しました。
「いけぶくろタタタ」は、多様なルーツを持つ人たちが多く暮らす都市・池袋で多文化・多国籍・体験をテーマに交流する機会をつくる取り組み。そして、「いけぶくろクリエイティブ学級」は、池袋を消費のまちから創造のまちに変えていこうと、地域のクリエイターが何か作りたい人・企業の一歩を応援するものです。
詳細の記録がこちらに掲載されています。ぜひご覧ください。
いけぶくろタタタのイベントの様子
いけぶくろクリエイティブ学級のイベントの様子
【クイズでおさんぽ:かみいけスタンプラリー】2023年3月26日開催→4月1日順延開催
これまでの地域活動の集大成ともいえる謎解きイベント。地域にもっと関心をもってもらいたいという思いで探求→探究メンバーが組み立てました。参加者が昔の地図や史跡を手がかりに、上池袋に残る昭和初期から平成までの暮らしの痕跡をたどり、当時の生活に想いを馳せてもらう。「くすのき荘」からスタートし、子安稲荷やお茶上がれ地蔵、かつての銭湯跡地を巡って、最後に北村荘に辿りつくというもの。
20名を超える参加者一人一人に「木賃ベルト」(井上ヤスミチさん作)なるものが渡され、謎を解くごとににアイテムが装着されて、立派なベルトができあがっていきます。上池袋に潜む資源を一生懸命探す、考えるプロセスを楽しみながら共有することができました。
スタンプラリーのチラシ
photo by 佐藤珠貴
できたこと・おこったこと
地域コミュニティで活動する、というのは一朝一夕にはいきません。この場に関わる一人ひとりが、時間をかけて地域になじみ、顔見知りができ、何気ない会話をして・・・そこから始まります。この2年半、なかなかそれが叶わない日常が続きましたが、ようやくスタートラインに立てたように思います。この助成が無かったら、もっと時間がかかったことでしょう。プロジェクトをきっかけに、若年単身者が新たに上池袋を中心に活動するようになり、4人の若者が新たにこの地域に棲むことになりました。「探求→探究する家」のメンバーも、新たに医療職の人や元学校教員などなど、徐々にすそ野を広げてきています。
2022年に喫茶売店メリーが「くすのき荘」に誕生しましたが、千田さんと知り合ったことをきっかけに、台湾メニューが出来上がりました。それを機に周囲の台湾人や留学生たちと繋がりを持つことができました。また、料理を教えてくれたネパール人の高校3年生のケサビちゃんが、喫茶委売店メリーでアルバイトを始めました。
そして、コロナ禍ではご一緒することが難しかったJET日本語学校の学生さんたちですが、新たに豊島区各所で立ち上がったCCC(クリーンナップコーヒークラブ:地域のごみ拾いしながら交流を深める)の上池袋版に参加してくれるようになりました。
大きなイベントごとを重ねるよりも、数時間でも繰り返し時間と場を共にすることで、新たな(これまで見えていなかった)地域像が見えてきています。
千田さんと集合写真
喫茶売店でアルバイト中のケサビちゃん
また、うじうじと悩み、時には壁にぶつかり、試行錯誤してきた「探求→探究する家」の取り組みは、時間の経過とともにゆーっくりと花が開いてきていて、地域の土壌に根っこがしっかりと張りつつあります。
貴重な資源と機会をくださったトヨタ財団さん、一緒に取り組んだラボラトリ文鳥のみんな、ありがとうございました!!!
作ったもの
多言語フリーペーパー「百舌(もず)」
「たんきゅうワークブック」
「木賃アパートを拠点とする探究と対話の実践」(活動の記録)
関係・協力団体一覧
ラボラトリ文鳥 (プロジェクト主催団体)
かみいけ木賃文化ネットワーク (プロジェクト主催団体)
千十一編集室 (IKEBUKURO LOCAL MEME ディレクション)
EDIT LOCAL LABORATORY (IKEBUKURO LOCAL MEME 共催団体)
あさがお不動産株式会社 (不動産情報提供)
株式会社サンシャインシティ (IKEBUKURO LOCAL MEME 協力企業)
JET日本語学校 (情報交換・交流)