同僚の顔が分からない ― 35歳で初めて気になる自分の認識する世界(2) ―
いつもお読み頂いている皆さま、おはこんばんにちは。初めての方はクリック頂き、ありがとうございます。もくくもと申します。
普段はITやガジェットといった、デジタル分野に関するニッチなネタを記事にしています。
ですが、このシリーズでは、自分のからだというか脳というか、自分の認識している世界がどうやら他の方々と違うようだぞ?という事に薄々気づき始めた私が、自分に関する話を何回かに分けて書いて行くという内容になっています。
いつもと違って答えや解決策があるような話題ではなく、単なるつぶやきです。もし似たような境遇の方や専門家の方からコメントを頂ければ嬉しいですが、基本的にはただの独り言です。その点、ご容赦の上、お読み下さい。
さて今回は第2回ということで、『他人の顔が分からないことがある』という話をしたいと思います。
1. 会社に入って初めて気付いた違和感
私の経歴は、幼稚園から始まり、小学校・中学校・高校・大学と進み、その後社会人となりました。
私は、とある地方の更に田舎の出身で、小学校は1学年100人未満、中学校は小学校から全員スライド(※公立)という小規模な町で育ちました。中学校の同級生も上級生も下級生も、すべて小学校からの知り合いであり、知らない人はほぼいないような世界で過ごしていました。
高校に進み、さすがに全校生徒は圧倒的に増えはしましたが、クラスや部活、委員会といった規模で生活をしていると、面と向かって対話をする人間は限られており、小中学校と大差はなかったように思います。
大学は総合大学なので学部も学科も数多くあり、学生の数も教員の数も桁が跳ね上がりますが、全学部共通の授業で他の学生と交わる事はほぼ必要なく、共同作業の必要な学科の専門の授業は、1学科60人程度ということで、日常的に関わる人間は、小中学校よりも寧ろ少なかったように思います。
特に長期のバイトもしておらず、サークルにも入っていなかった私は、そのような少ない交友関係のまま、社会人になりました。
社会人になって、同期との研修を終え、部署配属となった後も、新人の私はやる仕事が限られていますので、他部署とのやり取りはほとんどなく、あったとしてもメールで済むような内容ばかりでした。
ところが入社してから2-3年ほど経ち、他部署とのやり取りが増えてくると、とある違和感に気付きました。
それは、○○部のAさんの顔が分からない、というものでした。
とある用事があり、その人が所属部署まで歩いていき、声を掛けようとしたのですが、いざその部署に着くと、その人がどの人なのか、もしくは席に居ないのかが判別付きません。
その時は、「そういえばちゃんと顔、憶えてなかったな」と思いながら、一番手前に座っている方に「Aさん居ますか」と声を掛けて、事なきを得ました。
また別の日、今度はAさんとは違う部署のBさんを探そうとしましたが、やはりこの時も顔が分かりませんでした。ですがそのBさんとは、前日対面で打ち合わせをしたばかりでした。
さすがにこれはおかしい――と思えれば良かったのですが、当時の私はそれほど違和感を持ちませんでした。というのも私、人の名前も憶えるのがひどく苦手だったので「自分は人の名前も顔も憶えるのが苦手なんだな」程度に考え、大ごとには捉えませんでした。
その認識が変わったのが、コロナのパンデミックが落ち着き出し、少しずつ人々が街中に出始めたタイミングでした。
コロナ直後はフルテレワークとなった弊社も、毎日の出社が必須となり、マスクをして出社をするようになったのですが、その時気付いてしまいました。
「誰の顔も分からない!」
2年弱フルテレワークとなり、同僚の誰とも顔を合わせなかっただけでなく、マスク着用必須となりみんながマスクを付けて出社をして来た結果、誰が誰だかまったく分からなくなってしまいました。
座席が決まっていたので、自部署のメンバは2-3日経てば何となく判別する事が出来ましたが、他部署はコロナ中の異動も相まって、誰が誰だかまったく分かりませんでした。
ところが周りの同僚は、平然とこれまでのようなやり取りを続けている。そんな状況を見て、さすがにこれは何かおかしいと思い、調べてみることにしました。
2. 相貌失認(prosopagnosia)の存在と簡易テスト
そんな中ネットで見つけたのが、『相貌失認』という単語でした。
相貌失認(そうぼう・しつにん)というのは、程度の差はあるものの、人間の顔を判別出来ないという脳の障害の一種で、重度の方だと自分の顔さえも分からないとのこと。
ただ自分は別に他人の顔がまったく分からないという訳ではなく、寧ろ自分の中では判別が出来ているという感覚です。また、自分の顔はきちんと判別出来ています。他人の顔も、親兄弟や友達、同じ部署のメンバは特に支障なく判別出来ているので、自分はこれではない、と最初の頃は思っていました。
ですが相貌失認で検索して出てきた簡易テストを試してみると、「あなたは他人を髪型や服装、体型で判別していますか」や「他人に話しかける際不安に感じることがありますか」といった設問が出てきており、そこで初めて「自分が顔以外の部分で個人を特定している」ことや「座席表を確認しないと怖くて他部署に行くこと出来なくなっている」という事実に気付きました。
いろいろと自分の中で整理をしてみると、自分は以下のポイントで他人を識別しているようだという事が分かりました。
1番は言わずもがな、2番も個人的に重要だったようで、休日に予期せぬ場所で知り合いに会うと、反応出来ず、向こうだけが気付いているという出来事が何度かありました。また会社の中であっても、その人が普段訪れないようなフロアで遭遇した時に、誰だか判別出来ないという事がしばしばありました。
このように症状を調べれば調べるほど、相貌失認の疑いが増して行った私は、ケンブリッジ顔記憶テストという物の存在に辿り付き、ネット経由でテストをしてみることにしました。
3. ケンブリッジ顔記憶テスト
ケンブリッジ顔記憶テストというくらいなので、ケンブリッジ大学のサイトで受けられるのかと思いきや、ロンドン大学バークベック・カレッジというところが公開をしていました。
テストは、髪の毛が隠されてスキンヘッドになっている顔の写真を憶えたのち、この中のどれがさっき憶えた写真か?というのを答える形式のものです。
1つの写真に対して3つから1つを選ぶものもあれば、9人の顔を20秒程度で憶え、それを3つの中から選ぶ×数問というものまで、いくつも設問がありました。また、顔の向きが正面・斜め右・斜め左など、顔の向きが変わるというのも特徴です。
3つの中から1つを選ぶのは、まだ何とかなるのですが、9人の顔を憶えるテストについては、正直さっぱりでした。どれも同じように見えてしまいます。
という感じで、2020年当時テストをした結果がこちら。
成人の80%程度が平均の正答率で、60%以下が相貌失認(face blindness)の可能性があると書かれています。そしてこの時私は、51%の正解でした。
因みに今回、もう一度試してみようと思ったのですが、現在このサイトは閉鎖されており、TESTMYBRAINというサイトで同じケンブリッジ顔記憶テスト形式のテストを受けてみました。
その結果がこちら。
51/72問ということで、70.1%の正解でした。うん、微妙です。このサイトの平均スコアが77.3%という事なので、平均よりは低いけど、60%以下ではないので、どっちだかよく分からないという結果になりました。
ただ一応、相貌失認というものがあり、テストの結果も平均よりは低いという事が分かっただけでも、意味はあったのかなと思います。
4. テストの結果に関わらず
テストの結果から、自分が単に人の顔を憶えるのが苦手なだけな人間なのか、相貌失認なのか判別する事は出来ませんでしたが、うまく判別出来ないという事実は変わりませんので、うまく付き合っていく必要があります。
因みに、自分が人の顔を見て同一人物かどうか判別に迷うポイントは、以下のようなシチュエーションです。
こういったシチュエーションはしばしば起こるので、こういった際に対処出来るように、ひとまず自分がいま気をつけていることを、メモがてら書いておきます。
もしかすると、傍から見れば何言ってんだ?と思われるような内容かもしれませんが、本人は至ってマジメに考えていて、これを日常的に考えておく必要がある為、人付き合いが面倒だと感じる事も多々あります。
5. これからの付き合い方
こんな感じで日々小手先の対応で生活している私ではありますが、自分の場合は軽症(?)という事もあり、また、気をつけるポイントをある程度把握出来ている為、幸いにもそれほど日常生活には苦労していません。
一方で、これらの症状により日常生活に苦労されている方は、気付かれていないだけで、少なからずいらっしゃるようで、程度の差はあれど「成人の1から5%に見られる」との説もあります。(ナショナルジオグラフィックより)
そんなに大変であれば、「みんなに伝えれば良いのでは?」と思う方もいるでしょう。ですが、会う人会う人に説明するのは面倒ですし、伝えた上で相手に変な気遣いをさせるのも、それはそれでこちらの心理的ストレスが大きいので、なかなか難しいと思います。私も今のところは、家族・友人含め、伝えるつもりはありません。
もし今後、小手先の対応が通用せず、本格的に生活に支障が出てきたときは、伝えた上で手助けをしてもらうことも考えなければいけないなと思いますが、常に事情を知っている人が側にいる訳でもないので、結局は自分でなるべく対処するワザを身につけるほかないと思っています。
ですが、もしあなたの身近な方で、この症状を打ち明けてくれた方がいたとすれば、どうぞ気負わずサポートをしてあげて下さい。
そっと名前を教えてくれたり、相手の名前を呼んで挨拶をするといった、日常の動作の延長で構いません。名前が分からない場合は、部署名とか関わっている案件名といった、キーワードを出すだけでも構いません。
助けるぞ、と気負わず、普段の会話の流れにほんの少し情報を付け足してあげるだけで、きっとその方には大きな助けとなるでしょう。
何も、サポートをする事だけがすべてではありません。こういう人が世の中にはいるのだと、頭の片隅に置いておいてもらえるだけでも充分です。知っている方が増えるだけで、心強く思います。
また、もしこの記事を読んで、自分もこういう症状だけれど、今回初めて相貌失認という言葉を知ったという方がいれば、知るきっかけになれた事を嬉しく思います。もし今まで行きづらさを感じていたのだとすれば、今後の生活がより良い方向に進むことを願っています。