加・米を結ぶ「キーストーン」
本日はロイター通信社発のカナダ、アメリカ合衆国に跨るニュース。
カナダとアメリカ合衆国を結ぶ主要なパイプライン、キーストーンパイプラインが全面的に稼働を再開したとのこと。
このニュースに先だって、今月の始めに同パイプラインから原油が漏出、数日後には稼働再開時期が見通せないとして、原油の供給懸念が浮上、先物価格の上昇圧力になりました。
このパイプラインはカナダのアルバータ州からメキシコ湾岸の精油施設に向けて原油を輸送するルート。
その総延長は5,000kmに達し、日本の南北幅(およそ3,000km)の1.5倍を超える長さになります。
実はこのパイプライン、アメリカでは10年以上にわたって大きな論争を巻き起こしていたもの。その論争の主因が環境問題でした。
このルートはアメリカ合衆国西部のグレートプレーンズを縦断し、世界最大の化石水の地下水層、オガララ帯水層が存在する地域とかぶっていることが、両者を比較すると分かります。
オガララ帯水層は、アメリカ合衆国西部の飲料水であると同時に農業を支える重要な水源です。
そのため、事故による原油流出が取り返しのつかない事態になるという懸念から、その建設に強硬に反対する人々も多かったのです。
また、もう一つはアルバータ州で採掘される原油の正体は、重質の「オイルサンド」であるということ。
オイルサンドは石油がしみ込んだ砂岩で、カナダはその7割が埋蔵されています。
しかしこのオイルサンド、非常に粘性が高く処理が難しい。そのため、オイルサンド由来の原油は従来の原油より、採掘時に20%、燃焼時に30%近く多い二酸化炭素を排出すると言われています。
一方で、この原油の輸送はアメリカ合衆国におけるエネルギーの調達を安定化させ、メキシコ湾岸の産業の活性化につながるとの意見もあり、両者が鋭く対立していました。
この論争は大統領選挙の争点の一つにもなり、オバマ大統領は建設反対派、トランプ大統領は推進派、バイデン大統領は反対派でした。
そのため、同パイプラインの最後のプロジェクト「XL」は、トランプ大統領が建設を許可したものの、バイデン大統領によって取り消されています。
今回、このいわくつきのパイプラインからの原油漏出事故ですので、また世論が沸騰する可能性もありますね。
というわけでこのニュース、地理の履修者にとっては「オイルサンド」「オガララ帯水層」「グレートプレーンズ」の3点に関係するお話でした。