ウォッシュド

好みのコーヒー豆を見つけよう! その5

前回までの記事では、主にコーヒーの品種について触れてきました。
まだまだ面白い品種はあるのですが、その前にご質問いただいたことがありますので、そちらについて触れていきたいと思います。

そのご質問の内容は、「精製方法」についてです。
精製とは、コーヒーの実(コーヒーチェリー)を収穫した後、どのようにして生豆(種)を取り出すのか、その方法のことです。

たいていはパーチメントまで取り除くのですが、中には果皮と果肉までしか取り除かない精製方法もあります。


というわけで、今回は…

コーヒー豆の精製方法と、味の違いについて

です。

まず、代表的な精製方法を列挙してみます。

①ウォッシュド(水洗式)
②ナチュラル(ドライプロセス、乾式)
③パルプドナチュラル(半水洗式)
④その他

ということで、精製過程で水をどのように使うのか、という点で分かれているイメージですね。
その他では、もっと変わった精製方法をご紹介します。

では、順番に見ていきましょう。

①ウォッシュド

ウォッシュドは、現在流通しているコーヒー豆で最も広く採用されている精製方法です。
なぜこの精製方法が多いかというと、
欠点が少なく、均一性のある豆を大量に精製しやすい
からです。
品質が安定し、商品価値が高くなりやすいんですね。

これは、ベトナムでの精製過程の1場面です。

大まかな作業の流れとしては、

コーヒーの実を水槽に入れる(比重の軽い異物を取り除く)

果肉除去機(パルパー)で果皮と果肉を取り除く

ミューシレージを取り除く(発酵槽or機械)

水洗い

乾燥

貯蔵庫で熟成

パーチメントの除去(脱穀)

ミューシレージは、コーヒーチェリーの粘着質(ペクチン層)のことです。ジャムなどに使われる増粘剤と同じ成分ですね。

ウォッシュドの場合、異物除去・ミューシレージ除去・水洗いの3つの工程で水を使っています。

ここで記憶にとどめておいていただきたいのが、
水洗い・乾燥の前にミューシレージを除去している
という点で、これがウォッシュドの一番の特徴です。

後述しますが、このミューシレージをどう扱うかで、同じ品種・産地でもかなり風味が変わります。

ウォッシュドの場合は、早い段階でミューシレージを除去するため、全体としてすっきりとしたクリアな味になりやすいです。

また、工程内で異物や欠点豆の除去がシステム的に行われるため、欠点が少ないことが特徴です。
欠点豆の中には、1粒で50gの豆をダメにする、と言われるほど品質に影響が出るものもあるため、欠点豆が少ないことはそれだけでアピールポイントになります。
欠点豆についてはこちらでも少し取り上げましたので、よろしければご覧ください。


しかし、大量の水を使用するため設備が整っている地域でないと取り入れることができない方法でもあります。
また、排水の環境に対する負荷も問題になっています。


ここで、ウォッシュドという精製方法がどのような経緯で生まれたのか、簡単に触れたいと思います。

ウォッシュドが開発されたのは19世紀に起きた、2度にわたるコーヒーブームがきっかけでした。
第一次はナポレオン戦争の後くらい(1920年代)、第二次は南北戦争の後くらい(1970年代)です。

このコーヒーブームでコーヒー豆の需要は爆発的に高まったのですが、当時の主産地(カリブ海諸国)は大きな問題を抱えていました。

当時の精製方法は、ナチュラル(ドライプロセス)なのですが、
この方法は
乾燥に時間がかかることや、コーヒーチェリーを広く地面に敷き詰めて乾燥させる必要があり、効率が悪い
ことが問題でした。

特に時間がかかることは問題で、カリブ海諸国は雨が多いため、途中で雨に当たって腐ってしまうこともしばしばでした。

そのため、大量のコーヒーチェリーを短時間で精製し、乾燥させる技術が求められたのです。


その解決方法として1845年、ジャマイカで生まれたのがウォッシュドです。

傷みやすい部分(ミューシレージ)まで効率よく徹底的に除去するため、果皮と果肉を除去した後、水槽(発酵槽)に一晩漬けます。

そうすると、水中の微生物がミューシレージを発酵させ分解します。
仕上げに水洗いすれば、ミューシレージまで綺麗に除去できる、という仕組みです。

さらに、1850年の果肉除去機(パルパー)の開発で、ウォッシュドの精製効率はより向上し、1週間程度かかる工程が3日ほどに短縮されました。

こうして、ウォッシュドは最も効率の良い精製方法として、用水が得られる生産地に積極的に導入されることになります。


さて、次回以降にもう少し詳しく触れていきますが、コーヒー豆の精製は単に「外側の部分を取り除く」というだけのものではありません。

上記の工程を見て、おや?とお感じになった方もいらっしゃるのではないでしょうか?

そう、「発酵」「熟成」という言葉です。

実は、コーヒーの風味を決定づける大きな要因が、「発酵」にある点はあまり知られていません。

ウォッシュドの場合、ミューシレージの除去のために発酵が行われましたが、他の精製方法では発酵はまた違った形で精製工程に入ってくることになります。

次回以降は、その部分も含め、他の精製方法について取り上げていきたいと思います。

長くなってきましたので、今回はここまで…ということで。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!

瀧波一誠
サポートは、資料収集や取材など、より良い記事を書くために大切に使わせていただきます。 また、スキやフォロー、コメントという形の応援もとても嬉しく、励みになります。ありがとうございます。