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痴漢もどきに遭った話。


本当なら書かなくていいことだし、「そういうこと」に遭遇するのはとても怖いことだ。覚えていたいわけではない。だが、忘れてはいけないことだと思う。
だから、自戒のために今文字を打っている。

とある朝だった。
いつもよりおしゃれをして、意気揚々と私は電車に乗った。
2ヶ月ほど会っていない友人と遊ぶのだ。遅れたりしてその時間を削るわけにはいかなかった。
だから予定より一本早い電車に乗った。
車内は空いていて、長椅子には男性2人が座っていた。黒スーツのサラリーマンと、グレーのパーカーをフードまですっぽり被った男性。彼らの間には広いスペースがあって、私はそのスペースの中間に腰を降ろした。

普通電車は、ゆっくりと進んでいく。行きたいカフェのメニューや友人との会話をスマホでチェックしながら、今か今かと大阪への到着を待っていた。
友人との時間が待ち遠しいから、だけではない。

異様な視線を感じたのだ。
チラリ、とそちらを見てみるとパーカーの男性がじっとこちらを見つめていた。一瞬、目が合う。彼は知り合いだっただろうか。多分違うな、とスマホに視線を戻す。すると男性も視線を床に向けて眠った。
私は安心してスマホを見続ける。
Instagram、Twitter、Facebook。利用しているSNSを片っ端から流し見ていく。
ゴクリ、と私の喉が鳴ったのは、また視線を感じたからだ。気のせいでなければ、視線の位置が近いような。まるで、スマホを覗き込まれているような。
LINEを開いた。男友達の欄を開く。彼氏だと誤解してほしかった。今から思えば、もし思惑通り誤解されたとしても関係なかった気はするが。
視線はなくなった。彼はまた下を向いて目を閉じた。
そうだ、私も眠かった。いつもより早起きしていたことを思い出した。だが今目を閉じたら、無事に目的地に到着はできないと思った。
目は画面を見たままで、神経を男性に集中させる。彼の視線はゆっくり移動する。顔、身体のライン。じっと、じっと見つめられた。
反射のように私の指は忙しなく動く。怖くてじっとしていられなかった。

男性がすっと立ち上がる。吊革に掴まり、私の目の前に立った。
なにこれ。
なんだこれ。
私も立って逃げる?けれど逃げたことがあからさますぎたら?
どうすることもできずに指だけが動く。どうにか男性から意識を逸らしたかった。
そうだ、友人と会ったらこのカフェで紅茶を飲もう。あとこのコスメが気になる。そういえばこの前友人が行きたかったお店って、

たん。

男性が一歩前に踏み出した。
私の思考はすべて止まった。
至近距離に、男性の股間があった。あと一歩踏み出されたら、顔に、
気づいたら走り出していた。
車両の端まで駆け抜けていく。
そこには人がまばらにいて、ギョッとしたように私を見ていた。

電車が止まった。どうやら駅に着いたようだった。
そうだ、一度降りて次の電車に乗ろう。まだ待ち合わせ時間には余裕があった。
降りてひと息つく。が、男性はこちらをじっと見て、ゆっくりとホームに降りた。
追いかけてきたのだ。
慌てて先程降りた電車に飛び乗った。
恐怖で息が荒かった。まばらに人がいる中、目の前に年上の女性がいた。
「あの、あの、」と言葉を探した。実際は声も発していないかもしれない。ただ助けを求めた。
女性は「ここ座りな」と隣を空けてくれた。
男性が追いかけてくることを伝えると、「わかるよ。ここにいて」と頷いてくれた。周りを見ると、皆心配そうな顔をしていた。その後自分が何を言ったかは忘れてしまったけど、泣きそうなほど安堵したことは覚えている。
男性はその駅で降車したまま、ドアは閉まり電車は大阪へと走り出した。
あの女性にお礼を言いたいが、きっと会うことはないのだろう。こんな電子の片隅ではあるものの、もう一度この場を借りて伝えたい。
本当にありがとうございました。

さて、「痴漢」とはなんなのだろうと私は考える。
電車内でのよくある痴漢、という記事を2、3ほど流し読みしたが、どうやら私の受けた被害(になるかも微妙)は痴漢の定義からは外れるそうだ。
納得できずに4つ目を読んだところ、「触らない痴漢」というものがあるらしかった。故意に持ち物に股間を押し付ける行為がそれにあたるらしい。ただ、そうなる前に私は逃げたので明確な被害にはあたらないだろう。
しかしその「触らない痴漢」の記事も、「冤罪であった場合」という項目にあったものだった。要は、被害者側のものではなかったのだ。
冤罪はあってはならない。それで人生が終わってしまうケースもある。それを晴らして誰かの人生を救うのは大切なことだ。けれど、この「微妙なラインの気持ち悪さ」に寄り添うような文字が読みたかったのが、紛れもない本音である。

この日のことを思い出しては、ずっと後悔している。
あの男性は某駅で降りて、どうしたのだろう。どこに行くでもなく、違う電車に乗り換えて、また誰かに怖い思いをさせたのかもしれない。あの日私が、通報なりなんなりで止めておくべきだったかもしれない。そうやって後悔し続けていくんだと思う。彼が一時の気の迷いであんなことをしたのだとは、私にはどうしても思えないのだ。
だって彼は、私と目が合ったその一瞬、口角を上げてニヤリと笑っていた。


ーーー
あとがき、と言うか補足

誰も幸せにならない備忘録。怖かったです。
このnote知人にフォローされてるのであんまり読まれたくないなと思ってる。だって嫌じゃん、「あ、アイツ痴漢にあったやつだ」とか思われるの。
でもこういうヤバいやつもこの世にはいるんやで…気をつけておくれ…という発信をどうしてもしたくて公開を決めました。誰かに届いてほしい。



自戒とは?
この記事、自戒の念を込めて書きました。
猛省すべきは「女性専用車両に乗らなかったこと」です。
真隣が女性専用車両でした。それに乗らなかったのは、特に何も警戒していなかったこと、あとは単純にその車両が混んでいたから。確実に座りたかったんですよね、早起きしてて眠かったから。
混んでる理由なんて、考えるまでもないのにね。

どこからが痴漢?
これ法律に詳しい方がもしいて、認識として間違ってたらほんとごめんなさいなんですけど、私は猛ダッシュして直接的な害を被ってないので、起訴とかはできないのかなぁと思ってます。だからもしあの日の私に勇気があってちゃんと通報できていても、彼は注意を受けただけなんですかね。被害に遭っときゃ良かった、とは思えませんが悔しいな。
確実に怖い思いをしたのに、この場合被害にはあたらないのでしょうか。そうだとしたら、うーん。言葉を選ばずに言うと、おかしくないですか?

教訓(ってほど大それたものではないが)
女性専用車両、乗ろう。
まじのまじのまじで。
平日の朝っぱらでも、やべー奴はやべーのです。
ただ女性専用車両は土日祝はないし、あったとしても油断はできませんが。
怖いものは怖いです。
警戒心は絶対に持っておこう。

余談
助けてくれたお姉さんは途中で降りてしまったので、そこから何駅か震えながら座ってました。電車が駅に着いてドアが開く度に怖くて、ずっと怯えていたのを覚えています。
隣が女性専用車両だと思い出して移動してから、安心感でまた泣きそうになりました。
最初からそっちに逃げとけよ、とお叱りを受けそうですが、車両間のドアは固く開けるのにそこそこ時間がかかります。その間に真後ろに立たれていたら逃げられる気がしなかったなぁ、と思っています。
あと仮に逃げられたとしても女性専用車両にあの男性が入ってくるかもしれない。そうなるとそこに乗っていたたくさんの女性が巻き込まれたかも。
最悪のタラレバを考えて、これが最善だったと言い聞かせる日々です。
奴が痴漢にならないのは腹が立ちます。けどそれはもはやどうでもよくて、それよりも私が止めなかったことで怖い思いをする女性がいるのかもなぁ、と考えたら後悔してしまいます。身を守るときって、なかなかそこまで想像がはたらかないのですね。つらいなぁ。


次はもっといいことを書きたいですね。私の最新記事がこれってつらすぎる。笑

それではこの辺で。
ありがとうございました!

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