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十年。

 今の場所に引っ越して来たころ、その家の風鈴が鳴るのが芝生越しによく聞こえた。りんりんと鳴った。夏がすぎ秋になっても、風鈴はしばらくは吊るされたままで、風がある夜などは蕭殺(しょうさつ)とした音いろに聞こえた。蛇笏だな、くろがねの秋の風鈴だなと、そのころしきりに思ったものである。
 その風鈴が、ここ一、二年は夏が来ても鳴らなくなった。しかし考えてみると、引っ越して来てあらまし十年ほどはたっているのである。十年と言えば、どのような理由であれ、ひとつの風鈴が鳴らなくなるのに十分な歳月であるように思われる。

藤沢周平『小説の周辺』

十年なぁ…。

私、まだまだ、2年弱です。σ(^◇^;)