市川猿之助丈の一件とメディアリテラシー、報道について考える
市川猿之助丈の一件が世間を騒がせている。大手メディアの報道、スポーツ紙の報道、テレビニュース、ワイドショー、各種SNSの個人の感想、玉石混交の情報が行き交っている。何が嘘で何が本当なのか、わからない状況である。
ひとつわかっているのは、「市川猿之助は意識がある状態で搬送され、父の市川段四郎は病院で死亡確認、母はその場で死亡確認」ということである(NHKニュース)。
この状態からはあらゆる可能性が考えられる。あらゆる可能性を考えた上で、報道にあたる必要がある。市川猿之助は大きな名跡だ。大きく報道したくなるのはわからなくもない。しかしここであえて抑える必要があったのではないか。
例えば、厚生労働省からは「自殺報道のガイドライン」が出ている。
これは、市川猿之助丈の件を踏まえて出された最新の「お願い」に記載されている。これをきちんと守っているメディアがどれほどあっただろうか?もちろん、このあたりの基準は明快なものではなく、個々の判断基準に任される部分が大きい。しかしそれでも、この「お願い」を無視するような形での報道がなかったと言えるか?
続報では、以下が報道された(時事通信)。
この情報は、自死を願う人達に火を付けるには十分だった。Twitterを見ていると、オーバードーズ(薬の過量服用)自慢(大量に飲んだが死ねなかった等)が次々と投稿されている状況である。この影で、実際に死ねるか試して死んでしまった人がいないとは言い切れない。死んでしまったらSNSへの投稿はできないから、確かめようがない。
ここで、もう一度厚生労働省の「自殺報道のガイドライン」を思い出してみたい。
これを守ったメディアがどれほどいただろうか?
厚生労働省からは、主に精神科関連分野で働く人向けに、「向精神薬等の過量服薬を背景とする自殺について」というお願いが出ている。
すでに10年以上前になるが、このような「お願い」を踏まえ、精神科医療領域では適切な薬物処方がされているはずである。なおかつ、現在処方される向精神薬は、過量服用(オーバードーズ、OD)してもそう簡単には死なないようになっている。
SNSに散見されるオーバードーズ自慢を見てもそれはわかる。大量に飲んでも、胃洗浄されたり、しばらく眠り続けたりしてから眠りから覚めたりしている。致死量があっても物理的に飲みきれない、ということをこれらのSNS投稿は如実に表している。
市川猿之助丈に関する続報は次々と出ている。しかしここでは、それらはあえて引用しない。厚生労働省の「お願い」を無視する形になるのは本望ではない。また、どこまでが嘘で、どこまでが本当か、センセーショナルさを争うような報道を見るにつけ、わからないからである。
メディアリテラシーについて紹介しておく。これらを頭に置いて情報を受け止めることで、冷静に頭の中で情報を整理できるようになる。
白鴎大学特任教授で、元TBSキャスターの下村健一氏の提唱する、情報を受け取るにあたっての「四つのハテナ」である。
この記事は子ども向けの教育を題材に取っているが、この「四つのハテナ」つまり「ソ・ウ・カ・ナ」は大人にも十分有効だ。
さらに、ここでひとつ動画を張っておく。全編で5分弱だ。一見支離滅裂な内容のアニメに見えるが、情報リテラシーについてわかりやすく説いている。
もうひとつ動画を紹介する。これは全編見ると1時間45分近いが、前述の「四つのハテナ」他、それに関する情報への向き合い方「スイスイスイッチ」や「熊里に人が出た」等を丁寧に説明している。
さらに有効なのが「ファクトチェック」である。すでに発表された情報に疑義が生じている場合、検証することで真偽判定し発表する。市川猿之助丈の件については今のところ、ファクトチェックにまで至るような情報は把握されていないが、いつ出てくるともわからない。
ファクトチェックについては、日本でもTwitterの「コミュニティノート」機能が本格導入され、一部の真偽不明情報には、真偽を明らかにした情報が付与されるようになってきている。それらを参考にするのも良いだろう。
今、この件に関する情報は錯綜している。冷静に情報を受け止め、頭の中で整理し、振り回されないようになることを願うのみである。
最後に、自死したいと思っている方へ。今すぐ決行しなくてよい。明日に伸ばそう。明日になったら気が変わっているかもしれない。毎日、毎日、明日に伸ばそう。それでもつらい時は、こちらに相談してほしい。