エッセイ「引っ越しドキュメンタル②」
どう? みんな4年ぶりのW杯で盛り上がってる?
私はというと4年ぶりの引っ越しを無事終えましてね。どうもありがとう勝ちました。(※サッカーは一切わかりません。)
喉元過ぎた熱さの忘れっぷりに定評のある私なので、1週間過ぎた今、新居が最高の住み心地で、引っ越しに関するメンドーなあれやこれやはもう海馬から削除されつつある。が、完全に藻屑となる前に頑張ってサルベージしてつらつら連ねてみることにする。とりあえず「この秋、引っ越しに夢中」でしたね、ファッション雑誌の煽り風に言うと。
金で解決
夫と私は基本的に休日が被らないし、準備もろもろスムーズにいくか心配だし、と旧部屋の解約と新部屋の契約に余裕を持たせた。つまり家賃を二重払いした期間がある。終わってしまえば、そんな贅沢な日程を組まなくてもよかった気がするが、おかげでまだ何もない新居に、夜ランタン片手に酒をのみにいくという遊び(その姿まさに不審者)を何日かできたし「段ボールに詰めずに、もうこのまま持っていったろ」と業者に頼む前になかなかの量の荷物を運べた。それもこれも「徒歩3分」が成せる技だ。それで引っ越し業者の値段が安くなったほどでは無かったが、荷解きは大分楽になった気がする。
何区なん?
荷造り、荷解きはまだいい。まだワクワクの範疇だが、面倒くさがりにとっての引っ越しの暗部である、賃貸契約書の記入、引っ越し業者への依頼、ライフライン変更の事務手続き、郵便局への届け出等等が残っている。そういった手続きが苦にならない人間と、使えるフリーWi-Fiと、ツチノコの存在はちょっと信じてないですね、私は。
結局ライフライン系はギリギリになって休日にまとめて始末した。やってみれば大した手間は無い。電話一本で済んだり、郵便の転送届はネットで手続きできた。住民票はそのうち。あれは役所が相手だから、あれがあれな時にすることにする。
契約書類と引っ越し業者は夫に任せた。引っ越し業者は不動産屋の紹介で安くなるところに見積もりをお願いし、予算通りの回答で安心して頼むことになった。
え、すごい、スムーズ。いいパス回し。長友かよ。(※サッカーは一切わかりません。)
ところで、賃貸契約書で私たちは新居が変わらず南区であると認識していたのだが、ネット上の住所とライフライン等の手続きの際に訂正をくらうことになった。
は?そこ、南区じゃないよ、中央区だって。
それでもしばらく私たちの気持ちは南区よりであったが、どうも中央区が正しいらしい。
おそらく旧住所と新住所が酷似していたので、不動産会社がつられて南区にしたのではないかという結論に至ったが、契約書はそのまま放っている。
ボーダレスな生き方したいって話よ。
みんなレペゼン現住所
話は遡るが、物件を探している頃。周りの人々が次々に自分が住んでいる地区がいかに住みよいか紹介してくれて、我が家を誘致してくれようとすることに、なんだかすごくいい、と思った。レペゼン現住所達のプレゼンは、つまり友人たちはそこに住んでて今幸せだ、という話なので。ただ、私の中にもいつの間にか産まれていたレペゼン平尾の気持ち。
君はそっちで、私は平尾で生きよう。会いに行くよ、西鉄電車(普通)に乗って。
入居時の狂気と酒気帯び
新居に入居直後の頃、私はマスキングババーと化し、夫は収納狂と化していた。端的に言って二人ともキマッっていた。
「入居前、入居直後にやるべき○選」というようなYouTubeやSNSの投稿をご存じだろうか。ここぞとばかりに私はそれらを漁った。なにせ無精だてらに新居のピカピカを保ちたい気持ちは強いのだ。
大体定番は、スプレーしておくと、しばらくの間水を弾くコーティングがされるというスプレー、その名も「弾き」とマスキングテープ。
マスキングテープってあの、女の子が手帳を彩ったり、手紙やプレゼントを封する時に使うカラフルな?あの?というイメージの無知な私だったが、汚れ防止に有効であることを知り、水回りの至るところを細く白いマスキングをしていった。夫に「うわ、こんなとこにも貼ってある!」と雑魚妖怪でも見るような目で引かれたこともあったが、おおむね満足な仕上がりになった。「弾き」ももちろん塗布しまくった。
カビ、水垢、油汚れ、絶対許さん。そんな行き過ぎた正義が私を狂わせたのだ。
夫はといえば、こちらはデッドスペース絶対殺すマンに成り果てていた。いやこの場合、よみがえらせるマンか。
彼はつっぱり棒片手に「死んでるスペースはいねかぁ」としばらく部屋中をさ迷っていた。大袈裟じゃなく。
「ここにも、ラックを置けばなにかしら収納できる」とついには収納するものが無い状態で収納場所を作ろうとしていたので「ここにあれば便利だな、と思ったら置こうよ」と言うと「それもそうだ」とやっと彼の目に理性の光が戻った。
入居後間もなく珍しく夫と休日が被る日、新居をさらに住み心地よくすべく一緒に買い物に行こうと約束していた。前日は友人の誕生日で共に飲みいくことになっていたが「明日は朝から二人で出掛けるからね、今夜は飲み過ぎないようにしようね」と指切りげんまんした。その九時間後、二人は調子にのってまだ酒をかっくらっていたし、朝方、夫はスケボー板を抱えて警固の町に文字通り転がっていた。
二人とも今年1、2を争う泥酔だった。翌日針千本飲まされたかのような腹痛にも見舞われたが、ニトリその他にはなんとか行った。
家具やラックの組み立て、設置について、私は正式に戦力外通告を受けたので、仕方なくビール片手にベンチを暖めた。控えの選手も皆サムライブルーの一員だよね。(※サッカーは一切わかりません。)
さようなら不動産屋また会う日まで
今回、不動産屋とのやり取りは全てラインで行い(本人確認書類の提出ですらライン)、重要事項の説明はリモートで済ませ、書類は郵送、最後に鍵を受け取りに行って不動産屋とのやり取りは終わった。引っ越しなんていつだって久しぶりなので、当たり前だが、随分便利になったんだなぁと思った。契約にはいつお伺いしたらいいですか?とか内見だってリモートでする時代に平成丸出しの質問をしてしまった。
最後にわかったのだが、担当の女性は新卒の新人さんだったらしい。威圧的な人じゃなくて私は初見で安心したが、何というか、あまり無理を言っちゃかわいそうだな、と思わせる初々しさがあったので、なるほど納得した。おかげでまんまといい客になった。
しかし馬鹿高い保証会社を問答無用で付けてくるのに、当たり前のように保証人立てろと言ってくるのだけは腑に落ちなかった。一応その点は聞いてみたけど「一律に決まってますので」という返信ひとつで引き下がってしまった。保証の過剰包装じゃん。
引っ越しーズハイ
前回、物件をすぐ決めつつも本当にこれでいいのだろうかと揺れ動く引っ越し心を綴っていたが、住み始めてすぐに、ここは都だ!と気づいた。もっと早く引っ越せばよかったと思った位だ。
ちょっと二人暮らしには狭いかな?とか、エレベーター必須の階ってメンドーじゃない?とか全て杞憂に終わった。いまだに帰るたびに「広いな」と思うし、高い階は日の光がたくさん入って気持ちがいい。
住環境でここまで変わるのか、というほど夫も私もすすんで家事をする日々は、もしかしたら引っ越しーズハイ状態なのかもしれないが、できる限り、騙し騙しでも続けていきたい。
とりあえず、この度の引っ越しは無事に完結した。
ありがとう、引っ越し。ありがとう、森保ジャパン。(※サッカーは一切わかりません。)