創作のかけら

「あの姿になったゆきを見て、まだ潜りたいと真実を突き止めたいと思った?」

「……やめておくよ」
言葉は喉につかえ、雪と交わした約束が脳裏をよぎる。あの日あの時自分が代わりになれば、1秒でも早くその手を握っていればと何度も後悔しその度に、強くならねばと必死にもがいてきた。その結果がこれである。やるせない思いと自分の無力さに涙がこぼれ膝の力が抜ける。降り注ぐ雨に感謝をしなければならないほどの嗚咽が響く。
「何にもっ!なんっにも…!!守れない!!!!守れて……」

「そんなに泣いて何が変わるの?」

ひややかな声。雨音の中クリアに聞こえる湯﨑の声は勇治がはじめて耳にするような冷たい音である。その声を皮切りに勇治の口からは言葉が溢れ出る。
「どれだけ努力しても…いつも守りたいものは手からすり抜ける。息が…できないんだこの世界では…俺はどうしたらいい…イフの存在を目にした時動けなかった。あれほどの恐怖に苛まれたことはない。自分の努力ではどうしようもないほど圧倒的な差だ…いつかなんて…叶うのか…怯んでしまった…俺は…」

「聞きなさい勇治。誰もが苦しんでいるの。私はねもがけない人間は無責任のどうしようもない存在だと思っているの。あなたは今はじめてそれでなくなるのよ。共に苦しみなさい。共に地獄に落ちなさい」

斜め上から遮るように降り注ぐ真っ当で強い言葉。湯﨑の言葉は一音のノイズの揺れもなく紛れもない本心であった。いままで一度も本心で会話をすることがなかった湯﨑の初めての言葉である。

しばらく雨に打たれ泣いている勇治の肩に手を置きながら、湯﨑は自分の幼かった頃を思い出す。湯﨑の中には何があるのだろうか。イフの世界に何を落としてきたのか。何もわからなかった。しかし勇治の肩に置かれた小さな掌は暖かかった。

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