どうして、って思いそうになったら

「でも、ぐるぐる考えても答えは出ないの。どうして、どうしてって思いながら、ずぶずぶと沈んでいくばかり。今の状態を『どうして』って責めても、何も始まらないのよ。だって、もう終わってしまったことだから。そんなときには、そこから抜け出す魔法があるの」
「どうして、って思いそうになったら、どうしたらって言い換えるの」「そんだけ?」
そう、と青井が答えた。
「『どうして』グズなの? この質問に答えは出ない。だけど『どうしたら』グズではなくなるの? この質問には答えが出る。(後略)」

伊吹有喜『なでし子物語』

父親を亡くし母にも去られた四年生の耀子は、大きなお屋敷の使用人として働いている父方の祖父に引き取られた。そのお屋敷へ、東京に住む主人の子供で一年生の立海が、家庭教師の青井とともに療養のためにやってくる。繊細ですぐ熱を出す立海が、耀子にはなぜか心を開いた。
いじめられた末火傷をして学校に行けなくなった耀子に、青井は立海の勉強や遊びの相手を頼み、色々なことを教えてやる。やがて立海が東京へ戻ることになった時には、自分も昔親を亡くして親戚に預けられ、学校でいじめられていたことを話した。その頃は毎日、「どうして私だけこうなったの」と思っていたことも。

『どうして』と自分を責めない。『どうしたら』と前に進もうとする。やっぱりそれが今を変える魔法の言葉。そうやって私はなんとかやってきた。(中略)それが良かったのかどうか、わからない。だけど、どうして、どうしてって嘆き続ける人生より、どうしたら、どうしたらって必死でもがいて戦う人生が私はいい。

(同上)

どうして、は終わったこと。どうしたら、はこれからのこと。 (2016.11)

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