![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/125446523/rectangle_large_type_2_2706bdf73733521ad3286cfcd9095a58.png?width=1200)
第Ⅰ部 キリ誕生編 第4章 魔人誕生編 1.魔王軍の四天王現る
今日は、キリ姉と一緒に杖を買いに街に行くことになった。キリ姉は、エルミアも誘ったようだ。
「キリ、行くわよ」
「はい、わかった」
キリ姉の横には、エルミアがいた。キリ姉の腕にぶら下がるように、自分の腕を絡ませていた。
私も、負けじと、キリ姉の反対の腕に、自分の腕を絡ませた。
「もう、二人とも、何をしているのよ。腕が邪魔で、歩けないわ」
「キリ姉、私が引っ張っていくから、大丈夫よ」
「いいえ、私が支えます。キリさんは、離れていていいですよ」
エルミアが、キリ姉を引っ張って行こうとしている。私も、負けないから。
3人が、団子のように、くっ付いて、歩いていると、いつの間にか、道具屋に着いていた。大きな門構えの店で、大きなガラスの窓から、中を覗いてみると、お客も少なく、ゆったりとした部屋の作りだった。
私達は、キリ姉を先頭に、店の中に入っていった。すると、1人の店員がキリ姉に声を掛けて来た。
「いらしゃいませ。今日は、どのような品をお探しでしょうか?
良ければ、お聞きします」
「今日は、魔術師用の杖を見たいのですが、いいですか?」
「はい、わかりました。ところで、今お持ちの物の代わりの物をお探しですか?」
「いいえ、この杖は、そのまま使います。補助用に新しく杖を買いたいのです」
「そうですか、それでは、簡易の杖がよろしいですね。持ち運びに便利な小ぶりの杖を見てみますか?」
「はい、お願いいたします」
「こちらに、ございます」
私達3人は、店員の指示している方向に移動した。
1mぐらいの短い杖が並んでいる。でも、子供用という感じではなく、しっかりした造りの物ばかりだ。そして、すべての杖に細かな模様が施されており、とても、綺麗で優雅だった。
キリ姉は、実際に手に取り、手に馴染むかどうかを確認しているみたいだ。
「キリ、これは、どうかしら。例の細工をするのに問題がないか。見てくれる?」
「はい、ここにある物は、どれも大丈夫だよ。本の少しのスペースがあれば良いので」
「そう、わかったわ。それなら、これにします」
と言って、キリ姉は、店員に1つの杖を渡した。
「はい、承りました。包装はどうしますか?」
「そのままで、いいです。アイテムボックスに入れるので」
「それでは、こちらで、お会計させていただきます」
キリ姉は、冒険者IDを渡して、清算した。
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」
店を出ると、キリ姉が、すぐに、闇魔法の魔法陣の刻印をするように言うので、人目に付かないところで、新しく買った杖に隠密用の刻印をした。
「いくわよ」
私から、杖を受け取るや否や、キリ姉が闇魔法を起動した。
「うわぁー、キリ姉が消えちゃった。どうしよう?」
訳がわからないエルミアは、びっくりして、青ざめている。
「成功ね。エルミア、ごめんね」
キリ姉は、魔法を解除して、エルミアを抱きかかえて、頭を撫でている。
「何が、起きたのですか?」
「これは、闇魔法の隠密魔法なの。見えなくなるのよ」
「凄いです。私、びっくりして、心臓がバクバクです。ほら」
エルミアは、キリ姉の手を掴み、自分の胸に押し付けた。
「本当ね。心臓がバクバク、いってる。ごめんね」
「もう、急に消えないでください」
「はい、はい、わかったわ。もう、怒らないでね」
「はい、もう、怒っていません」
エルミアが、落ち着いたので、3人で、ふわふわのクリームたっぷりのケーキを食べに行くことにした。暫く歩くと、若い子で溢れている店があった。少し、お客が並んでいるようだ。
「キリ姉、この店にしない? ここのケーキは、生クリームたっぷりなの」
「いいわよ。エルミアもいい?」
「はい」
店員に案内されて、店に入っていった。私達は、練乳入りの生クリームたっぷりのロールケーキを食べた。やっぱり、甘いものは最高だ。つい、お代わりをしてしまった。
食べ終わってからも、暫く街を歩きながら、色んな店を覗いて回った。魔法学院の寮に戻った時には、もう、薄暗くなっていた。
キリ姉の部屋で、今後の事について、相談をした。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
満月の夜、真夜中、人々が寝静まったころ、それは始まった。
魔王軍幹部の一人、通称レッドが現れた。彼は、魔王軍の四天王の一人で、火魔法のレベルEXを誇る。魔人レッドは、何の前触れもなく、急に現れた。
ここは、ザーセン王国の宮殿の中にある広場だ。魔王軍の四天王と名乗る魔人が蒼白い炎と共に現れた。
「我は、レッド。魔王軍の先陣として、やって来た。ここに、勇者がいるだろう」
王宮の中は大混乱に陥った。国王は、近衛兵に守られて、宮殿の中の秘密の隠れ部屋にいる。
王宮の兵士が集まって来た。約30人程度になった時、その中の一人が魔人レッドに攻撃を仕掛けた。
「ドゥリャー」
高価な鎧に身を覆っている兵士は、剣を突き出して、突進した。
「何の真似だ。そのような攻撃が効くとでも思っているのか。お笑いだな」
魔人レッドは、微動だにしない。ただ、笑っているだけだ。
先ほどの兵士は、魔人レッドの2mぐらい前に行くと、急に動きが止まり、苦しみ始めた。
「グゥァー、ゲフォ」
兵士は、剣を前に突き出した姿のまま、顔は苦痛に歪み、口からどす黒い血を出していた。苦しんでいるが、倒れることもできずに、立ったまま息絶えた。
それを見ているにも拘わらず、2人目、3人目と次々に兵士が、魔人レッドに攻撃していく。しかし、何人になっても、全く変化がない。いずれも、最初の一人と同じ結果に終わった。
「無駄、無駄、無意味な行動はよせ」
王宮の広場は、魔人レッドを中心とした半径5mの範囲を除き、王宮の兵士で埋めつくされた。すると、誰かが、声を上げた。
「勇者、勇者を呼んでくれ!」
「そうだ、勇者はどこだ?」
「勇者! 勇者! ………」
すると、ただ笑うだけだった魔人レッドが口を開いた。
「そうだ、勇者を呼べ。
勇者をここに連れてこい。
早くしないと、この王宮は燃えてなくなるぞ」
数人の兵士が、王宮を抜け出して、神殿に向かっていた。神殿に居る勇者に告げるためだ。
兵士達は、神殿の扉を荒々しく叩き始めた。
「ドン、ドン、ドン。早く開けてくれ!」
「急げ、王宮が大変なことになっている」
「ドン、ドン、ドン」
漸く、神官が扉を開けた。
「何事です。何時だと思っているのですか」
「早く、勇者を連れて来てつように告げてから、神殿の中に急いで、消えていった。
暫くして、神官数人に囲まれて、勇者が現れた。
「おお、勇者だ。勇者が来てくれた」
兵士達は、歓喜の声を上げた。
勇者は、事情を聴くなり、王宮に飛び出していった。そのスピードには、他の誰も追従できなかった。気が付くと、勇者の姿はなかった。
★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆
魔人レッドが居る王宮の広場に着いた勇者は、広場の兵士を横に押しやりながら、前に進んだ。
兵士の壁が消えると、目の前には、魔人レッドが笑いながら、勇者を見ていた。そして、魔人レッドの周りには、立ったまま息絶えた兵士が何人も見えた。
「なるほど、君が勇者か」
魔人レッドは、勇者を値踏みしているようだ。それには、お構いなく、勇者は剣を振りかざし、魔人レッドに切りかかった。
これまでの兵士のように、途中で止まることなく、魔人レッドに切りつけることが出来た。
しかし、魔人レッドは、その攻撃をギリギリのところで避けた。
「なかなかやるな。しかし、それだけか」
勇者の攻撃は終わらずに、何度も繰り返された。
「はっはっは。そのような攻撃は効かぬわ」
それでも、また、勇者は、魔人レッドに切りかかった。
広場を取り囲んでいた兵士達に、不安が広がっていった。一度抱いた不安は、治まることがなく、どんどん大きくなっていった。
「さて、今日は、これぐらいにしておこうか。勇者、お前には、致命的な欠陥がある」
「何、嘘を言うな。私は勇者、欠陥などあるものか」
「ふ、ふ、ふ。そうかな?
最後に、一つお土産をあげよう。
火炎地獄」
轟音と共に、勇者の身体は、炎に包まれた。炎の壁に隠れ、勇者の姿が見えなくなった。魔人レッドの姿もいつの間にか消えていた。
炎の壁が消えると共に、広場の中に大きな穴ができていた。その中は、まるで火山のマグマが流れた後の様に、ぐつぐつと燻っていた。そして、その穴の中心には、勇者が倒れていた。完全に気絶していた。
怪我は酷いものの命には別条はなかった。勇者は、魔人レッドに破れてしまった。それも、完璧に。
勇者が敗れたということは、王宮内だけに留められた。王宮以外には知らされなかった。神殿にも知らされることはなかった。勇者が話したなら別だが、王宮側からは、何の報告もなされなかった。
いいなと思ったら応援しよう!
![moka](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/124621434/profile_90ba0184b17169d88b90e1c55f80c496.jpg?width=600&crop=1:1,smart)