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第Ⅱ部勇者パーティ編 第10章 魔法学院ミユ編 13.魔法学院のイベント

 後期試験前に魔法学院内の対抗戦が行われることになった。魔法学院の生徒であれば、誰でも参加することができる。その内容は、5人以下のグループでの対抗戦ということだ。魔法学院なので、当然、魔法での技術を競うことになる。

 私達も、参加することにした。それも、パーティー名をそのまま使って、エントリーすることにした。私達は、いつも通りの食堂での打ち合わせを行った。

 「今度の対抗戦って、どんな内容か知っている?」

 私は、皆に、聞いて見た。

 「私、知っているよ」

 エルミアが、直ぐに返事をした。

 「詳しく、教えてくれる」

 「いいよ。5人以下のグループでの参加は、知っているよね。それで、私達のパーティーで参加することにしたのね。実際の対抗戦は、初級ダンジョンで行われるの。そこで、魔物を倒して、そのポイントを競うというわけ」

 「そうか。ダンジョンで、魔物を狩るのね」

 「そうよ。そこで、どのような魔物を狩るか、その段取りが必要なの」

 「ポイントは、どうなっているの?」

 私は、疑問な点をエルミアに聞いて見た。

 「魔物の強さに応じて、3段階に分けられているの。A、B、Cで、Aは、1匹で、1ポイント。Bは、1匹で、3ポイント。Cは、1匹で5ポイント。制限時間内での総ポイント数で、勝敗が決まるの」

 「魔物を倒した時の証拠品は、パープルに回収してもらうわ」

 「うん。いいよ」

 「私達だったら、Aでも、Bでも、Cでも同じ程度の手間で倒せるね」

 「そうだね。そんなに、違いはないと思う」

 フヨウも私の意見に同意してくれた。

 「それじゃ、Cから狩り始めて、B、Aと狩って行くのはどう?」

 「「賛成」」

 私達は、対抗戦の計画を大雑把に立てた。まあ、それで、十分勝ってしまうと思うけどね。でも、ミユが念のために一度、対抗戦のダンジョンを見ておきたいというので、皆で潜ってみることにした。

 「それじゃ、行くよ」

 いつも通り、皆が、私の腰に抱き付いた。それから、私達は、転移魔法で、初級ダンジョンの入り口付近に移動した。

 「ここが、会場になるのね」

 ミユが、私に確認した。

 「そうだね。」

 エルミアが、補足した。

 「ここは、第20階層までしかないの。それに、ダンジョンマスターは、ポイントの対象じゃないの。多分、教師が危険だと思っているのね。だから、ポイントの対象外にして、無駄に戦闘しないように決めたと思うわ」

 「それじゃ、潜ってみる?」

 私が、皆に聞いて見た。

 「ねえ、キリのスキル探索で、どの程度分かるの?」

 「どういう意味?」

 「どの階層に、どの魔物が、何匹いるかって、今の場所でも分かるの?」

 「分かるよ。全体を大雑把に探索することと、特定の階層を詳しく探索することができるよ」

 「そうか。それなら、実際に潜る必要はないね」

 フヨウが、皆に同意を求めた。それでも、ミユは、少し、心配そうな顔をしている。

 「それじゃ、対抗戦の開始前に、私がスキル探索で、ダンジョンの中を調べるから、それをミユがマップに起こしてくれる?」

 「はい、任せて」

 やっと、ミユも安心したみたいだ。何故か、この対抗戦に意欲を示しているミユだが、詳しい事情を聴いていないので、少し、不思議な気がした。

 「ねえ、クルドも参加するようよ」

 「ふーん、そうなんだ」

 私は、エルミアの情報にそっけなく答えた。

 「キリ、気にならないの?」

 「どうして、私が気にする必要があるの?」

 「キリ、自分が言ったこと覚えていないの?」

 「エルミア、何よ。私が、何かした?」

 「もう、キリが、クルドを焚き付けたのよ」

 「どうして、そうなるの?」

 「クルドが、タンクとして、練習をしているって、知ってる?」

 「知らないよ」

 「だから、タンクとして、やっていけることをこの対抗戦で示すつもりなのよ」

 「ふーん、それで?」

 「キリ、クルドをパーティーに入れるつもり?」

 「そんな、気持ちはないよ。だって、タンクは、フヨウがいるじゃない」

 「そんなことは、分かっているわ。でも、クルドはどうするの?」

 「パーティーにタンクは2人もいるの?」

 「いらないわ」

 「それなら、決まりね。クルドは入れないよ」

 「それは、キリが直接、クルドに言ってね。私は知らないよ」

 「別に、言わなくてもいいじゃない? パーティーに入れないだけだもの。それに、私、パーティーに入れるって、言ったかなぁ?」

 「まあ、対抗戦が終わってからのお楽しみね」

 エルミアは、呆れたような顔をして、私に意見を言うのを止めてしまった。どうして、あんなにクルドの事を気にしているのか、全く分からなかった。まあ、いいか。その内に、分かるだろう。

 私達は、食事を終えて、それぞれの部屋に帰って行った。私は、パープルを抱き枕にして、暫く、昼寝を取ることにした。パープルのモフモフがタマラナイ。パープルも、私と昼寝をするのが、嬉しそうだ。尻尾が、私を包んでいる。これなら、いい夢が見れそうだ。

 私は、対抗戦の事も、その後にある後期試験の事も、すっかり、忘れて、寝入ってしまった。

 いよいよ、今日が、魔法学院内の対抗戦の日だ。私達は、いつも通り、食堂で、朝食を取りながら、打ち合わせをした。

 「対抗戦の開始前に、私がスキル探索で、ダンジョンの中を調ね。ミユ、マップにしてね」

 「キリ、ダイジョブよ。用意しているよ」

 「パープルは、魔物を倒した後の証拠品を集めてね」

 「うん。大丈夫、キリ、任せて」

 「ポイントの高い魔物から、一気の倒して行くよ。フヨウ、頑張ってね」

 「分かっているよ。でも、キリも範囲攻撃で、倒して行くのだろう?」

 「そうよ。倒して行くよ。でも、群れで行動している魔物が中心だから、単独の魔物は任せるよ」

 「分かった。任せてくれ」

 「ミユは、強化も頼むね」

 「キリ、当然よ。任せてね。それから、攻撃の指示を私が出してもいいかな?」

 「いいわ。ミユが、指揮官ね。頼むわ」

 「はい」

 エルミアが、不安げに声を出した。

 「あの、私は?」

 「エルミアは、フヨウの支援をしてね」

 「はい」

 私達は、食事と打ち合わせを終えて、対抗戦の実施場所である初級ダンジョンに向かった。今日は、魔法学院主催の対抗戦なので、転移魔法は、使わないで、他の生徒と同じように歩いて移動した。

 「さあ、着いたわ。私は、ダンジョンの中を調べるね。ミユ、お願い」

 私とミユは、ダンジョンの中を調べ、どこに、どの魔物が何匹いるのかをマップに記入していった。

 「さあ、準備が出来たわ」

 今回の対抗戦にエントリーしたのは、11チームだった。ほとんどが、最終学年の3年生だった。私達のパーティーとクルドのグループだけが、1年生での参加になった。

 対抗戦の諸注意が担当教師から、行われるので、私達も、ダンジョン前に整列に参加した。学年順に並んでいるので、クルドのグループが私達のパーティーの横に並ぶことになった。

 「よお、キリ、今日は、俺たちのグループが優勝だ」

 クルドが私に話しかけて来た。私は、無視することにした。クルドの関わると碌な事にならないからだ。

 「おい、キリ、無視するなよ。前に言った約束を覚えているだろうな」

 「クルド、話しかけないで」

 「おい、約束だろ」

 「覚えてないわ」

 「タンクがいるって、言っていただろ」

 「タンクなら、もう、フヨウがいるよ」

 「キリ、それはないだろ。今日まで、タンクの練習をして来たんだ」

 「それって、私が頼んだの?」

 「そうじゃないけど、俺は、キリと、ダンジョンに潜りたいんだ」

 「そう。パーティーに入りたいって言うことじゃないのね」

 「いや、できれば、パーティーに、入りたいよ。でも、もう、タンクが入っているのだろ」

 「そうよ。だから、だめよ」

 「それなら、一度でいいから、俺とダンジョンに潜ってくれないか?」

 「一度でいいのね」

 「そうだ。それでいい」

 「そうね。それなら、考えてもいいわ。でも、本当に、タンクとして、役に立つことが分からないとだめよ」

 「分かった。この対抗戦で、タンクとして役に立つことを示すよ」

 「頑張ってね」

 クルドは、少し、顔を赤らめて、急に大きな声を出した。

 「よし! やるぞ」

 私は、聞こえていない振りをした。すると、エルミアが私に声を掛けて来た。それも、何故か、小さな声で、私の耳元で、囁いた。

 「キリ、あれで、大丈夫?」

 「どういうこと?」

 「クルドは、貴方の事が好きなのよ」

 「そんなことはないわ」

 「絶対そうよ」

 「キリは、どうなの?」

 「えっ、考えたこともないわ」

 「それなら、早めにはっきり言った方がいいよ」

 「何を言うの?」

 「好きじゃないって」

 「私、クルドのこと、なんとも思っていないのよ。だから、放っておくわ」

 エルミアは、諦め顔で、私から、離れた。

 「それでは、開始します。くれぐれも、無理をしないように。危険だと思ったら、直ぐに、近くの教師に声を掛けてください。よろしいですか。
 それでは、スタート」

 ミユは、素早く、私達を強化した。

 「スキル魔力耐性向上、
 スキル物理攻撃向上、
 スキル攻撃速度向上」

 「それじゃ、行くよ」

 「「はい」」

 私達は、ミユの指示で、まず、第10階層まで、一気に進むことにした。そこに、サーペイントが3匹いる。それを狩りながら、近くのワーウルフの群れとゴブリンの群れを狩る予定だ。

 私とエルミアが範囲攻撃で、第10階層までに現れた魔物の群れを狩って行った。

 「火壁ファイア・ウォール

 エルミアが、途中に現れた魔物の群れに魔法を放った。私も、エルミアに負けずに魔法を放った。

 「火壁ファイア・ウォール
 火壁ファイア・ウォール
 火壁ファイア・ウォール

 パープルが素早く証拠品を集めている。フヨウとエルミアは、ほとんど、止まることがなく、ダンジョンの第10階層に向かって、潜って行った。

 第5階層に到着したときに私は、用心のために、闇魔法で、結界を張った。そして、パーティーのメンバーの防御力を高めておいた。これで、このダンジョンの魔物程度では、怪我をすることがないだろう。

 「もうすぐ、目的の第10階層よ。フヨウとエルミアは、サーペイントに備えてね」

 「はい。大丈夫です」

 「私も、いいわ。キリ、支援をお願いね」

 私は、フヨウとエルミアに声を掛けて、サーペイントに備えさせた。そして、私も、そこまでのワーウルフとゴブリンの群れに備えた。

 私達は、目的の第10階層に到着した。私は、素早く土魔法で、ワーウルフやゴブリンがサーペイントに近づかないように、壁を作って、遮っておいた。

 「さあ、フヨウとエルミア、サーペイントに攻撃してね」

 「「はい」」

 私は、土魔法で、遮っておいたワーウルフとゴブリンの群れを範囲攻撃で、狩ることにした。

 「火壁ファイア・ウォール
 火壁ファイア・ウォール
 火壁ファイア・ウォール

 パープルが素早く証拠品を集めた。気が付くと、フヨウとエルミアは、サーペイントを1匹倒していた。

 私は、スキル探索で、この第10階層の魔物の位置をもう一度確認した。すると、ワーウルフの群れがもう一つ残っていることが分かった。

 私は、直ぐに、土魔法で、壁を作って、そのワーウルフの群れを閉じ込めた。そして、その他の壁を元に戻した。

 フヨウとエルミアは、更に、もう1匹サーペイントを倒した。残りは、もう1匹だけだ。

 「フヨウ、エルミア、大丈夫?」

 「キリ、問題ないです」

 「分かったわ。後、1匹よ。用心してね」

 「はい」

 私は、閉じ込めておいたワーウルフの群れを狩りにパープルの背に乗って、移動した。

 「火壁ファイア・ウォール

 最後の群れもすべて狩りつくすことができた。それとほぼ同時に、フヨウとエルミアが最後のサーペイントを倒した。早速、パープルがが証拠品を回収している。

 「これで、最初の目的は達成よ。次は、どうするの?」

 私は、今回の指揮者のミユに尋ねた。

 「念のため、もう一度、ダンジョン全体のマップを確認したいと思います。キリ、お願い」

 私は、スキル探索で、ダンジョン全体を調べた。そして、それをミユに伝えた。

 「今、キリに確かめて貰ったけど、第15階層にサーペイントがまだ、2匹いるみたい。それを次の目標にするね」

 「「はい」」

 「それじゃ、行くよ」

 私達は、先ほど同じ様に、第15階層に行くことを最優先に進んで行った。特に、強い魔物がいなかったので、直ぐに第15階層に到着した。

 「それじゃ、フヨウとエルミア、お願いね」

 フヨウとエルミアは、素早く、サーペイントに向かっていった。私は、途中にいる魔物を範囲魔法で、狩って行った。

 「火壁ファイア・ウォール

 パープルが証拠品を回収した。また、次の魔物の群れに私が、範囲魔法で、攻撃をした。

 「火壁ファイア・ウォール

 これで、サーペイントの周りには、他の魔物はいなくなった。

 フヨウとエルミアは、素早く、1匹目のサーペイントを倒し、次のサーペイントに向かっていった。

 私達は、その様子を眺めていた。

 「もう、慣れて来たみたいね」

 「本当に、素早く狩っているわ」

 「それじゃ、これまでの成果を確認する?」

 私は、皆に、声を掛けて集まって貰った。

 「パープル、教えて」

 「うん。Aが87、Bが64、Cが5だよ」

 「だれか、計算して」

 「エルミア、お願いします」

 「はい、304ポイントよ」

 「わあ、凄い」

  私達は、当初の目標を達成したので、昼食を取ることにした。ミユが素早く弁当を出して、並べて行った。私も、土魔法で、テーブルや椅子を作って、お手伝いをした。

 「さあ、食べましょう」

 「「頂きます」」

 私達は、食事をしながら、後のことを話し合った。このまま、地上に上がって行きながら、途中の魔物を狩って行くことになった。

 「それじゃ、行くよ」

 「「はい」」

 私達は、第15階層から、遡りながら、途中で遭遇した魔物をすべて狩って行った。魔物の証拠品は、パープルが回収していくので、先頭のフヨウは、止まることがなかった。いつの間にか、地上まで、私達は、戻ってきていた。

 「さあ、これで終わりね」

 「皆、疲れていない?」

 「これぐらい、平気よ」

 「私も、まだまだ、行けます」

 ミユも、黙って、頷いている。

 出口で、係の教師にパープルの持っている証拠品を渡した。それを、係の教師が、ポイントに換算していた。

 「これで、完了よ。後は、結果を待つだけね」

 私が、皆に声を掛けた。すると、エルミアが、少し、不思議そうに私に尋ねた
 
 「他のグループは、まだ、1つも帰って来ていないね」

 フヨウが、エルミアに答えてた。

 「本当。まだまだ、時間があるから」

 私は、フヨウとエルミアに尋ねた。

 「私達も、もう一度、行く?」

 「もういいよ。これで、十分だよ」

 「そうだね。十分だと思うわ」

 ミユも黙って、頷いている。

 係の教師が、私達に、魔法学院の寮に帰って、休んでおくように指示をした。

 「さあ、帰ろうか」

 「「はい」」

 私達は、ダンジョンの入り口から、少し離れた所で、誰にも見られていないことを確認してから、転移魔法で、魔法学院の私の部屋に移動した。

 「それじゃ、各自部屋に戻って、休憩ね。後で、食堂に集まりましょう」

 「「はい」」

 今日の結果は、夕食の時間に食堂に張り出されることになっている。それまで、私も、、パープルと一緒に、暫く、寝ることにした。そんなに疲れていないと思っていたけど、パープルを抱き枕代わりにしていると、直ぐに寝てしまった。意外と神経を使っていたのかも、知れない。

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moka
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