アメリカがレバノンに建設する巨大大使館
今回は、アメリカがレバノンに建設する巨大大使館についてのお話。CNNによると米国がレバノンに174,000平方メートルの大使館を建設中で、レバノン人の間で大きな不満が起きている。
なぜこんなに大きいのか?この新しい大使館はどこにあるのか?レバノンの首都ベイルートの郊外にある。これまでに発表された数字によるとホワイトハウスの約2.5倍の大きさである。
そして、このプロジェクトには10億ドルという莫大な費用がかかっている。ちょっと衝撃的である。実際にレバノンに行くアメリカ人はあまりいないが、それでもこれほどまでに大きなこれほど多くのお金を使うプロジェクトになるとは思わなかった。
この新しいアメリカ大使館の建物の大きさは一見すると街のように見えることもあり、レバノンのアメリカ大使館はかなり満足しているとCNNは言っている。SNSでは建物の大きさを見てくれとばかり、超近代的な美しい中庭、ガラス窓のある多層建物、リラクゼーションエリア、木々に囲まれたプールなど将来の完成予想図まで投稿している。
しかし、ネット上からは様々な疑問が投げかけられている。この場所で何をしたいんだ?ここに何人のスパイを入れるつもりなんだ?ここは兵器工場なのか?ここは大使館なのか、軍事基地なのか?レバノン人にコンクリートを食べさせようとしてるのか?
もう一点は、アメリカ人自身が疑問に思っていることだ。アメリカは今、飯つぶにも事欠いているじゃないか。アメリカは債務不履行に直面しているじゃないか。イエレン財務長官は、議会は債務上限を引き上げる必要があると何度も呼びかけを行っているが、コンセンサスを得るのは非常に困難である。
はっきり言って、まず問題を解決するために使うお金を少なくする必要がある。もうじき返済することもできないほどなのに、結局明らかに需要を上回る大使館を建てるために大金を使っている。
アメリカのマスコミが、皮肉にコメントしたのも無理はない。とても不釣り合いだ。なぜなら、レバノンは小さいからだ。レバノンは人口600万人にすぎない国だ。しかも、非常に貧しい。人口の80%近くが貧困ライン以下で暮らしている。比べてみてほしいが、アメリカはこんな小さな国に、こんな巨大な大使館を建ててしまったのだ。しかも、とても豪華なものを。
では、なぜなのか分析してみよう。実際、レバノンは非常に特別な地位を占めているのだ。比較的小さな国でありながら人口も少ない。しかし、その地理的な位置は非常に重要である。南はイスラエル、パレスチナと国境を接し、北はシリアに接している。
歴史的にも常に様々な勢力によって争われてきた地域である。歴史上多くの勢力がこの地域に手を出してきた。イスラエルをはじめイラン、アメリカ、フランス、ソビエト連邦などそのすべてが自らの勢力をこの地に浸透させようとしてきた。
そしてレバノン自体が特にまとまりのない国である。宗派が林立し、その政治権力は十数の宗派から構成されている。1950年代以降、レバノンは権力を共有することで統治されてきた。現在、憲法は大統領はキリスト教徒マロン派であること、首相はイスラム教スンニ派でなければならない、国会議長はイスラム教シーア派でなければならない、と定めている。
だから、国のまとまりはむしろそこそこである。そのため、レバノン特に首都ベイルートは冷戦時代から諜報活動が盛んな場所となっている。映画でも現実でも、ベイルートにはたくさんのスパイがいて活発に動いている。特にイスラエルに近いから、イスラエルのモサドの諜報員の多くはベイルートを拠点にしている。訓練を受けるためにもだ。
もちろん、レバノンはイスラエルと非常に悪い関係にある。そして、レバノンのベイルートでは、イスラエルのモサド諜報員による暗殺が数多く行われている。最近のものでは、2020年にイラン革命防衛隊コッズ部隊のスレイマニのダマスカスからベイルート、そしてバグダッドへと移動するルートが特定され、最終的に米軍に狙われ、暗殺された。
だから、ベイルートは諜報の都、スパイの都だという説がある。アメリカがベイルートに大掛かりに大使館を建てているのは、将来、ベイルートからレバノン、中東・北アフリカ全域に及ぶ諜報センターを建設するためだと憶測されるのも無理はない。
もうひとつは、アメリカはベイルートで損失を被ったことがあることだ。
レバノンのアメリカ大使館をはじめ、米軍キャンプが攻撃されたこともある。比較的大きな1983年の事件もそうだ。レバノンのアメリカ大使館が自動車爆弾に襲われ、63人が死亡した。
そして、その数ヵ月後レバノンの米軍キャンプがトラック爆弾テロに遭い、241人が死亡した。翌年には、レバノンのアメリカ大使館がまた自動車爆弾で攻撃され16人が死亡。レバノンのアメリカは、駐外機構も米軍キャンプも大きな打撃を受けていると言える。
だから、米国がこうした歴史的事件を念頭に置いて、レバノンの大使館を再建していることは明らかだ。ことのほか安全保障が重視されているのだ。つまり、やろうとしているのは、大使館を要塞のように作るということなのだ。それはバグダッドのグリーンゾーンとよく似ている。
バグダッドのグリーンゾーンは、ちょっと人を呆気にとられさせる。全体が国の中の国のように区切られている。中には駐イラクアメリカ大使館や米軍司令部なども含まれる。そこにあるアメリカ大使館は、海外にあるアメリカ大使館としては最大規模でもある。バグダッドのグリーンゾーンと違うのはレバノン政府自体にグリーンゾーンが必要ないことである。
米軍をグリーンゾーンに移動させる必要はない。この観点からすれば、レバノンの新しいアメリカ大使館は、国の中の国という感じだろうか。少なくともグリーンゾーンにはイラクの政府があるのだから。では、レバノン政府は同意するだろうか?まず、レバノンは小さな国だ。止められないのだ。アメリカは実はレバノンでかなりの特権を持っている。
レバノンの大統領は米軍に倒されたことがある。中東で初めて米国に支配された国だったのだ。さらにレバノンは最近、多くの問題を抱えている。もともと権力の空白地帯にあり、経済は非常に悪い状態にある。だから、アメリカ大使館を気にかけている余裕はほとんどない。
地位の低い者の言葉は重視されないのだ。米国から見れば、このような大使館の設置・運営は急務である。なぜなら、中東で起きているさまざまな新しい変化があるからだ。米国のサウジアラビアでの影響力が低下し、シリア問題に関しては米国の影響力もますます低下している。
イラクでは、米国はひっきりなしに軍隊の撤退を求められている。このような状況の中、米国はまだ中東で何かをやらかしたいのである。新しい基地が必要なのだ。新しい、より大きな基地が。レバノンが選ばれたのは至極当然である。アメリカの駐外機構、米軍の外国における傲慢で支配的なスタイルを鑑みれば、これは明らかにこの地域の人々にとって良いことではない。
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