決闘年越しそば

 「おれは今年中におにいちゃんを越える!」年の暮れを迎えるに当たり何か思うことがあったのか、次男が唐突にこう宣言した。「勉強も、運動も、背だって全然勝てないけど、一個勝てそうなもの見つけた」
 それからというもの、次男はごはんをいっぱい食べるようになった。何を企んでるのか、でもごはんをいっぱい食べてくれるのは親としては喜ぶべきことだ。結局、兄弟対決の種目がわからないまま一年の最後の日を迎えた。
 次男の張り切りっぷりはますます増し増し、年越し蕎麦の準備の時まで続いた。それを見て、いよいよ対決の時は近いのだと思った。あったかい蕎麦も美味しそうに出来上がり、家族みんな席に着いたその時、「おにいちゃん、勝負だ!」
 「年越しそばをたくさんおかわりしたほうの勝ち!」それを聞いて、長男の不敵な笑いが食卓に響いた。「お椀の中を見てみろ」次男のお椀にはうどんが入っていた。まだちっちゃすぎて蕎麦アレルギーの心配があるからだった。彼のつゆは悔し涙でしょっぱさが増した。
 「いっぱい食べれるようになったし、たくさんお手伝いもできるようになったから、きっとすぐにお兄ちゃんみたいになれるわよ」お母さんは嬉しそうに笑っていた。

#毎週ショートショートnote #決闘年越しそば

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