あの日の友が今日も友
14歳の冬、初めて大きな失恋をして
(正確には、私をフッた男子が友達に告白したことを知って)、
泣きじゃくった私の横に、彼女はいた。
私の横で、静かに鼻をすすっていた。
小学校3年生、初めて同じクラスになり、
お互いの家を行き交う仲になった。
初めて彼女の家に遊びに行った時、
運悪くお腹が壊れた。
当時、アイスキャンディー1本でお腹を下す程、
私のお腹はナイーブだった。
9歳の私にも羞恥心はあって、
人生経験9年の私に、
それをおおっぴらに発表する程の図太さは育っていなかった。むしろ繊細すぎる方だった。
「トイレ貸して」
ただ一言そう告げて彼女の部屋を後にした私が再び戻ったのは、約10分後。
測っていた訳ではない。
私には、長く、とてつもなく長い時間に感じたけれど、恐らくその程度だろう。
部屋に戻ると、彼女は全てを悟ったような表情で私を見た。
「ごめんね、お腹痛くて...」
初めて訪れた友達の家でお腹を下してしまった9歳の私は、今すぐにでも家に帰りたい気持ちをどうにか押し殺して言った。
「うん、大丈夫」
彼女の表情とその声のトーンが、今すぐ帰りたい程まで落ち込んだ私の気持ちを、引き戻してくれた。
何も気にしなくていいよ、私は味方だよ、
そう言っているようだった。
彼女とは、それ以来の仲だ。
中学では同じ吹奏楽部に所属し、
帰り道は大体一緒、
自転車を2人乗りして顧問に呼び出されたりした。
当時やや反抗期気味だった彼女は、
その顧問の熱意に感化され、
先生の母校である県内トップの女子校を目指すべく猛勉強、見事合格する。
高校は離れたけれど、いつも一緒に遊んだ。
高校時代、いい恋愛をしていなくて泣いて塞ぎ込む時間が多かった私は、彼女が男だったらと本気で思っていた。
彼女とはかつて、大喧嘩をしてしばらく連絡を取り合わなかった時期がある。
後にも先にもその時1度。
大学卒業まであと少しという頃、将来のことや自分の方向性を見出せなかった彼女は少しやさぐれていた。
それは行動や態度にも表れていて、
一緒にいることの多かった私は少しずつフラストレーションを溜めていた。
私は友達と喧嘩をすることがほとんどなく、
多少の違和感や不快感は全て自分で吸収して消化するタイプだった。
いや、消化できず溜め込んで自滅する、が正確だ。
短大を卒業し社会人数年目、
初めての会社勤め、更には自分には適性の無い業務にストレスMAXの私と、やさぐれた彼女との間に火花が散った。
と言うか、ストレス爆発で情緒に異常をきたした私が、キレた。
これまで喧嘩をしてこなかった為に対面で思いを伝えることが不得意な私は、
私が思う、彼女への不満や直した方がいい点を延々とメールにしたためたのである。
ものすごい長文で。
あの時は、1番側にいる私だから、私がちゃんと言ってあげなきゃ、彼女のためにっっ、
とかちょっと使命感にも似た思いを抱いていたけれど。
受け取った方からしたら、どれだけ不愉快だっただろう。
自分のことを棚上げで、あらゆることを上から目線で指摘していた気がする。
当然のごとく、
はい、そうですね。改善します。
とならなかった彼女とは、
しばらく連絡を取らなかった。
その間、就職せずにバイトをかけ持ちして費用を貯めた彼女は上京して行った。
後々になって、あの時私にキツいことを言われてほんとに腹が立ったし認めたくないと思ったけど、見返してやるって気持ちでがむしゃらにやったと。結果的に自分を鼓舞して前進できたから感謝してる、というようなことを言ってもらった。
うん、そう言ってくれるとこちらの罪悪感も少しやわらぐけど。
やり方はもっとあったし、無駄に傷つけるようなこともたくさん書いた気がするから。
後悔と反省しかない私の苦い思い出である。
そんな彼女とは、
その後お互い結婚・出産を経験し、母になった今でも、何かあればすぐに報告する仲だ。
何かなくても、日々の生活のあれこれ、おもしろかった映画やドラマを報告し合ったりする。
あの件があった後、しばらくお互い様子を見つつの時期があったけれど、いつからかすっかりわだかまりはなくなっていた。
東京で仕事をしていい出会いも得た彼女は、
やさぐれていたあの頃とは見違える程人間力がアップしたように思う。(またやや上からだけど)
今では働きながら子育てする者同士、
その喜びや苦悩を共有することができる。
結婚した時、出産した時、離婚した時。
一緒に喜んで悲しんで怒ってくれる。
あの時、最初で最後の大喧嘩をした時、
彼女という存在を失わなくて
本当によかったと思う。
GW、久しぶりにゆっくり帰省しわが家にも泊まって行った彼女と娘ちゃん。
娘同士が仲良く遊ぶ姿を見て、
「あぁ、尊いなぁ」
と思った。
ここへくるまで、
彼女と私には約25年もの歴史があって、
近づき過ぎたり離れたりもしたけど。
9歳のあの日、
初めて訪れた彼女の家でお腹を壊してから、
変わらず今も、
彼女は私の味方だ。