大工、足場屋で働く.2 佐藤さん編
引き続き、僕の足場屋時代に出会った珍人の話をさせてください。足場屋の長男的存在、糖尿シャイボーイクマちゃんに続きまして、次男的存在の佐藤さんです。
佐藤さんは当時50代前半、社長ともう一人の従業員と3人で事務所兼社員寮として利用していたアパートに住み込みで働いていました。
佐藤さんには、当時高校一年生になる娘さんがいて、よく娘さんに会いたいと話していましたが、奥さんと上手くいかず、別居状態にありました。
佐藤さんは黒い影が見え隠れする人で、ときどき「アニキ」と呼ぶ人物に電話したり、現場にそのアニキを連れてきて、アニキと一緒に足場を組んだりしていました。アニキはパンチパーマで前歯の無い小柄なおじさんです。
ちなみに佐藤さんはジャッキーのカンフー映画に敵キャラとして出てきそうな顔立ちをしてらっしゃいます。
佐藤さんは”のどごし生”が大好きで、つまみはタバコだと言って、帰りのトラックでは呑んでスパスパ、呑んでスパスパしながら僕に黒い話をよくしてくれました。
そんなある日の帰り道、「○○ちゃんは大工なんでしょ? ちょっとした棚とか囲いとか作れる?」と赤ら顔で上機嫌の佐藤さんに訊ねられたんです。
「まあ、材料があれば、あと完成のイメージを教えてくれれば大丈夫だと思います」
「おおそうか! じゃあ仕事があるから、今度一緒に頼むよ!」
そう佐藤さんに言われて、嫌々ながらも断れない僕はその大工仕事を手伝うことになり、足場屋の材料置き場で待ち合わせしました。
待ち合わせた時間はお昼過ぎ、いくら大したことない仕事とはいえ遅くないか!? 不安になりながらも僕は佐藤さんを待ちました。
すると僕の携帯がぷるぷるぷるぷるっと着信。佐藤さんからです。もしもし・・・。
「○○ちゃん? 悪いんだけどさ~、○○ちゃんところの下小屋から適当に余った材料持ってこれない? 犬小屋ができるくらいの分でいいんだわ!」
おいおいOiOi! 待て待てMATEMATE! 棚でも囲いでもなくなってるし、材料はウチの工務店をアテにしてんのかい!
「いや、無理っていうか無いですよ。そんな材料」
「なんだよ~。じゃあ三万貸して! 材料買うから!」
ああ、佐藤さん。なんてクズなんだ。
佐藤さんはこの日の午前中、犬小屋の依頼主から預かった前金5万円を元手に、パチンコ屋に朝からトライ。無事に全額スって僕に電話してきたという有様でした。
僕は呆れて逃げるように帰宅。後日、仕事で佐藤さんに会うとめちゃくちゃ不機嫌になっていて、その日から三日くらい口を聞いてもらえませんでした。奥さんと別居ってのもお察しだぜ!
何年か後、工務店の仕事で現場に足場を掛けてもらった際、佐藤さんと再会しました。
「○○ちゃん、俺いま東京に住んでるからさ~」と、東京住みを嬉しそうに、誇らしげに語ってきたこと、僕は生涯忘れることはないでしょう。
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