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『デタリキ!ウエスタン恋物語』

※こちらはDMMGAMES様、FANZAGAMES様が提供されているゲーム「デタリキZ ~特別防衛局隊員の日常~」および「デタリキZX ~特別防衛局隊員の日常~」から設定や名前をお借りした二次創作となります。


『デタリキ!ウエスタン恋物語』

男は孤児院の育ちである。
赤ん坊の頃に孤児院の門前に棄てられていたのだという。
彼の顔半分は生まれつき醜く爛れている。
それゆえ棄てられたのだろうと物心ついた彼は考えた。
親に対する恨みは特になかった。

孤児院では最低限の衣食住だけは保証されていたが、「怪物」と罵られながらの生活は幼い彼には苦しいものだった。
辛い時、彼は独り草笛を吹いて自分を慰めた。

男に草笛を教えたのは旅の銃士であった。
銃士は醜い彼に嫌悪することなく、普通の子供と同じように彼に接した。

男は草笛を吹きながら、銃士が話してくれた西部の話を思い出していた。
誇りをかけた銃士達の決闘。ならず者達や人々を守る保安官。
銃士の話は幼い彼の心に深く深く刻まれた。


やがて、成長した男は僅かな金と食料だけを持たされ孤児院を出された。
行く宛など無かったが、銃士の話していた西部に行こうと彼は決意し歩き始めた。
苦しい旅の末、男は西部にある大きな街にたどり着いた。

-ここでなら自分の人生も何か変わるかもしれない。

しかし、醜い彼が得たものは人以下の扱いと過酷な労働、そして「怪物」という呼び名だけだった。


ある日、男は河のほとりで草笛を吹いていた。

「いい音色だね」

突然かけられた声に振り返ると、そこには二つ結びの金髪をなびかせた青い瞳の美しい女性が立っていた。
町娘のような様相だが、とてもそうは思えない力強い魅力を彼女から感じた。

「そばで聴いてもいいかな?」

男が思わず頷くと、彼女は躊躇う事なく男の隣に腰かけた。
草笛の音色と、隣で微笑みながら自分の草笛を楽しんでくれる美女。
男は夢を見ているような気持ちだった。

その後、彼女と何事か話した気もするが舞い上がった彼は何も覚えていなかった。
気がつくと暗い棲み家の布団にくるまっていた。
それから何度か河のほとりへ向かったが、彼女と再び会うことはなかった。


しばらくして男は、街の人だかりの中に驚くべきものを見た。

それは、胸に固く布を巻き付け、ポンチョに身を包み、腰に銃を下げた勇敢な銃士として立つ彼女の姿だった。
その胸には星形のバッジを付け、凶悪な賞金首を青い瞳で睨み付けていた。
彼女は街の保安官だったのだ。

保安官と賞金首の一騎討ち。
人々か固唾を飲んで見守る中、彼女のしなやかな動きから放たれた銃弾は、賞金首の心臓をいとも簡単に貫いた。

『ナナミ』

それが彼女の名前だった。
変わった名前なのは東の国の血が入っているためらしい。
西部最強の銃士であり、人生の最後を故郷の保安官として務めた父の意志を引き継ぎ、街の保安官をしているのだという。
ナナミは街の英雄だった。

決闘を征したナナミに街の人々が歓声と共に駆け寄った。
まだあどけなさが残る笑顔でそれに応えるナナミ。

-自分とは住む世界が違う人間だったのだ。
多くの人に囲まれた英雄にとって、草笛の醜男など取るに足らないものだろう。
一度だけでも楽しい思いができた。
それでいいじゃないか。

男はゆっくりと人だかりから離れ、暗い棲み家へ帰っていった。
その夜、男は草笛を微笑みながら隣で聴いてくれるナナミの夢を見た。


そんな男の人生が一変したのはたまたま見かけた新聞記事だった。

保安官ナナミへのインタビュー記事。
そこには「私より強い男が好み」だと書かれていた。
もちろん町民達へ向けた英雄のリップサービスに決まっている。

だが、男の心は大きく揺れた。

-もしかしたら。
こんな醜い自分の横で微笑みながら草笛を聴いてくれた彼女なら。
もしかしたら、彼女より強くなれれば、もしかしたら。
彼女の隣に居られるかもしれない、彼女の心に居られるかもしれない。

男は単純だと思いつつも、内から沸き上がる衝動を抑えられなかった。
男は僅かな蓄えをかき集め、安い銃を手に入れた。

それからの彼は稼ぎのほとんどを弾代に費やし、ひたすら銃の腕を磨いていった。
来る日も来る日も取り憑かれたように銃を撃ち続けた。


何年経っただろうか。
男は数々の街を廻り、数々の決闘を経て西部でも有数の銃士になっていた。

『西部の怪物』

それが彼の通り名だった。
身体や顔には特訓や決闘で付いた多数の傷痕。
グシャグシャに乱れた髪。
怪物の名に相応しい巨躯。
そこには、もうかつての暗い醜男の面影は無かった。

-今ならナナミに相応しい強さになっただろう。

溢れる自信と共にナナミの街へと帰った怪物が見たものは、恐ろしいまでの銃技で賞金首を屠るナナミだった。

それは、西部最強の銃士の血を引く者だけが到達できる境地なのだろう。
なまじ強くなってしまったからこそ分かるレベルの違い。
血の滲むような訓練や命を賭けた決闘で身につけた自分の銃技すら、ナナミの前ではただの遊びに過ぎなかったのだ。
怪物の眼には、ナナミの姿が悪魔のようにさえ見えた。

-勝てるわけがない!

怪物は神を恨んだ。

-俺は幸せになる事すら許されないのか!

怪物は三日三晩泣き続けた。


やがて、泣きはらした怪物は、今まで稼いだ多額の賞金を全て自分の首に賭け、自ら賞金首となり、最強の保安官ナナミに決闘を申し込んだ。
自分の人生を、せめて彼女に終わらせて欲しかった。


決闘場所には無人の荒野を選んだ。

怪物には一つだけ狙いがあった。
それは自身の守りを捨てて、ナナミの胸の保安官バッジを狙い撃つ事だった。
彼女を辱しめる事が目的では断じて無い。
その為の無人の荒野である。

-最強の保安官のバッジに傷を付けるのだ。
彼女の心に長く残る事が出来るかもしれない。
アイツは強かったといつか思い出してくれたら嬉しい。
それにバッジを撃たれた衝撃で胸がはだけるかもしれない。
辛い事だらけの人生だったのだ。
せめてそのくらいの土産が無ければ死にきれない。

決闘を前に浮かぶ、品の無い考えに思わず笑い出しながら、怪物は彼女を待った。


やがて馬に乗ったナナミが現れた。
いつかの草笛を聴いていた穏やかな笑顔の持ち主とは思えないほど、強く、冷徹な表情であった。

「西部の怪物さんだね?」

怪物が小さく頷くと、馬から降りたナナミは静かに構えた。
怪物も腰の銃に手を伸ばす。

二人の間に乾いた風が吹いた。

どれ程の時間が経っただろうか。
不意にナナミが口を開いた。

「あんたの草笛好きだったんだけどね」
怪物の目が見開かれた。

-覚えていたのか!
彼女はあの日の草笛の醜男を覚えていてくれたのだ!
すでに彼女の中には自分がいたのだ!

河のほとりで草笛を吹く男とそれを微笑みながら隣で聴いてくれたナナミ。

温かな記憶に涙が滲み出し、男の目からこぼれ落ちるのを合図にナナミが銃を抜いた。

-もう、戻れない。

男も銃を抜いた。
狙うは彼女の保安官バッジ。

-ナナミの銃撃直後の身体の硬直を狙って撃つ。
俺なら出来る。
俺は、西部の、怪物だ!

ナナミがしなやかな動きで、
男がそれに続き、
銃弾を放った。

一発の銃撃にすら聞こえる程の二人の銃声。

男が心臓にナナミの弾丸が喰い込むのを感じた瞬間、大きな金属音が響いた。
男の狙い通り、男の弾丸はナナミ保安官バッジを胸に巻かれた布ごと弾き飛ばしのだ。
露になるナナミの豊満なバスト。

「あ」

彼女は決闘の場とは思えない程の間抜けな声と共に、少女のように顔を赤らめた。
しかし、男は咄嗟に顔を臥せ、それを見なかった。
見てしまったら、彼女の中にいる草笛の醜男が消えてしまうような気がしたのだ。

-ナナミがあの日の自分を覚えていてくれた。
あの世への土産は、それでいい。



穏やかな顔で倒れる男の傍らに、衣服の乱れを直したナナミが立っていた。

彼女は男の側に生えていた草を摘むと、静かに口に当て音を鳴らした。

「ダメだ。あんたや父さんみたいに上手く吹けないや」

夕陽が沈みゆく荒野に、乾いた西部の風に、下手糞な草笛の音がいつまでも響いていた。



エピローグ

「班長!ジャマー対策完了したよ!」
「七海、怪我は無いか?」

班長と呼ばれた背の高い、癖毛の男が振りかえり尋ねた。
腕には『対策班班長』と書かれた腕章を巻いている。

「心配ご無用!楽勝だって!」

二つ結びの金髪をなびかせ、グレーの制服に身を包んだ青い瞳の女性、七海がピースサインで応えた。

『特務科学省 特別防衛局 異形生物対策班』

人々の生活を脅かす、ジャマーと呼ばれる宇宙生物の処理、それをジャマーの力を借りて行うのが彼らの所属する部署だった。
今日もグループに分かれ、近隣の川縁に現れたジャマーの処理を行っていたのだ。

「陽菜達の方も対策完了して、今こっちに向かってるらしい。合流まではここで待機だな」
「りょーかーい!」

川縁の土手に腰掛けた二人を暖かい風が包んだ。

「平和だなぁ。対策班に入ってずっとバタバタしてたから、こんなボンヤリするなんて久々だよ」

伸びをする七海の耳に、突然、不思議な音が聞こえた。
七海が驚いて隣に座る班長を見ると、それは彼の吹いていた草笛の音だった。

「ビックリしたぁ。班長、草笛なんて吹けるの?」
「ああ。昔練習したんだよ。その、モテるかと思って」
「へぇ~。それでモテたの?」
「俺さ、昔から背が大きくてクシャクシャの頭だったんだけど、それで草笛吹いてたら、モテる代わりに『優しい怪物』ってあだ名がついたよ」
「ふふ、変なあだ名。ねえ、私も吹いてみたいな。草笛教えてよ、怪物さん」
「ワカッタ。オデ、ナナミ、クサブエ、オシエル」
「あはは、笑わせないでよ」


笑い声が混じる二人の草笛の音色は、暖かな風に乗り、遠く遠く響いていた。

それはきっと、いつか遠い何処かで叶わなかった想いと共に。


「ねえ、怪物さん」
「ん?」
「こんな日がずっと続くといいね」
「ああ、そうだな」


終わり

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