ウルトラマンは、ぼくの父
どうしても忘れられない写真がある。
それは「ウルトラマンの写真」だ。
正確に言えば、ウルトラマンの姿をした自分の父を写した写真である。
本物とはとても比べ物にならないぐらい小さな、少し猫背のウルトラマンが、ぼくが唯一覚えている父の姿である。
ぼくは母子家庭で育った。
物心もつなかいぐらい小さかった時に、母と父は離婚した。原因はよくわからない。
ただ別れる日の母と父の大喧嘩は、兄に切り傷がつくぐらい相当激しいものだったらしい。
父と別れた母は、兄とぼくを連れ、自分の実家に帰ったそうだ。そこで兄とぼくは育てられた。
いつだったかははっきりと覚えていない。
ぼくが物心がつくぐらい成長した時に、母がふいに「これあんたのお父さんだよ」と言って見せてもらったのが、その写真だった。
「ふーん、そうなんだ」とまるで他人事のような返事をして、「なんでウルトラマンなの?」と母に聞いてみた。
「小さい時お兄ちゃんとあんたがウルトラマンが好きでね、それで喜ばせるために」と予想通りの回答が返ってきて、「ふーん、そうなんだ」とまた他人事のような返事をした。
それ以上、父については聞かなかった。
「父親のこともっと聞いてみようとは思わなかったの?」
と誰かに聞かれたことがある気がするけど、不思議と父について知りたいとは一度も思わなかった。
「今更知ったところで何にもならんやろ」と心の中で呟く。それぐらい父に対して関心がなかった。
それなのに30歳を前にして、「自分の父親はどんな人だったのだろう?」と気になり始めているのだから、困ったものだ。
どんな姿で、どんな性格で、どんな仕事をしていたのか?どこで母と出会い、どうやってぼくは生まれてきたのだろうか?
「そんなに気になるなら、母親に聞けばいいじゃん!」
あぁ、ごもっともなご意見である。だが生憎、母ともそこまで良好な関係は築けておらず、とてもじゃないが、父親のことなど聞けるわけもない。
なんとも情けない話である。はぁ。
そもそも写真に映るウルトラマンは本当にぼくの父親だったのだろうか?
母が「これあんたのお父さんだよ」と言ったのが、ぼくをからかうための嘘だった可能性だってある。記憶違いの可能性だってある。
写真の世界に入り込み、ウルトラマンに直接「あなたは誰ですか?」と聞けたらどんなに楽だろう。「シュワッチ」としか言えないかもしれないが、、、
ピコンピコンピコン、、、と胸のランプが点滅して、ウルトラの星に帰るその瞬間まで話がしてみたい。
写真は現実を切り取ったものなんて言われることもあるが、ここまで本当かどうかわからないと、ここに写っているのは本当に現実か?と疑いたくなる。
どうしたらウルトラマンと交流が持てるのだろう。
まぁでも、ウルトラマンというのは、最終的に姿がバレてしまうのが物語の定石だ。
物語の最初の方は、上手いこと隠し通すことができるだろうが、その内にバレるものである。
それにバレてしまわない方がいいこともきっとある。正体がバレることで問題が勃発するのも物語の定石だ。
どちらにしろ、写真の中のウルトラマンに想いを馳せていても、現実は少しも動いていかない。
いつかウルトラマンの正体がわかる日がくるのか、こないのか、それはわからないが、ぼくは自分の物語を進めていこう。