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西洋の魔女にアフロにされて気づいた、ライターとしてあるべき姿勢

アフロになったことがある。


アフロになりたかったわけではない。不本意ながらアフロになった。美容室に行ってパーマをあてたら、アフロになった。たぶんこの先一生忘れない、美容室での出来事だった。

大学生のころ、スペインに1ヶ月間だけ留学していたことがある。せっかくスペインにきたのだから何か面白いことをしてやろうと美容室でパーマをあてることにした。誠に勝手な想像だが、スペインのパーマはなんだか本場な気がしたのだ。

「パーマ」の意味であろうペルマネンテという単語と、「お願いします」の意味であろうポルファボールという単語、そして「ゆるく」の意味であろうウン・ポキートという単語だけを覚えていった。

そして美容室に行って、それだけをひたすら連呼した。呪文を唱えるかのようにぶつぶつと。美容師さんに向かって唱え続けた。

「ペルマネンテ、ポルファボール!ウン・ポキート!」

意気揚々と唱えるが、通じない。

「Ah?(なんて?)」

ア?って怒っているのだろうか。いやいや、大丈夫。もう一度。自分で自分を鼓舞してもう一度伝えてみる。

「ペルマネンテ、ポルファボール!!ウン・ポキート!!」

さっきよりも元気に、笑顔で。

「……Vale(OK)」

美容師さんはため息と共に声をもらした。しぶしぶ承諾してくれたようだった。自分のスペイン語が伝わった嬉しさからか、バカのひとつ覚えに「ウン・ポキート!!」と言い続けた。美容師さんはあきれた顔をしていた。


問題はここからだった。

美容師さんは細い棒を持ってきて、ぼくの髪をグルグルと巻き始めた。強く強く引っ張っては、小さく小さく巻き始めた。そして、笑い始めた。

「ヒィーヒィッヒィッヒィッ」

白雪姫に毒リンゴを渡した魔女のように甲高い笑い声だった。

それから2、3時間経って、完成したのがアフロだった。頭にトイプードルの毛を盛ったのではないかと思えるほど、もじゃもじゃでフワフワだった。天然パーマの髪が倍ぐらいに膨張したような感じだった。

「ヒィーヒィッヒィッヒィッ」

さっきよりも激しく魔女は笑った。言葉通り腹を抱えて笑った。笑い過ぎて泣いていた。あまり笑うと悪いと思ったのか、店の奥へ去っていった。

「ヒィーヒィッヒィッヒィッ」

店の奥からでも盛大に聞こえてくる。しばらく魔女の笑い声だけが店に響き渡っていた。


外見を整えるために行った美容室でまさかここまで笑われるなんて思ってもみなかった。あとからわかったことだが、バカのひとつ覚えに言っていた「ウン・ポキート!!」という単語には「小さく」という意味もあったようで、どうやらパーマのカールを小さくしてほしいという意味に捉えられていたらしい。

ふとこの出来事を振り返ってみて、美容室に行くことは伝えることの練習場なのだと思った。朝手入れをするのが面倒くさいから楽な髪型がいいとか、顔を小さく見せたいから小顔効果のある髪型がいいとか、とにかくモテたいからカッコいい髪型がいいとか。

自分のことをよく理解した上で、それを何らかの手段で美容師さんに伝えなければ、希望通りの髪型にはならない。言葉で伝えるのが難しかったら、写真を持っていくことも必要になるだろう。

ライターとして働いているのに、美容室に行くときに、どうしたら美容師さんに自分の伝えたいことが伝わるだろうと真剣に考えたことはなかった。プロの美容師さんなのだから、汲み取ってくれるだろうと思っていた。

お客様の要望を聞くことはプロなら当然のこと。そういう意見もあるかもしれないが、自分はプロのライターだ。それなら伝えたいことがどうやったら伝わるのか、その工夫をおろそかにしてはいけないのだと思う。


1、2ヶ月に1回は行く美容室。

伝えることをおろそかにしなければ、魔女にアフロになる魔法をかけられて笑われることはないだろう。どうせなら自分のなりたい姿になる魔法をかけてもらおう。

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