世界樹、歯車、病んだ妖精。
その感染者のコミュニティについての情報が入ったのは、一昨日の昼のことだったという。
どこぞの金持ちが、風に攫われて飛んでいったのだそうだ。”エアリエル”。体重を失い、いずれ風や空気と同化する危険な病。
哀れな金持ちはそのまま海に落下。救助され、今は隔離状態にある彼が言うには、不老長寿の薬だと言われて与えられた、何かの実を食べたということだった。
食べた者へと感染を広げる実。ほぼ確実に、”トレント”の感染者を抱えるコミュニティだ。
それから、診断チームの連中が大急ぎでコミュニティの調査を実行。判定された悪性度はステージ3。俺たち治療チームに下された命令は、ただ一つ。
切除。
さあ、治療の時間だ。
「ウオォーッ!神樹さまは渡さねえぞ!」
大体そんな感じのことを口々に叫びながら、感染者の群れが襲いかかってくる。神樹ときたか。まったく、素直で助かる。
ごわごわした体毛が服を内側から押し上げている。おそろしく鋭い爪と、剥き出しになった牙。獣じみた前傾姿勢。”ワーウルフ”の感染者たち。
両手に持ったナイフを振りかぶって襲ってくる、返り血デザインの服を着た男。こいつからは臭いがしない。多分、”レッドキャップ”の感染者を気取った、ただのサイコ野郎だ。
一人一人は雑魚でも、思ったより数が多い。
俺は意識を集中させ、頭の中のスイッチを入れる。
それだけで、全ては止まる。
きっかり6秒後、俺は動かなくなった連中の上に立っていた。
忘れていた呼吸を再開しようとするが、無茶な運動命令に従わされた身体は、強張って言うことを聞かない。
「グッ……ンンッ……フゥーッ……」
脳が文字通りに焼き付いている。熱い鼻血が粘膜を焦がす。カチカチと耳障りな歯車の音が響いて止まらない。
これは代償だ。俺の得た病、”グレムリン”がもたらす恩恵、その代償。
冷却が終わる。
”トレント”はこの奥か?視線の先には扉がある。
【続く】
#逆噴射小説大賞2024 #小説
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