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もう、私の大事な人だから


人生で初めて、「オフラインイベント」なるものに行った。

これまで、コンサートや舞台を観たことはあっても、対面で、「推し」が目の前に現れて、
コミュニケーションをとれるような機会に恵まれたことがなかった。

だから、当選メールが届いたときには、台所でひっくり返って仰向けに寝た。いや、本当に。

だって、イベントに当たっただけでもびっくりなのに、13分の1の確率を引き当ててしまった。

「最推し」に、会える、らしい。

今年どころではなく、来年あたりまでの運をすべて使い果たしてしまったのかと思った。


当選発表からイベント当日までほとんど日がなく、パニックと一周回っての凪を永遠に繰り返していたら、あっという間にその日が来た。

会場で仲良くなったファンの方と楽しくお話ししながら、気がついたらもう「最推し」との対面の時間になっていた。

たくさんイメトレもした。

伝えたい言葉もちゃんと用意した。

よし、いける!


歩みを進めると、目の前に、「最推し」がいた。

え?

存在してる。

鼻高い。

いつも画面で見ているよりも柔らかくて優しい雰囲気をまとってる。

お兄ちゃんみたいな安心感。

大人っぽい人だなと思ってたけど、
ちゃんと年相応の男の子だ。

私と大して年の差もない、20代の若いお兄さんなんだ。

が、なんてったって、

かっっっっっっっっっっこいいいいいいいいいいいいい


彼から、名前を呼ばれた。

うそん。そんな素敵なことある?

しかも頼まないうちに、向こうから呼んでくれた。ホスピタリティがすぎる。

それにしても、文字認識するの早いな。
ゲーム得意な人は、やっぱりそういうの得意なのかな。

あっ、伝えたいことあるんだった。



終わった。

え?もう終わっちゃったんだけど。

一応、どうしても伝えたかった一言は口にした。

反応確認しないで出ちゃったから、彼に聞こえてたか怪しいけど。

くう、もっと粘ればよかった。

一世一代の大チャンス、生かしきれなかったかもしれない…。


帰り道、どんどんと薄れていく記憶。

どんなお顔だったっけな。

いつもと印象違うなって、やっぱり実物は違うんだなって感じたけど、もう忘れちゃったな。
悲しいな。

でも、会えて嬉しかったな。

また会えるかな。もうすでに、会いたいなあ。



「最推し」および「推したち」の内面は、実はまだあまりよく知らない。

というか、あまり深堀りしないようにしている。大事に、取っておいている。


パフォーマンスに熱狂して、

バラエティで笑って、

「かっこいい!」「かわいい!」と愛でて、

見ていてひたすらに楽しくて幸せな気持ちで満たしてくれる人たち。

知りたい、という気持ちに少しブレーキをかけながら、私は彼らを推している。


知りすぎると、深入りしすぎると、

何よりも大切な存在になる。

その分、反動も大きかったりする。

私の人生を背負わせてしまう感覚がある。

逆に、心と心の距離を少し取りながら、

楽しい部分をたくさん享受して、

ただひたすらに私が幸せになりたくて、

そのために少し力を貸してもらう。

どちらもきっと、立派で素敵な「愛」の形だから、

彼らを好きになり始めたとき、いったんは後者の愛を選んでみることにした。


そうしてみたのだけど。

顔を合わせて、言葉を交わして、もう、私たちは「赤の他人」ではなくなってしまった。

そう思った。

「情が湧く」とは、きっとこんな気持ちなのだろう。

彼らも私と同じで、触れれば温かい人間だと知ってしまった。

いや、知ってはいたけど。

確認できてしまった。


楽しい思い出の記録の中に、

今から書くエピソードを挟むのはきっと適切ではない。

でも、残しておきたい。

大人っぽい人だなと思ってたけど、
ちゃんと年相応の男の子だ。

私と大して年の差もない、20代の若いお兄さんなんだ。

そう、私と大して年の差もない、若くて美しいお兄さんは、
すでに「大切な肉親の死」を経験している。

その事実は、好きになる前から目にしていて、知ってはいたけれど、

イベントの帰り道、エネルギー切れしながら立ち寄ったハンバーガーショップで、

ケチャップ味のハンバーガーをほおばりながら、ふと、

現実的な痛みとともにその事実が胸に重くのしかかった。

目の前の景色がゆがんだ。

さっきまで感じていたケチャップ味が、どこか遠くに行ってしまった。


つらい。とてもつらい。

好きな人には、幸せでいてほしいのに。

まだその類の痛みを知るには、私たちは若すぎるのに。

決して、涙を誘うエピソードとして、彼の状況や心情を反芻し、消費しようとしているのではなく、

はるか遠くで輝くアイドルだって、

どこまでも人間で、

色んな人生があって、

私が知りえない喜怒哀楽、幸せ、痛みを抱えている。

そして、同じ時間を、生きている。

そういった大事なことを改めて確認できたし、

実感として、私を鋭く貫いたということを、
ここに残しておきたい。



私が「推し」にどうしても伝えたかった言葉。

"항상 행복하세요."

「いつも幸せでいてね。」

「推し」の前で、この言葉を発することができて、本当に良かった。

本当に、良かった。

また会える時が来たら、やっぱり同じ言葉を伝えたい。

何度でも、伝えたい。

だって、




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