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【短編】環状158号線 その①
世界有数の道路網を持つ、巨大都市A市。
北側は海に面していて、どこかホノルルにも似た開放的な雰囲気がありながら、交差する道路や鉄道と高層建築によって近未来感も合わせ持っている。
A市の外郭を南北に繋ぐ「環状158号線」。山澤仁は車を走らせ、アポイントのある客の元へ向かっていた。
少し寝坊してしまったのでアクセルはいつもより開き気味だ。前を走るタクシーが遅く感じて車間を詰める。
仕事でよく通る道だ。海が最もよく見える高架橋を少し過ぎたあたりから、環状158号線(外回り)は緩やかな右カーブを描きながら、登り勾配となっていく。仁にとってこの道は特別だ。
カーブと登り勾配はやがて壁のようなバンクになり、車体はほぼ横倒しの状態だ。
仁はさらにアクセルを踏み加速する。道は長いリボンを捻るように空へ向かって上下反転しながら弧を描き、弧の頂点から再び捻れながら今度は下り勾配で地表に降りていく。
車はピタリと道に吸い付くように高速カーブを進み、頂上で逆さまになって道にぶら下がりながら坂を下る。
この区間は半自動運転のため、運転者にはアクセルとブレーキのみの操作が求められる。ゴルフ場のカートのように、道路と車に内蔵された「リニアセンサー」でステアリング操作無しで走行可能だ。さらに車がどんな向きになろうとキャビンは常に水平に保たれ、搭乗者には一切の負担はない。
リニア弧橋区間を通過し「42区」の標識が見える頃、車は環状158号線を逸れてオフィスビルの立ち並ぶ街区へ。
商談予定の客と落ち合う。相手は年配の経営者だ。
「山澤さん、早速例のリニア弧橋区間、通って来たんですか?」
「ええ、そうですよ。あれが開通したので、A港エリアから西の山の手まで20分は短縮しましたからね。」
「そう。私、実はまだ通った事がなくてですね。私の車はリニア対応じゃないものですから」
「そうでしたか。まあ、初めはワクワクしましたけどね。慣れるとどうってこともないですよ。ははは・・」
ウソだ。どうってこと、大アリだ。慣れる訳がない。
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