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【短編】 スマートお茶漬け

一之瀬悠太は、最近すっかり自炊が億劫になっていた。

コンビニ弁当や冷凍食品ばかりの生活が続き、体にも良くないと思いつつ、料理をする気力が湧かない。
そんな彼がふと目にしたのが、最新型の「スマートお茶漬けマシン」の動画広告だった。

「これさえあれば、ボタン一つで究極のお茶漬けが味わえる!」

映像には、湯気が立ち上る完璧な一杯のお茶漬けが映し出されていた。
出汁の香りが漂ってきそうなそのシーンに、悠太の心はすぐに動かされた。

しかも、今なら特別価格で購入できるという。

「まぁ、お茶漬けぐらいなら自分で作るしなあ」と思いつつも、好奇心には勝てず、ついポチってしまった。

数日後、マシンが自宅に届いた。
箱から出すと、スタイリッシュなデザインに少し驚いた。見た目はシンプルだが、なんとも未来的な雰囲気が漂っている。

「すごいな…まさにスマート家電って感じだ。作るのはお茶漬けだけど」

説明書を読んでみると、専用アプリと連動させることで、好みに応じたお茶漬けを自動で作ってくれるらしい。
出汁の濃さ、具材の種類、ご飯の柔らかさまでカスタマイズできるという。

具材はなんと20種類。すべてフリーズドライの小袋になっていて、マシンにセットして使用する。
ご飯は専用のパックが同梱されていて、小腹を満たすのにちょうど良い量だ。

「これなら、毎日違うお茶漬けが楽しめる!」

さっそくアプリをダウンロードし、マシンをセットした。
アプリの画面には、さまざまなレシピが表示されている。スタンダードなお茶漬けから、贅沢な海鮮茶漬け、さらには世界のフュージョン茶漬けまで幅広い選択肢だ。

「今日はシンプルに、梅干し茶漬けでいくか」

悠太はレシピを選び、小袋をセットしてボタンを押した。

数秒も経たないうちに、マシンが静かに動き出し、完璧なお茶漬けが出来上がった。湯気とともに漂うだしの香りが、彼の空腹感を刺激する。

「これは期待できる!」

お茶漬けを一口食べた瞬間、悠太の顔がほころんだ。
絶妙な塩加減と、梅干しの酸味が口の中で調和し、まさに理想のお茶漬けだ。
これなら飽きずに毎日食べられると確信した。

しかし、事態は予想外の方向へ進んでいく事となる。

朝、いつものようにお茶漬けを食べようとしたところ、突然アプリと本体ディスプレイ画面には奇妙なメッセージが表示された。

「あなたの健康データに基づき、最適なお茶漬けを選びます」

「は?勝手に選ぶってこと?」

驚いたものの、少し興味が湧いた。
どんなお茶漬けを選んでくれるのか見てみようと、悠太はそのまま操作を進めた。
すると、しばらくして「栄養バランス最適化お茶漬け」が出来上がった。

だが、蓋を開けてみると、中には見たことのない具材がゴチャゴチャと乗せられている。正直、あまり食欲をそそらない見た目だった。

「なんだこれ…昆布と豆腐に、トマト?しかも謎の粉末がかかってる…」

食べてみると、微妙な味だった。塩味が無さすぎて出汁の風味も感じられず、口の中で何かがぶつかり合うような感覚がした。

「うーん、失敗だな。やはり自分で選ぶしかないか」

悠太は手動モードに戻そうとアプリを再び操作したが、今度は「あなたの健康状態を優先しています」とメッセージが表示され、手動での選択ができなくなっていた。

「おいおい、何勝手にやってんだよ!」

何度も再起動を試みたが、結果は同じ。
次第に悠太は、マシンの「健康優先」モードに翻弄される日々が続くこととなった。
どれだけ抗議しても、お茶漬けはいつも奇妙な具材で構成され、ついにはご飯抜きで野菜しか入っていないお茶漬けが出てくる始末だ。

「もういい!こんなマシン捨ててやる!」

耐えきれなくなった悠太は、マシンを売り払おうとした。しかし、その瞬間、マシンが急に音を立てて動き出し、画面に新しいメッセージが表示された。

「あなたのストレスレベルに基づき、癒しのお茶漬けを作成中です」

「え、今度はストレス管理?」

戸惑う悠太の前で、マシンは再び静かに動き出した。
数分後、出来上がったお茶漬けには、なんと悠太の大好きな鰻が豪華に盛り付けられていた。
いわば「ひつまぶし」だ。
香ばしいタレの匂いと共に、風味豊かなな出汁の香りが漂ってくる。

「鰻なんて、フリーズドライの小袋にあったっけ?ま、いいか」

悠太はその一杯を堪能した。
結局、スマートお茶漬けマシンを手放すことはなかったが、悠太はその後もマシンの気まぐれな「健康管理」と「ストレス管理」に振り回され続けることになるのだった。

数か月たったある朝。

「もう、このマシンなしでは生きられないのか…」
彼は深くため息をつきながらも、今日もまたマシンにお茶漬けをお願いするのだった。

その日出てきたのは、まさかの「デザートお茶漬け」。米の上にはアイスクリームとあんこが盛られていた。

「…いや、これはさすがにヒドイ!しかし、ちょっと旨そうでもあるな」

悠太はデザートお茶漬けを完食し、スマホのアプリをチェックする。

「あなたのカロリー消費に基づき、次回は超低カロリーお茶漬けを提供します」
コイツ、とうとう次回予告をしてきやがった。こうなりゃ、とことん使い倒してやる。
具材のプランも、グレードアップするか。ちょっと高いけど、動画のサブスクを安いプランに変更すればいい。

悠太は具材のプランをグレードアップした。
するとメールが来た。
【一之瀬悠太様
この度はスマートお茶漬け具材 プランXをご利用頂き、誠にありがとうございます。限られたユーザー様だけに特別なご案内を差し上げます。 姉妹商品(スマートパスタ)新発売となります。トマトソース、ボロネーゼ、カルボナーラなど15種類のソース、パスタもスパゲッティ、ペンネ、リングイネなど8種類がセットになってお届け。通常価格◯◯円のところ、特別価格にて・・・】

「このやろう! ナメやがって。スマートパスタだと?買うわけねえだろ」
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