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【短編】 ポータブル原発

山間の小さな町、沼田町に住むサクラは、地元の電力会社で働く普通の若い女性だ。
しかし、彼女には一つの特異な趣味があった。それは、古い科学雑誌を集めること。なかでも、彼女が最も惹かれたのは、1950年代の核技術に関する記事だった。
特に「ポータブル原発」という奇妙なコンセプトには心を奪われていた。

「ポータブル原発」とは、その名の通り、小型で持ち運びができる原子炉のことだ。
科学者たちが夢見たその発明は、冷戦時代の遺物として忘れられていたが、サクラの心には鮮明に残っていた。彼女は、これが未来の技術だと信じて疑わなかったのだ。

ある日、県のSDGsイベントの一環でで開催されたアンティーク市場で、サクラは思いがけないものを発見した。
それは、古びた箱に収められた一台の装置だった。箱には「試作三号」とだけ書かれていて、まるで時間が止まったかのように静かに眠っている。

しかしサクラには一目見た瞬間にこれが「ポータブル原発」である事を確信した。古い科学雑誌の写真で見た姿と、全く同じだったからだ。

「え、これって、まさか・・・」

興奮したサクラは、その機械を格安で購入し、自宅の研究室に持ち帰り慎重に調べ始めた。
ポータブル原発の内部は複雑で、いくつかの部品が欠けていたが、彼女は手持ちのパーツと知識を駆使して修理に取り組んだ。

数週間後、サクラの努力が実を結び、ポータブル原発はついに運転が可能な状態にまで復元した。
彼女は、これが町の電力問題を解決するための一助になるかもしれないと考えた。沼田町は、年々電力不足に悩まされており、その解決策を求めていたからだ。
総務部とはいえ、電力会社に勤務する一人として町の課題解決に貢献したい。
早速上長に相談するが、まともに取り合ってはくれなかった。

「まあ、そりゃそうよね。けど、原子力の事なんて、誰に相談すれば?」

翌日、見覚えのない番号からスマートフォンの着信があった。
普段知らない番号や非通知はまず出ないが、今回は何やら予感がしたサクラが電話に出てみると、
「あなたのポータブル原発、譲っていただけませんか」という趣旨だった。

冗談じゃない。どこからどうやって私にたどり着いたのかは知らないが、これは絶対に渡さない。
昔の科学者たち、そして私の叡知が詰まったこのポータブル原発、うっかりテロリストのの手にでも渡ってしまったらそれこそ世界は終わりだ。

それ以降、サクラは謎の黒ずくめの三人組に常にマークされる事となった。
尾行、というよりはハッキリ見える位置にいて、監視されているのだ。

だがサクラもこういったことは想定していた。

「私の普段の生活をどれだけ監視したところで、ポータブル原発は絶対に見つからないわ。私しか知らない所に厳重に保管してあるんだから」

我慢比べに負けたのは、やつらの方だった。

仕事を終え自宅に着いたところに、車を横付けしてサクラを強引に拐ったのだ。
「ポータブル原発の隠し場所を言え。言えば命だけは助けてやる」
「冗談でしょ。誰が教えるもんですか」
「コイツ。女のくせに度胸がある」
「あー、問題発言。このご時世、男とか女とか言うとハラスメントになるよ」
「黙れ。さてはお前、時間稼ぎしてるな。我々をナメるなよ」
「はいはい、分かったわよ。道案内するから、目隠しをはずしてよ」

一時間半ほど車は山の中へ入って行き、鬱蒼とした森の入り口にある小屋の前で停まった。
「この中にあるわ。でも、パスワードが無いとポータブル原発は運転出来ないようになってるから。当然、パスワードは私しか知らない」

「教えろ。これ以上手間を取らすな」
「仕方ないね。私だって命は惜しいわ。パスワードは、◯△□$€」
「ウソのパスワードを言ってないか、今ここで運転させてみろ。」
「は?そんなことしたら、あんたたちひどい目に遭うよ。それでもいいなら、どうぞ」
「そんな脅しに乗るほど、我々もバカじゃない。おい、やれ」
黒ずくめの下っ端と思われる男が、パスワードをポータブル原発のタッチパネルに入力していく。
ヴオーン、という作動音が鳴り、ついにポータブル原発は運転を開始した。

「ふははは。ついに手に入れたぞ。これで世界は我々のものだ」

《ガッシャーン!》

次の瞬間、古びた山小屋は無機質な鋼鉄のカゴでその全体を覆われた。
カゴの目は細かく、人間がすり抜けられる大きさではない。

「はい、一丁上がり~」
「お、おい ! お前 ! これは一体何だ。外せ !」
「外せと言われて外すほど、私もバカじゃないんだよ。あのパスワードを入力すると、この檻が小屋を飲み込むようにしてあったのよ。あ、もちろん自動で警察にも通報が行くようになってるから。」

「く、くそ。こんな小娘にまんまとやられるとは」
「だから、ひどい目に遭うよって、言ったのに。ついでに言っとくと、このポータブル原発、どうにか動かすところまでは行けたけど、私の今の技術と知識では出力がまだまだ弱すぎて。この鉄柵の電磁ストッパーを解除するのと、警察に通報したらもうおしまい。
ま、私にとってはこのカラクリがちゃんと動いただけでも大成功だわ。これからもっと研究を重ねて、いつか社会の役に立つポータブル原発をつくって見せるんだから」





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