音が記憶を連れてくる朝
ゆっくり始まる日曜の朝は
窓の向こうから聞こえる車の音も少ない。
窓を薄く開けると曜日もカレンダーも知らぬ鳥の囀
ふと気づくとアコースティックギターの音が
斜め上の部屋からうっすらと届いてくる
最初は躊躇いがちにゆっくりコードを追い
それらの控え目な点のような音が
次の音、次の音へとつながり始め
あなたはまだふかふかの毛布の下 眠る。
控え目なギターの音は
だんだんきちんとした旋律に変化してくる
あなたがまだこの世界の緑を
きちんと見たことのなかった頃に
同じように 違う階からのアコースティックギターの音が
何かをゆっくり確かめるかのように
途切れがちに聞こえていた朝があった
地面がはるか下すぎた空に浮いたようなその部屋で
鳥の囀りは聞こえなかったけれど
ギターの音が緩やかな曲を奏でる
私は 冷めてしまったコーヒーを飲み
寝返りを打つあなたを見遣る
そろそろ 声をかけようか
上階の人のギターの音は
いつの間にか止まっていた
20年という時間を折りたたみ
目の前の景色をつなぎ合わせた糸は
どこかからのかすかなギターの音
その重ねられた時間のフレームとフレームの間に
感謝と思い出と愛が織り込まれていたのを見た
鳥の囀りは続く
少し散歩にでも行こうか
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