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大事だからこそ覚えていない

こちらの企画に参加します。


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もう時効でいいよね、と思うくらい昔、少しイギリスに住んでた。ただ人生から逃げて。

休みの日には古城とか廃墟となった寺院とかをまわっていた。そういうパスを買うと1年間それらの場所に無料で入れたから。
もっと手入れされたお城や教会に入れるパスも別に買えば良かったのだけど
「もったいないから」
そんな理由で、その後もいつも一人で廃墟ばかりを訪れた。

史跡でも古城でも廃墟は廃墟だ。
天井どころか屋根ももうなくなって、壁の一部と窓の名残くらいしかないところも多かった。廃墟には日本に似た 少し湿度を感じる風が通る。訪れる人も疎らだ。遠くに夕焼けを映す雨雲を見ながら、季節の色が芳しい牧草地とか農地や森を見ながら、帰りのバスが来るまで小一時間は一人で座っていた。誰と話すわけでもなく、廃墟越しに空と土を見ていた。

あの時は、形には残っていないけれど時のレイヤーがミルフィーユのように積もった場所に揺蕩っていた。その奥に微かに見える誰かの衣擦れを聴いていた。世界の余白の中で自分の呼吸の音を聴いていた。

何も無かったけど沢山のものがあった。よく覚えてないのだけど、その時間が今の私の土になっているのはちゃんと知っている。

(505文字)

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ふみぐらさんの文章も、選ぶ言葉もすきだ。文章を読んでいると呼吸がゆっくりになる。行間というか余白が広いんだ。

サラさんの企画に乗っかろう、とおもったときに思い浮かぶ記事は4−5個あった。で、それを探しにふみぐらさんのページに戻ったら、好きな記事は1つ桁が違った。全部好きといっても良いんだけど、選んで選んでその数。

週末かけて削り落とした。ふみぐらさんの言葉にはふみぐらさんの世界が拡がる。それは私はあこがれるけれどなかなか私の言葉でなにか書ける物じゃない。それでも何か私の言葉とリンクするもの、という基準で選び直した。

18、それでも残った。(ちなみに読み切れてないのはまだ200くらいある)

本当はもっとふみぐらさんらしさ全開!ってエッセイも沢山ある。「土」という話は他のエッセイにも沢山出てくる。

ただ、「覚えていない」けど「土になっている」というところは心から分かります、ってつぶやいたもの。私はあんまりいろんな事を覚えていない。覚えていないけれどちゃんと自分の何かになってる。それを再確認させてくれた、そんな一編です。


サラさん、推し文庫・・・じゃないや(笑)寄せ文庫のスタッフの皆様、頑張ってね!!!


こちらもまだまだ、みなさんの一本をお待ちしております。


サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。