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つなぐもの (5)

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       つなぐもの(5)これ。
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       つなぐもの(7)

「渡辺みなみです、って、知ってるのよね」

「会う時間をありがとうございます、結海です。」

みなみさんはにっこりした。

「もう大学生だったんだね、私のこと探してくれてた?」

「ええ・・・まぁ。でもみなみさんは私達のこと知ってるかどうか、会いたくないって思ってるか、もしかすると嫌われてるかもって思ってたので、うちの親には確認してなかったんです。」

両親、という言葉は辛うじて避けた。


みなみさんはちょっと外を指さし、歩こう、と 言葉ではなく促した。
初対面みたいな距離感ではなく、また堅苦しいわけではないその仕草をステキだなとちょっと思った。ショッピングモールの建物をでたところにある中庭には少し植え込みもあって、その周りにテーブルと椅子もいくつかあった。買ってきたランチとか、食べることができるのだろう。

「私のこと、なんてきいてたの?」

隣をあるくみなみさんが、そのうちの1つのテーブルを選び腰掛けながら聞いてきた。

「お姉さんが××にいるよ、って・・・中3のときに言われたんです」

「中学生の時かぁ。誰に?」

「お父さん、そしてお母さん」

「そっか。・・・お父さんは変わりなく?」

「はい、お陰様で。・・・会うことは無いんですか?」

「何年くらい会ってないかなぁ・・・そろそろ10年になる?私の母がね」そう言って、みなみさんは言葉を止め、私の方を改めて見た。

「そのことは、聞いてる?」

「いいえ、何も。お姉さんがいる、ってことと、あと数年前に私が母に聞いたら母はお姉さんに会ったことがないってことだけ」

みなみさんは小さく深呼吸をしたみたいだった。
そのまま、つっと立ち上がると、そこにあった自動販売機の前に行き1本のミルクティーと1本のフルーツ牛乳的なビンを買って戻って来た。

「どっち?」

「あ、じゃ、こっちを」

フルーツ牛乳を受け取ると、みなみさんは笑って

「最後にお父さんに会った時ね、お父さん同じような2本を買ってくれてどっち?って聞いてくれてね。私がフルーツのがいい、って言ったら こっちはお父さんのだ、っていうのよ?ひどいよね」

ああ、もう。お父さん子供じゃないんだから。
でも同時に みなみさんは同じお父さんを知ってて覚えてるんだ、と思った。嬉しいような苦いような、熱い変なものが胃の下の辺りからせりあがってくる感じがした。

二人でそのまま植え込みの側の椅子に腰掛けて前を見ていた。木陰なら暑すぎず気持ちいい、そんな初夏の天気だった。かちん、とプルタブをあけて二人でひとくちずつ、冷たい飲み物を口にした。

「・・・多分、私達知らないことばっかりだよね」

みなみさんはしばらくしてからため息をつくみたいにつぶやいた。そう、知らないことばかり。両親がどうして出会ったとか、どうしてみなみさんと私達は別にいるのかとか。

「私も母からあんまり聞けなかった、っていうか、10年くらい前にもうお父さんにはあまり会うことはないよ、って言われてから聞いちゃいけないのかなって思ってね。でね、結海ちゃん。あ、結海ちゃんって呼んでいいかな?」

「もちろんです。私なんて、最初からみなみさん、って呼んでる・・・」

「ああ、大丈夫、嬉しいから。でね、結海ちゃん。正直に言うね、私まだ、ぐるぐるぐちゃぐちゃしてるの。なにが自分の中でぐちゃぐちゃしてるかも分からないのに」

みなみさんの仕草は ひとつひとつがゆっくりで綺麗だった。そんな表現おかしいかもしれないけれど、私にはないゆったりしたリズムが優雅に思えた。
それに、正直私もぐるぐるぐちゃぐちゃ、まさにそんな感じだった。どこからこの絡まった糸をほどき始めて良いか分からないようなかんじ・・・。

「会ったこともなかったのに。ひどいよね」

同じ事を考えてきて同じ事を今思っている。
違う所で違う生活をして、同じように心の中の小さなしこりとして抱えていたんだ。会ったこともなかった私達。血が繋がったひと。
気にしなくても毎日を過ごせるけど、何もありません、とは言えない小さな心の中のしこり。


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たなかともこ@ツレヅレビト
サポート戴けるのはすっごくうれしいです。自分の「書くこと」を磨く励みにします。また、私からも他の素敵な作品へのサポートとして還元させてまいります。