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ポンコツの所以

前の記事で、私自身のディスレクシア(識字障がい)のことを書いた。

これは第三者に診断してもらったものではなく、自分の感覚(一応診断関連のものは目を通している)と評価によるのだが、あの記事で「?」と思われた方がいるにちがいない、と思っていたので一応書いておく。

一般に知られるディスレクシアというのは小学生くらいの年令が主だ。
もちろん、高校〜大学生で診断されるケースもある。


だが、どう考えてもおかしかったのだ。

どんどん本を読むのが辛くなった。怠惰とかそういう理由を加えて考えても、「文字が認識出来ていないらしい」とあるとき理解出来てしまったほどに、読んでいた行が「みたことのない記号」として感じられた時があったのが、第二子出産後2−3年たったときだろうか、だから30代半ば。

「文字」ではなく「何かの記号」として感じられたときの恐怖を忘れられない。それこそ文字通り目をぎゅっと閉じ頭を振ってもう一度本に目を戻した。今度は文字として見えた。書かれている内容も理解できた。

ただ、集中して読んでいるうちに思考の一部が他のものに置き換えられ始める。気が散っているのかと思った。でもそれとも違うのだ。読み過ぎて疲れた、と言う感覚の方が近いだろうか。でも読み始めて15分くらいしか経っていない。それで疲れるとはどういうことだ?
これが最初の感覚だった。


ぼーっとしていると人の話が上滑りしている、という表現をすることがある。文字通り話されている言葉が「脳の表面を滑っていく」感じで理解が出来ていない。
難解な内容の話だと そこの説明が私の理解できる「知識の格納庫」に入って行かなくて脳の表面に漂っていることがある。(比喩です、もちろん)それでも基礎知識や既に得ている情報などに一部が繋がると、するすると格納部分を見つけてそれらが入って行くことはある。

だが「読めない」ときの私には、文字は脳の表面にまで達することがない。言ってみれば目の網膜を通ったとき、脳の中の「文字」としての認識部位にまわされるか「図」としての認識部位に回されるか「アート」としての認識部位に回されるかの振り分けがされているのだが、その振り分け部分が不具合をおこして渋滞を起こしている感じだ。

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どうやら成人でのディスレクシアというのはあるらしい。ただし、どのくらいの人がもっているかとか、発症機序(あるいはそれまで見過ごされていたのかとか)などがとてもわかりにくく、まだ研究段階のようだが、様々な研究で5−10%程のひとが持っているのでは、と推察されている。

症状として成人のディスレクシアはこんな所に症状が出る、として挙げられている。

reading 読書
completing math problems 数学の問題を解く
memorization 記憶する
time management 時間管理

もちろん、ここから派生することに問題が出たりする。約束を忘れる、時間の読みが甘くなる、文章を読んで理解することができない、文章のまとめができない・・・

※ちなみに、識字の問題以外に短期記憶の低下も認識している。・・・怖いなぁ、もう。他の病気だったら怖いよう。あ、時間管理は比較的OKだ。

もちろん、「老化」の一症状と取るのが一番説明しやすいのかもしれない。実際老化でこういうことはみられるし、脳血流低下でこれらを説明もできることは容易に想像できる。
あるいは読書が出来にくくなった時期を考えれば妊娠・出産による(血栓ができやすくなるし、体内の循環動態自体が全く通常と異なるから)部分的脳虚血での一部機能が失われた、というのもあってもおかしくない。

だが、いずれも「原因」「機序」を考えたところで、回復は難しい。

もう10年以上文章を読むことを強制タスクにしてみたが、すらすら読めるようになった、という実感はまったく無い。むしろ「定規を当てて読む」などの補助が役立つことを自分で見つけた。


私は医者として「患者さんが普段の健康な自分ではない、と感じる状態が病気」と考えている。だから自分のこの状態も病的と捉える。
ただ、それを抱えて生きる事は出来る。どうしても読むべきものならば時間をかけて読むし、視力や身体の調子(疲れていて読み切れないなど)によっては、子供にサマリーを聞いたり(まぁこれは英語の文章が主だが)する。
メモを取る。少し大きめの文字で読む。そういう対処・補助は自分で出来る。

ディスレクシアが成人にあるかどうか、その発生機序・・・なんかは、いろんなところに考慮すべきポイントが多いので議論が尽きないのだろう。それでもいい。私は「短い言葉で状況を端的に示せる」ものとしてその言葉を使うことを選んだ。

それがあるから許して、とか、特別に時間をくれ、なんて他人に言ったことはまだない。まだ今の自分でなんとかしている。治療も常識レベルで考えて「まぁないよね」と思っている。

あの記事ではただ、「わたしはポンコツなんです」といいたかった、それだけなので・・・・


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たなかともこ@ツレヅレビト
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